1-8
ノートを鞄に入れ、照明を消し、髪を束ねてからベッドにもぐりこんだ。
布団の中から部屋を見る。真っ暗だ。
―またあの格納庫になってないといいんだけど。
部屋の様子がまったくわからない。
目が慣れてくる気配もない。
したがってここが別の空間になっているかもしれないということが頭をよぎる。
セリナは布団をかぶり、固く目を閉じた。
―目が覚めたら、ロボットのパイロットになっていたりして。
いやいや、まさか……。
寝付けない。
このまま眠れなかったら、明日は遅刻だ。
パパもママンも、もう眠ってしまったのだろう。かなりの時間がたっているはずだ。
寝返りをうった。
ようやく眠くなってきた。
―またあのSFアニメみたいな夢かな。たまには別のを見たいな。
そこでセリナの意識は途切れた。
体中に強い痛みを感じ、目を開けた。
またあの格納庫にいた。今度は扉、いやエアロックの正面に立っている。
「いやー! まただーっ!」
扉を開けようとボタンに手を伸ばしたが、途中で動きをとめた。
「今度もまた、あぅぅ……」
もう何の疑問も浮かんでこない。今日、何回この夢を見ればいいのだろう。
改めて自分の体を見直した。同じだ。またあのロボットが自分の体になっている。ため息をつきたくなった。今の自分の顔に口はないだろうけど。
左手には杖のようなものを持っていた。
先端が何かの本で見た『メイス』という打撃武器に似ていると思った。
逆側の先端には槍の穂先のようなものがついていた。
「これ、何に使うの? 武器?」
両手で握り、持ち上げてみると意外と軽いことに驚いた。だが、セリナにはそれの使い方がよくわからなかった。
槍の先端を床につけ、メイスの突起のすぐ下を握った。
手の位置がちょうどセリナの頭の辺りだった。自分の体と比較してみると長さがよくわかる。
「まるで修行僧の、と言うよりモーゼの杖みたい」
杖を握り締め、両腕を頭上高く掲げた。
「海よ、割れなさい……宇宙に海はないんだった。えっと、セリナよ! 夢から目覚めたまえ!」
しかし、何も起こらなかった。
「私、何やってるんだろ」
自分がとった行動がちょっと恥ずかしくなり、セリナはぼそっとつぶやいた。
「こんな馬鹿なことをしているなんて、ずいぶん余裕があるなあ」
慣れてきたからかな、と自分に言い聞かせ納得しようとしている。
外に出ようとしていたがやめた。今回は格納庫の中でおとなしくしていよう、と考え直した。
エアロックに背を向けたとき、突然足元が大きく揺れた。セリナは杖を落とし、両手を壁に押し付け、足をふんばった。
「止まったの?」
こう呟いた次の瞬間、激しい振動が再び襲い掛かった。
セリナは姿勢を保つのがやっとだった。その後もすぐ、三度目、四度目が来た。回数を重ねる度に強くなっているようだ。
ついに耐えられなくなり、倒れてしまった。直接脳内に金属音が響いてくるようだ。
床に這いつくばり、頭を押さえる。わずかに金属の震えが残っていた。
「こ、ここは宇宙なのに、地震? ウソ~」
揺れはまだ続いている。
手を伸ばし、杖を拾う。いつまでも倒れてはいられない。
「ど、どうなってんの?」
杖を支えに立ち上がる。両足に力を入れてないと、また倒れてしまいそうだ。
「外で何か起こってるのかな?」
例のボタンを押せば外に出られるはずだ。
外は無重力で上か下かさえわからなくても翼で移動できるし、姿勢制御ぐらいは可能なはずだ。コツをつかむまで時間はかかるだろうが、実践してみないと何も始まらない。もちろん、不安はあるが。
再びドアの前に立つ。まだ揺れはあるが、少しずつ治まってきているようだ。
指を伸ばし、ボタンを押す。恐怖と好奇心が自分の中で激しくぶつかり合っている。
エアロックに入ると背後の扉が閉まった。
足元の床が急に消えてしまいそうだった。再び大きな揺れが来て体勢を崩し、後ろの扉に背中をぶつけた。
セリナは頭を振った。
「落ち着いて。落ち着くのよ」