表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
69/71

6-7

「人間はね、いつも苦しがっているの。短い時間しか生きれないのにね、いやなことが後から後から次々とわいてきて、自分で自分を殺してしまうときがあるの」

「むちゃですよ」

「苦しむのが生きること、みたいなことになっちゃってて。こんなんなら、何も知らないままのほうがよかった。生まれてこなきゃ、何も知ることないもの。楽しいことも最初から知らなきゃ、何も感じることないし」

「そんなぁ」

「ほんと、つまんないことなの。こんな、問題にもならないようなことで悩むなんて、どうかしてる。でもね、それがつらいの。それが私たちを一番苦しめていたの。でも、そんなことで悩むぐらいなら、いなくてもいいじゃない。あんな巨大な生物がいるのなら、私たち人間がいなくったって、宇宙は何の支障もないわ」

「でも、それでは、私は生まれてきませんでした。セリナ、あなただって」

「もしね、私たちが何も知らない、感情すら持たないで、進化もしないでいたら、こんなことしなくてすんだかも。地球最後の日が来ても、特に何もしなかったかも」

「それでは、死んでしまうじゃないですか」

「だとしても、私たちはシアワセだったかも。ふふっ、ごめんね。長々と。これだけしゃべったら、眠くなってきちゃった」

 セリナは目を閉じた。


 また、夢を見ているみたいだ。

 わかるのは、これはコンピューターが見せているものではなく、自分で見ているもの。

 視界はぼんやりしていた。

 明るさはわかるが、それだけだ。だが、声が聞こえる。

「うおおお、可愛いなぁ。これが俺の子か。君にそっくりだなぁ。美人になるぞ」

「あなた、ほめすぎよ。目元あたりはあなたに似てるんじゃない?」

「何言ってるんだよ。俺が似ているのはせいぜい目と髪の色ぐらいさ」

 聞き覚えがある声だ。

「晴香、よくがんばったね。すごく嬉しいよ。いま、俺は世界一の幸せ者だ」

「グレールったら、大げさよ」

「いや、ほんとに嬉しいんだ。この世界の俺と君の命を受け継いだ子供が生まれるんだよ。俺たちにとっては宇宙にひとつしかない宝物じゃないか」

「えぇ、大切にしなくちゃ」

「ところで、名前は」

「もう考えてあるのよ。セリナ。ギリシャ神話の『セレネー』からとったんだけど」

「そうか、産まれたのは満月の夜だったな」

「あ、見てみて、笑っているわ」

「ほんとだ。可愛いなぁ。将来は映画スターだな。頭もよさそうだ、こりゃ世界一美人なノーベル賞受賞者になれるぞ。スポーツでもいいな。種目は何でもいい、金メダルでも取れば世界のアイドルだ」

「何でもいいじゃない。この子が幸せになってくれれば。……どうしたの?」

「嬉しくて、涙が……」


「パパ、ママン……、私」

 24時間は早かった。

 生命体はまったく動かない。

 自分でも驚かずにはいられないぐらい、簡単に離れることができた。

 立ち上がった。既に通り過ぎてしまった巨大生命体に視線を向けた。

 手を伸ばしても掴めない雲のように、それは宇宙空間に浮かんでいるだけだった。

 抜けました、とコネクターの喜びの声が耳に響いてくる。

「ねぇ」

 なんです?

「ありがとう」

 コネクターは照れくさそうに笑っていた。

 生命体から遠ざかっていくが、そうとは思えない。

 生命体の大きさが変わらないからだ。

「本当に気がつかなかったのかな。もしかして、気づいてた? 私たち、生かされたの?」

 歩き出す。当面の危険はなさそうだ。

 ふと足を止め、コネクターを呼んだ。

「どこが出入り口かわからないんだけど」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ