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俺は励まし励まされる

一時間後、研究室に集合する約束をして、俺はヘレンと別れた。豹太を外に送り出すことと、――色々と準備があるそうなのだ。

 女子の準備は時間がかかると言うから、一時間くらいは普通なのだろう。

 

「どうしようかな……」


 一時間。

 それは短いようで長い時間だ。

 やることの無い俺にとっては長いので、自分の部屋にでも戻り、少しの間休息を取ろう。そう思って部屋の前に戻ると一人の女子高生――赤音かおんが座っていた例の如くに短いスカートで、体育座りをしているので、まあ、見えてますわな。


赤音かおん?」


 俺は見えているアレを見ない様に、上を見上げながら、座っている赤音に声をかける。赤音は俺の声に気付いて、ゆっくりと顔を上げて立ち会がり――力なく俺に抱き着いた。

 これは、抱き着くよりも、ただ倒れて俺に寄りかかるだけ。それ程までに力の無い抱擁だった。


「生良……私」


 まだ会って二日。赤音のことを全ては知れてないけれど、しかし、野宿しようとも、『我道自衛隊』との戦闘でも、ここまでの弱さを見せなかった。

 俺と別れてから数時間。

 その短い間に一体何があったのか?


「欠陥者になんてなりたくなかった」


 そんな赤音を部屋の中へと招き入れた俺。

 適当に座る様に促すと、俺のベットに腰かけて、開口一番にそう言った。

 

「なんで、そんな急に?」


 今まで、そんなこと言ってなかったのに……。


「さっきまで、千里さんと話してて――そこで、欠陥者の話を聞いたの」


 欠陥者は普通の生活はできない。

 脳内にある『我道チップ』を使えば、すぐに場所がばれてしまう。


「かと言って、『欠楽の園』にいれば、戦いや活動をしなきゃ行けないって」


 衣食住を手にする代わりに、『欠楽の園』の一員になり活動をする。つまり、普通には生活出来ないけど、何とか暮らすことが出来る。

 その暮らしを手にする為に――危険にも足を踏み込まねばらならい。

 1人だったらすぐ捕まるだろう。そう考えれば破格の条件ではあるんだろうけどさ。


「欠陥者になった時点で分かってた。でも、千里さんが見せてくれた『我道』に捕まった人間の末路。それを見たら、怖くて……」


 千里さんの欠陥バグ

 千里の黙示。

 その欠陥はどうやら、自分が見た映像を人にも見せることが出来る様で――仲間が捕まった光景を、体を切り裂き、潰され、掻き混ぜられた、その姿を、赤音は見たのだと言う。


「捕まれば私も……。怖いよ、生良」


 震える体を押さえようと、シーツを力強く掴む。

 あの元気な赤音かおんがこんな怯える映像。もしかしたら、キラーも見たのだろうか?

 だから千里さんは、俺には見せなかったのか?


「大丈夫。……とは、言い切れないけど、何かあったら俺が助けるよ」


 本当は赤音を励ますために、嘘でもいいから慰めた方がいいのだろう。でも、俺も自信がない。だから、せめて気持ちだけでも分かってくれれば充分だ。

 

「生良……」

「俺も赤音かおんには助けられたし」


 知らない世界の欠陥やら、なんやらで困ってた時、一緒に行動してくれた。それは偶然だし、成行きだったかもしれないけど、俺には嬉しかった。


「だから、今度は俺の番」

「……? 私が助けた?」

「それはこっちの話だ。とにかくさ、俺もこの並行世界で頑張るから。赤音も自分にできる事を頑張ってくれ」


 俺は震える赤音の頭に軽く手を置いて、ポンポンと優しく叩いた。


「私、子供じゃないし――ペットでもないんだけど?」

「励ましてるんだから素直に受け取れよ」

「いーえ、そんな子供みたいな扱いは、あのエロちゃんにでもやるがいいわ! 私は大人の色気漂う――そう、千里さんみたいになるのよ!」

「それは何年かかっても無理だね。あと、ヘレンをエロちゃん言うのやめろって」


 また喧嘩になるだろ。


「大丈夫! これから、千里さんの私の欠陥バグの扱い方を教わるから! 上手く使えるようになったら、あんな子供エロちゃんなんて、一捻りよ!」


 どうやらいつも通り、元気な赤音に戻ったみたいだ。

 

「それは逞しいな」

「よーし、何か元気出たぞ!」


 肩を回して、立ち上がる赤音。

 

「……」

「どうした?」


 俺の顔を見て固まった様に動かなくなる。無理して明るく振る舞っていたのかと思ったけど、そうでは無い様で、


「……ありがとね」


 と、小さな声でそう言った。

 改めて、面と向かって礼を言うのが恥ずかしかったのか、俺から僅かに顔を反らしている。


「礼なんていいって。困った時は助け合いだろ?」

「だから、私は別に、助けったつもりは無いってば」

「なら、俺も助けた気は無いってこと」


 それでも助け合いだ。

 

「ま。いつもの元気な赤音かおんちゃんに戻ったから、早速、千里さんとの修行に言ってくるぜい!」

「自分で元気な赤音ちゃんとか言うなって」


 精神年齢低く見えるぞ?

 『魔法少女なんとか』みたいな事を、幼女がいう感覚?

 赤音もそれを感じたのだろう。


「真っ赤に燃える魔法少女――関根 赤音。参上!」

「なぜ、名乗りを上げる」


 まず、もう魔法少女って年じゃないし、魔法使いじゃなくて欠陥者だから、俺達は。

 能力は魔法じみてるかも知れないけどさ。


「いや、そうした方が強そうかなーと」

「むしろ弱そうだ」


 名乗ってる最中に殺されそう。

 なので最近のヒーローは変身中も、攻撃を防ぐ機能が付いてたりする。弱い相手なら、その機能で倒せてるしね。


「むむ。所でさ、生良はこの後どうする訳? もしよかったら一緒に修行しようよ!」

「俺もそうしたいんだけどさ」


 もっと自身の欠陥を使いこなしたい。だけど、これからヘレンと一緒に『我道』の研究所やらに言って、人助けしないと。できれば、行きたくもないけど――あの、赤音の怯えようを見たら、余計に豹太の彼女を放っておけない。


「え、エロちゃんと一緒に行動するの?」

「まあ、そうなるね」

「むすー」


 あからさまにむくれる赤音。

 女子高生が頬を膨らませるなって。


「私を差し置いてエロちゃんを取るんだ」

「そういう訳じゃないけど……。俺だって乗り気じゃない訳だし」

「じゃあ、なんで行くし?」

「えーと――人助け?」


 赤音に豹太の事を説明する。

 恋人が捕まったこと、その恋人を助けるためにヘレンと行動すると、赤音に教えた。


「い、意外にいいとこあるじゃない、エロちゃん」

「だね、そこは否定しないよ」


 人助けと分かったからか、特にそれ以上は問い詰めてこなかった。むしろ、応援してくれるようで、


「絶対にその彼女さんを助けて、結婚式に出席しようね」


 なんて言い出した。

 仮に豹太が結婚式やるにしても、多分俺達は呼ばれないし。欠陥者の彼女が――普通に暮らせるとは思えない。

 しかし、そこは本人たちの問題だ。

 ヘレンじゃないけれど、二人の『愛』とやらを信じるしかない。


「うん。生良も大変みたいだし、私はこの辺でお邪魔するね!」

「ああ、赤音も頑張れよ、修行」

「頑張るでござるよ、ニンニン」


 忍者のポーズをしながら部屋から出ていった赤音。

 研究所で行われたと言う欠陥者の研究。

 それを何とかして止めないと。


「戦いたくないよな」


 そう思ったとき――父さんが言っていたことを思い出した。

 守る事も戦いだと、争いも何かを守るためだと。

 もしもそれが本当なら――争いを無くすには守る物を無くさなければならない。それが、できないからどの世界も争っている。

 

「俺の守りたいモノか……」


 守りたいモノなんて、良く分からないけど、でも――豹太が彼女を守りたいのはよく分かる。知っちゃった以上、俺はそれを放っておけないし、助けたい。


「とにかく、頑張ろう」


 自分にできる限り頑張ってみようと、俺は覚悟を決めて研究室へと向かった。 


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