俺は復習した
与えられた部屋の中に入ると、人が暮らしていたとは思えない程に何もなかった。キラーのことだから、てっきり汚い部屋に住んでいるだろうと、下手したらゴミ屋敷ぐらいの部屋だと思っていたんだけどな。
「はー、疲れた」
〈俺もだ。なにがどうなればこんなことになるんだろうな〉
「知らないよ」
何回考えても答えなんて出ない。
部屋に備え付けられていたベットに倒れ込んで、俺は目を瞑る。
「キラーは、『欠楽の園』に入る前は、俺と同じで工場で働いていたんでしょ? そこから、欠陥者になって――どうだったの?」
〈俺の時は……、まあ、赤音と同じだよ。たまたま休みでぶらぶらしてたら、欠陥者になって、千里に拾われた〉
「いや、俺が聞きたいのは欠陥者になった経緯じゃなくて、その後どうしたのかなんだって」
いや、キラーが欠陥者になった経緯も知りたいは知りたいんだけど、今俺が知りたいのは――欠陥者になった時のこと。
普通から外された俺がどういった行動をしたのか――人を殺すまでになったキラーは、どういった経緯でそうなってしまったのか。
〈だから、この世界じゃ普通なんだって。どーせ、千里も似たようなこと言ってただろ?〉
「だけどさ……」
普通なんて言葉で片付けられない俺。
昔、父さんからこんな言葉を聞いたのを覚えてる。
俺が中学生の頃。
制服なんて周りと同じ服装を着せられるのが嫌いだった。制服なんて個性を消して生徒を統一させておきながら、
「人間は、第一印象が大事だ」
何だよ、全員同じじゃなければ駄目なのかと、若かりし俺は、そんな先生達が嫌いだった。
反抗の意味を込めて制服を着崩していた俺は決まって、
「人は見かけで判断しちゃいけないんだろ?」
と、得意げに答えていたが、大人に成った今なら分かる。
普通とかじゃなくて――簡単な規則も守れない人間に第一印象がどうとか、見かけがどうとか――そんな権利はないんだと。
俺が過去の自分を思い出している間も、キラーの話は続く。
〈それに、我道 不折が悪いんだ。欠陥者を悪として研究しようとするから。しっかりと規則を決めて、人間として扱ってくれたら――欠陥者だってこうしてない〉
「……」
そうなのか?
もしも、人に使えない力を、世界の頂点に立つ男でも理解できない力を持った人間が――果たして何もしないのだろうか?
俺がこの世界に来て見てきた結果。
俺自身の殺領域。
赤音の恋心。
ヘレンの瞬甘移動。
千里さんの千里の黙示。
どれを見ても、普通じゃあり得ない。一歩間違えれば犯罪に使える――人を殺しかねない力だ。
そんな物をもしも犯罪者が使えば、完全犯罪の大安売りだ。
それを見越して、あえて悪と位置づけたなら――我道博士は悪なのか?
〈難しいこと考えんなって。いいんだよ、やりたいようにやれば〉
「だからそのやりたいことが無いんだって」
争いたくない。
巻き込まれたくない。
それが俺の正直な気持ちだ。
「なら、その為には……」
俺はこの世界に付いてまだ何も知らない。
なら、知っていることを整理しながら、キラーに色々教えて貰おう。それからやる事を考えてもいいか。
そうすれば必然的に仕事が出来る。
動いている間は考えることもないだろう。
「まずは地理だね」
この世界では、大陸によって6つに分けられている。
俺の世界でいう所の5大陸によって分けられていた。分けられると言っても国の境では無く、ただ単に地形の問題だ。
言語はほぼ日本語で統一されている。
しかし、脳内にある『我道チップ』があれば、言語が違く手も会話は行える。
「それが、我道 不折の掲げる、均等された地球計画だね」
〈ああ、その為に大陸に一つ『真我道塔』が建っている〉
「それは若菜から聞いた」
そう言えば若菜は元気にしているだろうか。
俺が欠陥者だとばれてしまった以上、もう二度と会えないだろう。
「キラーに悪い事しちゃったかな?」
〈はん。そんなもん、欠陥者になった時からとっくに覚悟してるぜ?〉
「また強がりを……」
〈強がりじゃねぇ!〉
一つの地球。
そんな歌がありはしたけど、実現しようとする人間が居るとは……。しかも、そのまんまの意味で。
「それで、キラーからみた均等された地球はどう?」
〈ああ、別に違和感なかったさ。その輪の中から外れるまでな〉
全員が同じグループに所属しているんだ。
そのグループから除外された時――見方はほとんどいない。
だからこそ、こうして『欠楽の園』が作られた。
「はあ、なんだか学校みたいだね」
〈そんな気楽じゃねぇよ〉
「それでさ、大陸で分けられてるけど、何か特徴あるの?」
均等化とは今俺が居る日本のようにすべての国がそうなっているのか。
例えばアフリカ。
俺の世界では厳しい自然はあったが、こっちの世界ではどうだろうか。
〈こっちでも同じさ。均等された《ワンアース》計画は何も全部を一緒にするって訳じゃねえ。良い所だけを残した、底上げ計画何だからな〉
平均点を上げるには――あからさまに悪い成績を上げる方が簡単だ。
10段階で7から9、10に挙げるのは難しいが、3から5なら、容易いだろう。そんな発想でやっているのか……。
「やっぱ、想像できないな。我道博士の求めてるものは……」
ネットで調べた我道博士の写真は、モデルみたいに爽やかで、長い髪を後ろで縛っていた。
顔も良くて、頭も良いとか。
それもただ「良い」のでは無くて――世界の頂点にいる博士だ。
俺がキラーとそんな話をしていたときに、俺のカード型の端末に電話がかかって来た。
この薄いカード一枚で、ネット、電話が出来るなんてな。改めて我道博士の凄さを実感しながらも、電話に出る。
「もしもし?」
俺に電話を掛けてきたのはヘレン。
カード型の端末に表示された名前を見て俺は思い出す。
そうだ――俺は彼女に謝らなきゃいけないんだ……。例え、欠陥者と『我道自衛隊』が対立関係にあっても、俺がやるべき事を、俺の為にヘレンはやったんだ。
「もしもし、生良兄?」
「ヘレン、伝えたいことが……」
俺が謝ろうとしたが、ヘレンは急いでいるらしく、自分の用件だけ伝えてくる、
「今から、会える? 生良兄の部屋は4階だから……3階にある食堂に今すぐ来て!!」
そう言って電話が切れた。
「なんか急いでたな……」
〈ま、言いたい事があるなら直接言えばいいだろ?〉
「それもそっか」
俺は言われるままにベットから跳ね起きて、部屋を出る。
平凡に生きると言う目標。
しかし、それは欠陥者にとっては難しいと俺は実感する事になる。
次回から章が変わります。
本格的に話が進んでいきます