表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

俺は自衛隊と戦った

 翌朝。

 俺は朝の光を反射して煌めき流れる川を見ながらキラーと俺は話をしていた。


〈なあ、あれはどういう意味だよ〉


 赤音の彼氏じゃない発言。

 キラーは分かっていなかったが、俺にはなんとなく分かった。多分だけど――あれは友人の話だ。

 友人の彼氏が浮気をしていて、そのことを問い詰めたのだろう。見た目に反して律儀な奴だ。


〈へん。人の為に自分の人生を犠牲にしたのかよ、あいつは……〉

「だね。そう言えばキラーに聞きたいことあったのに、聞けなかったよ」

〈なんだよ、改まって〉


 今、俺が聞こうとしている事よりも、優先して問うべき、知るべき疑問が沢山あった。

 正直、これは聞くべきではないのかも知れないけど――でも知りたい。


「君、若菜好きでしょ」


 俺は誰が誰を好きになろうと興味はない。

 だけど、自分のことだからねぇ……。


〈な、な、俺は誰も好きにならねぇ……〉

「分かりやすいね、俺は」


 若菜とは幼馴染だったが、俺は付き合いたいとは思わなかった。と、言うよりは、俺の世界の若菜には彼氏がいた。

 中高とモテてたから、俺の入り込む余地は無い。


〈悪いかよ!〉

「いや、好感が持てるよ。少なくとも俺自身はね」

〈その俺が俺なんだろって〉


 並行世界の俺は俺なのか?

 容姿は同じだけど全然違う――つまり別人だよな、これ?


〈ま、俺はお前とは全く違うけどな〉


 それはキラーも感じているみたいだ。

 だから――何故、俺はこの世界に来ているのか。意味もなく転生するなんて、あり得るのか?

 娯楽要素の強い漫画小説を参考にするのもどうかと思うが……。

 実際に転生なんて――考えたこともない。

 案外こんなもんあのかな。


「ましてや……異能バトルって」


 幸いにも殺領域ワールドキラーは条件はあるが強い。

 まず、領域内ならば怪我が治る。回復はゲームや漫画では微妙な感じはするが、これは現実ではかなり助かる。だけど、一撃で殺されたら意味ないから気を付けよう。

 そして相手の力は奪うが、自身の力は上げる効果。

 まだ、一回しか使っていないが、あの領域内なら負ける気がしない。

 だけど――それだけの力をもって、何故、キラーは『我道自衛隊』から逃げたのか……。

 

〈欠陥が発生したばかりの赤音かおんがいたし、何より若菜を巻き込みたくなかった〉

「そうだろうなとは思ったよ」


 意外にいいとこあるじゃん、キラー

 戦わないでいいなら――俺もそっちがいいや。

 争いは嫌いだ……。


〈それより――気を付けろ。あいつら『我道自衛隊』だ!〉


 そう思っていた矢先――キラーが俺に告げる。

 視界の先にはゆっくりと歩いている二人の男。自衛隊と付くだけあって、迷彩柄の軍服を着ていた。

 だが、彼らは俺の知っている自衛隊とは少し違う――顔には仮面を付けていた。

 白い仮面に描かれているのは王冠の様なマーク。


「あの王冠は……?」

〈我道のシンボルだ……〉

「へえ、カッコイイじゃん」

〈そこは同感だ〉

「で、どうすればいいの? 言っておくけど、俺は喧嘩とかしたことないぜ?」

〈ああ、とりあえずは、赤音かおんを起こせ〉

「分かった!」


 俺は『我道自衛隊』から目を離さないように、赤音の元まで戻る。

 二人は何やら話しながら俺達の方へと近づいてくる。


「赤音!」


 今の状況で全く関係ない話ではあるが、俺は自分の来ていたシャツを赤音のスカートに被せていてる。

 スカートはミニのまま寝るから、見える見える。橋の下の僅かな隙間で寝ている彼女。人目に付きにくいとは言っても野外だ。もっと、恰好には気を付けろよな。

 昔、そこで暮らしているホームレスを目撃した為に、こうしてここで眠っていたのだが――女子高生には辛いだろう。


「うぅ。体が痛い……」


 まだまだ、眠いのだろう。

 朝6時。

 俺はこの時間に毎日起きているので、習慣になっているが、高校生はこの時間はまだ寝ているか。


「起きろ、『我道自衛隊』だ!」

「え、ええ!」


 その言葉に跳び起きる赤音。


「え、ちょっと、逃げなきゃ!」


 1人で走り出そうとする赤音を落ち着かせる。


「落ち付けって。相手は二人だ……」

〈二対二なら――勝てる!〉




 橋の下で向かい合うと、高校生の喧嘩のようだな。

 しかし、相手は当然ながら、高校生では無い。

 自衛隊だ。

 仮面で顔の見えない『我道自衛隊』は――足に付いていたホルスターから、拳銃に似ている何かを取り出した。


「……つか?」


 彼らが構えているのは武器なのか?

 まあ、俺に向けてはいるので、武器ではあるんだろうけど。

 レイピアの柄の形をした、しかし、相手を攻撃する部分である剣先は付いていない。

 その構えは銃を向ける姿に酷似していた。

 

〈避けろっ!〉


 俺はキラーの合図と同時に、両手で赤音を突き飛ばす。その反動を利用して、自分も横に倒れこんだ。

 

「やっぱ、銃なんだ」

〈相手までの距離はおよそ十メートルか……〉


 それじゃあ、殺領域ワールドキラーの範囲外。

 

「ええと、そういう場合はどうすればいいのかな?」

〈間合いに入ればいいんだよ!〉


 簡単に言ってくれるが、相手の武器は拳銃。しかも、見る限り弾を補充するタイプではなさそうだ。

 弾丸を入れる場所が遠目でもないのが分かる。


〈あの武器はな。『我道塔』から送られたエネルギーを濃縮して放つ武器、威力もあるからかなり厄介だ〉


 気を付けろと言われてもな……。左右に分かれた俺と赤音を、それぞれ一対一で相手にしよういうのか。

『我道自衛隊』――いくら俺達が欠陥でも――いきなり銃弾を撃って来るなんてな。この分だと、赤音が言ってた事は本当なのか。

 

「キラー。何かいい方法ないの――領域を広げるとか!」

〈そんな機能、殺領域ワールドキラーには付いてねぇよ!〉

「それじゃあ、今までどうやって逃げてきたの?」

〈俺は基本二人一組で行動してたからな!〉

「へえ」


 二人一組か。

 今の現状も一応は俺と赤音。二人いるにはいるが――赤音は自身の欠陥バグを上手く使いこなせていないのか、火の球を振り回しているだけ。

 時間稼ぎにはなっているけど、いずれは突破されてしまうだろう。


「何とか半径3メートル圏内に入らないと……」


 条件1の人に触れる。

 それは既にクリアーしている。最初の銃弾を避けた時に――赤音に触れた。

 だから、あとは無機物に触れれば能力は発動するが、今のこの場所は、赤音からも離れてしまっているし――『我道自衛隊』の領域内にいない。


〈全員まとめて領域に入れねぇとな〉

「分かってるよ!」


 しかし、銃弾を避けながら、その行動を実行できるほど――俺は優れてなんかいない。


「何かいい方法は……」

〈俺が体使えたらなぁ〉


 そこで言いにくそうに、この案はできれば使いたくないと言わんばかりに、キラーがぼそりと呟いた。


「何?」

〈気になる?〉

「そりゃあ、気になるさ。俺だって命がかかってるんだ」

〈いや、まあ、俺だったらだよ? あの銃弾、急所に当たらなければ、1、2発なら耐えられる。なら、一か八かで突っ込んで、殺領域を発動させる〉

「……」

〈おっと、だからと言ってお前はやるなよ? 戦い慣れてないお前が、銃弾を見切るなんて出来ないだろうし――なにより、お前が死んだら、俺も死ぬ〉


 いや、言われなくてもやりたくないんだけど――今は手段を選んでいる場合では無いよね。


「ま、楽して助かる命は……」

〈俺は許せないな……。ま、お前は俺だ。上手くいくだろ〉

「だから、別人だってば」


 少なくとも俺には銃弾を受けるなんて発想は無い。

 だって、絶対痛いじゃん。


〈怯むなよ?〉

「それはやってみないと……」

〈少しでも足を止めたら終わりだ〉

「分かったよ!」


 そうして俺は一直線に走り込む。


〈なっ!?〉


 その相手にキラーが驚いた声を上げる。

 俺が走ったのは『我道自衛隊』の相手では無く――赤音にだった。


〈馬鹿っ! 確かにあいつに触れてるから領域は出せるけどよ、それじゃあ、肝心の敵には届かねぇぞ!〉

「大丈夫……!」


 俺は半径3メートルぎりぎりの位置で領域を発生させる。

 その赤い円にいる間の力は何倍にも上がる。

 ならば、その領域内に置いて、強化された俺の肉体を使って――赤音と戦っている『我道自衛隊』に思いっきり突っ込む。

 ホップ、ステップ、ジャンプではないけど、一息に『我道自衛隊まと』に向かって駆け飛んだ。

 俺自身の走り幅跳びの記録は分からないけど――例え領域の外に出ても、一度ついた勢いまでは消えない。


「ロケットスタートって奴だ」


 左肩に銃弾が掠ったが、この程度なら耐えられる。


「条件1!」


 急激な勢いで突っ込んだ俺に怯んだ『我道自衛隊』。

 左肩は負傷してしまったが、右手は普通に動く。俺はその勢いを利用した右の拳を『我道自衛隊』の仮面めがけて振りぬいた。手ごたえは確かにあった。意識を失ったのか、倒れてピクリとも動かない。


「条件2!」


 またも領域を発生させる。

 殴りつけると同時に俺の欠陥バグの条件1を満たしたのだ。最初の条件さえ満たしてしまえば、無機物に触れるなど、すぐに出来る。

 赤い領域が現れ江、傷が癒える。

 万全な状態へと回復した俺は、さっきと同じように駆け飛ぶ。

 この間、数秒なのだが、『自衛隊』と付くだけあって、即座に俺に向かって残った一人が銃弾を放つ。

 しかし、そんな咄嗟に撃った銃弾が当たるような事はなく、無傷でもう一人を倒せた。

 俺は、急いで赤音の元へと駆けより、腕を掴んだ。


「赤音、逃げるぞ!」


 俺は走って赤音の元へ戻り、橋の下から、争いの現場から離れようとするが――キラーが止めた。


〈おい、まだあいつら生きてる……とどめ刺してけ!〉


 とどめ?

 その必要はないだろう。動けない相手を殺す必要はない。


「命まで奪う必要はないでしょ?」

〈馬鹿! お前ら欠陥バグ見られえるんだぞ!〉

「見られて何が悪い?」


 欠陥バグを知られたからと言って、何が問題だというのか。


〈とにかく殺せ。じゃないと絶対後悔する!〉

「別に後悔しても良いよ、人を殺すくらいなら」

〈あ、おい。どこいく、殺せないなら俺が殺すから、体変われ!〉


 キラーが何か言ってるが、俺は気にせず赤音を連れて逃げる。頭の奥で聞こえる声を聴き流す技術を――俺はどうやら手に入れた。



「あれ? らしくないね、生良兄きらにい


 いつものお兄なら、ヤケクソ気味に突っ込んでいったのに。

 小細工使うなんてお兄らしくないな。

 気合だけで乗り越える。

 そんな錆びついた列車みたいなお兄が好きだったのに。

 

「それに、欠陥バグを知られたのに、相手を生かしておくなんて――ありえない」


 私は意識を失ったままでいる『我道自衛隊』の元へ行き、その首元に手を当てる。ただそれだけの動作で、二人の人間が瞬間的にいなくなる。

 

「こんな地方都市で欠陥バグが二人見つかったって言うから、もしかしたらお兄の地元だし、急いで来たけど……ビンゴじゃん」


 待っててね生良お兄。

 

「また一緒にいようね」


 私は浮き立つ気持ちを抑える事が出来ない、ルンルンと浮足軽く、その場を後にする。


 ドン。


 何かが、それなりの重量物が地面に落ちた気がするけど――私は気にしない。

 だって、それは私がやったんだもん。

 落ちてきたのは『我道自衛隊』の二人だから。


生良兄きらにいの為になら、何でもするよ?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ