プロローグ
[茜色に染まる教室の中は、日中の騒がしさが消え去り、まるで僕と鈴[りん]が日常から非日常の、まるで二人だけの世界に迷い混んだように静まりかえっていた。
いつもはただただうるさい鈴なのに、今日は鈴じゃないみたいに静かだ。
夕陽に染まった鈴の横顔は今まで見てきた鈴よりも大人っぽく感じた。
鈴『ねぇ、まるでこの世界に祐希[ゆうき]と私のたった二人しかいないみたいだね。』
『うん…。』
振り向いてにっこり笑う鈴に気付かれまいと、慌てて目をそらす。
今が夕方で本当によかったと思う。
きっと僕の顔は、リンゴも真っ青になるくらい真っ赤だったと思う。
鈴『もし、もしもだよ。私たち以外の人類が滅びて、私たち二人っきりだったとしたらどうする?』
鈴はいつもの人懐っこい笑みで聞いてきた。
『僕たち二人だけか…』
鈴『うん、二人だけ。』
『…僕だったら旅に出るな。』
鈴『旅?』
『うん、旅。だってもしかしたら誰か残ってるかもしれないし、残ってなかったとしても、どうして僕ら二人だけこの世界に残されたのか気にならない?それに…』
鈴『それに?』
『…それに…鈴と一緒に色んな所をまわってみるのも悪くはないかな……なんてね…。』
きっと僕の耳まで真っ赤だろう。
鈴『…バカ』
鈴がプイとそっぽを向いた。
気のせいかもしれないが、そっぽを向いた鈴の耳がほんのり赤くなってる気がした。
何ていとおしいのだろうか。
僕は気がついたら鈴の頬にキスをしていた。
鈴『なっ!?』
『うわっ』
僕は慌てて身を引いた。
鈴『な、な、な…』
僕でも明らかにわかるくらい鈴は真っ赤になっていた。
鈴『じょ、冗談でもやめてよね!』
鈴は真っ赤になりながら、テンパっていた。
『…僕が冗談でこんなことすると思う?』
鈴『ぁ…うぅぅ…』
鈴はプシュゥとさらに赤くなり、へにゃへにゃと座り込んだ。
鈴『…なんで、こんなことしたの?』
『…』
僕はすぐには答えられなかったけど、きっとこの気持ちは…いや、そうだ。
『僕は鈴がすきなんだ。たぶん…いや、ずっと前から。』
鈴『…うん。』
鈴はそう言うと僕の顔に近づき…
僕の唇にそっとキスをした。
時間としては一瞬だったかもしれない。
でも、僕と鈴の間には永遠に続くような甘美な時間が流れた。
そっと唇を離すと鈴は
鈴『仕返し!』
と、顔を真っ赤にしながらにこやかに笑った。
僕は]
突如頭を捕まれた。
「や~が~み~いぃぃぃ」
静かな怒りがこもった声と共にギリギリと頭が悲鳴をあげる。
「いだだだだだだだだだ!!!」
頭蓋骨から脳みそが『こんにちは!』と元気に飛び出してきそうな勢いで締め上げられる。