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「巨大生命体の近くを通っています。ブラックホールから放出されたエネルギーを使って、電子と陽子で作られたアメーバのような生命体です」
「ブラックホールって、吸い込むだけじゃなかったの?」
「すいこまれて原子核などに分解され、それが外に出るのです」
「どんな生物?」
「本能のままに、物質を取り込むだけの存在です。今、星のように見えているのは、生命体による光の反射です。ダークマターも生命体の細胞組織を構成しているみたいです」
「なに? そのダークマターって」
「宇宙に散らばる、光を吸収する物質といわれています」
「生命体なんて、どこにいるの?」
「目の前にいますが」
「いないよ」
首だけを動かし、周囲を見回す。
いくつかの星雲が見えただけで、あとは星が輝いているだけだ。
あの恒星はどこかに消えていた。
――きっと、以前のように私が意識を失ったあとで、レイ・エンジェルが自立起動して、爆発からエデンを救ったんだな。
それにしても、超巨大生物って、どこにいるのだろう。
今の状態では、絶対に勝てないに決まっている。
動かせるのはせいぜい首だけ。
戦うどころか、立って体を動かすことでさえ満足に行えないのだから。
コネクターから返事が来た。
「目に映る全てが、生物だなんて」
それまで起き上がろうと力を入れていた手足から、力が抜けていった。
どうしていいかわからない。
絶望の底へ沈められていくような気分だった。
仮にレイAが五体満足の状態で、シャイニング・フォームであったとしても、絶対に倒せない。
目を閉じ、動くのをやめた。
起き上がる気持ちもなくなってしまったみたいだ。
コネクターによると、推定1光年の大きさ。
アメーバに似ているが、細胞の複合体で、そのひとつひとつが人間の千倍以上だと。
取り込まれたら、レプトン、クォーク、それぞれの原子核にまで分解されるそうだ。
「ちなみに1光年とは、光が一秒間に進む距離≒30万キロメートル×60秒×60分×24時間×365日の距離です」
「いちいち言わないでよ、そんなこと」
途方にくれるというのはこんなときに使うのだろう。不測の事態、という言葉にも限度がある。
あんな巨大生命体に対して、レイAシャイニング・フォームが百体あったってかなうもんか。
コネクターもあっさり言ってくれるなぁ。
「それじゃ私は細菌みたいなものじゃないか」
「まぁ、そうですね」
どうにもならないと、あっさり覚悟が決まった。
かえって気が楽になった。
怖くなくなった。
どう頑張っても無駄だ、もういいや、と。
カプセルの中の人たちは何も知らず、苦しむことなく死ねていいな。
――どうせ生き物は、みんないつか死ぬんだし。
あきらめた。
だが、コネクターはそうではないらしい。まだ説明が続く。
一応聞くことにした。
もし、この生物に脳があるとしたら、触覚が感じた刺激はかなりの時間がたたないと脳には届きません。
感覚は電気信号に置き換えられ、神経を通じて脳に伝わります。
電気と光は同じ速さで進みますから、神経を伝わり終えるには、一年ぐらいかかります。脳が察知し、捕食するという命令を伝えるのにも時間がかかります。
地球のアメーバのように自動的に捕食行動を取ることがなければ、ですが。
幸い、ここはあの生物から一万キロメートルほど離れています。
それに、エデンには超新星爆発で受けた勢いがついたままなので、気づかれる前に逃げ切れる可能性があります。
「だったら、さっさと離れてしまいなさい」
声を押し殺し、呟いた。




