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RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
62/71

5-10

 なんて激しい嵐なのだろう。

 爪を立て、突き飛ばされないようにするが、手は外壁から外れそうだ。

 翼はたたんでいるはずなのに、向かい風が吹き付ける。

 体が浮き上がってしまいそうだ。

「な、な、なんで風が!」

 そういう以外に表現の仕様がない。

 吹きつけてくる風は非常に熱い。

 髪が乱され、方向転換に役立っていた尾羽は引きちぎれそうだ。

 目も開けられなくなってきた。

「コネクター、コネクター聞こえる? なによこれ? いったい、なんなのー!」

 必死に叫んだ。

 恒星を中心として、周囲をなぎ払うように風を放出しているようだ。

 円形の衝撃波がレイAの目を通して、セリナの目に映っていた。

 セリナの叫び声が届いたようだ。

 コネクターの慌てた声が返事として耳に入ってきた。

「え? 恒星風? 恒星の表面で起こった爆発が原因? プロミネンスの爆風? なんだかちっともわかんないよ!」

 既にエデンは反転を終え、星から逃げるように速度を上げている。

 風自体はずっと前から吹いていたらしいが、宇宙生物と戦っているときにはまったく感じなかった。

「け、結局、ど、ど、どうなるの~?」

 何度も声がつまった。

 コネクターはなかなか返事を返してくれなかったが、やがて聞きなれない言葉を耳にした。

「スーパーノヴァ? なにそれ? バクハツ? 超新星爆発ってことは、えぇっ! あの星はもうすぐ大爆発……。わああっ!」

 うっかり体を起こしたのがいけなかった。

 レイAは風をまともに受けてしまった。

 たちまち体は持ち上げられ、吹き飛ばされそうになった。

 慌てて杖をエデンに突きたてた。

 外壁は剥がれ、破片が宇宙空間に消えていく。

 何とか両足を船体に下ろし、左手で杖を握ったまま、右手の爪を引っ掛けた。

 細かな金属片を撒き散らしながらも、レイAは止まった。

 吹き飛ばされそうになったとき、コネクターが何か話していた。よく聞こえなかったので、もう一度、と頼んでみた。

「え?」

 もう一度聞き返す。

「五千度以上の熱風が秒速四千キロの速さで吹き付けてくるって? そんなの食らったら死ぬじゃん! 早く逃げよう! え、逃げてる? 間に合わない? 重力崩壊が止まり、もうすぐ爆発? 衝撃が、ここまで来る?」

 それはセリナにとって、死刑を告げる声のように聞こえた。

 吹き飛ばされぬようにしがみついていたが、手の力が抜けてしまった。

「あれ?」

 吹き飛ばされない。

 風がやんでいる。

 爆発の前兆なのだそうだ。

 明らかにコネクターは狼狽していた。どんな顔しているのだろう。ヘイルはどうしているかな。

 そんなことを考えている最中、ふと、思い出したことがある。

 レイAは不測の事態の対処のためにあるのだと。

 そう、まさに今のときのために。

 立ち上がる。

 今、思いついた。

 できることがある。

 命かけることになるけれど。


 レイAが船尾に立った。

 ロケットブースターは勢いよく動いている。

 正面より少し上方には強い輝きを持つ赤色超巨星がある。

 今にも爆発しそうだ。殴りつけてくるような光がまぶしくて、思わず目を閉じた。

「なにするつもりかって? バリアを張るの。やり方わかるよ。すごいね、レイ・エンジェルって。なんでもできるんだね」

 そう言うと武器を掲げ、杖の光の輪を恒星に向けた。

 武器を握り締め、しっかりと足を踏みしめ、構えた。

「ヘイルに伝えて。あなたのおかげで、ちっとも寂しくなかったって」

 杖の先の輪から、なだらかな放物線状の光が広がり、互いにつながって傘のようになった。

 エデンを覆い尽くすかのような勢いで、光の傘は広がっていく。

 コネクターの声がうるさいぐらいに耳に飛び込んできた。

 時々聞こえてくるヘイルの声に、セリナは涙を流しそうだった。

 二人そろってセリナにこう言う。

 危ないからやめなさい、逃げ切れるようにするから、と。

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