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なんて激しい嵐なのだろう。
爪を立て、突き飛ばされないようにするが、手は外壁から外れそうだ。
翼はたたんでいるはずなのに、向かい風が吹き付ける。
体が浮き上がってしまいそうだ。
「な、な、なんで風が!」
そういう以外に表現の仕様がない。
吹きつけてくる風は非常に熱い。
髪が乱され、方向転換に役立っていた尾羽は引きちぎれそうだ。
目も開けられなくなってきた。
「コネクター、コネクター聞こえる? なによこれ? いったい、なんなのー!」
必死に叫んだ。
恒星を中心として、周囲をなぎ払うように風を放出しているようだ。
円形の衝撃波がレイAの目を通して、セリナの目に映っていた。
セリナの叫び声が届いたようだ。
コネクターの慌てた声が返事として耳に入ってきた。
「え? 恒星風? 恒星の表面で起こった爆発が原因? プロミネンスの爆風? なんだかちっともわかんないよ!」
既にエデンは反転を終え、星から逃げるように速度を上げている。
風自体はずっと前から吹いていたらしいが、宇宙生物と戦っているときにはまったく感じなかった。
「け、結局、ど、ど、どうなるの~?」
何度も声がつまった。
コネクターはなかなか返事を返してくれなかったが、やがて聞きなれない言葉を耳にした。
「スーパーノヴァ? なにそれ? バクハツ? 超新星爆発ってことは、えぇっ! あの星はもうすぐ大爆発……。わああっ!」
うっかり体を起こしたのがいけなかった。
レイAは風をまともに受けてしまった。
たちまち体は持ち上げられ、吹き飛ばされそうになった。
慌てて杖をエデンに突きたてた。
外壁は剥がれ、破片が宇宙空間に消えていく。
何とか両足を船体に下ろし、左手で杖を握ったまま、右手の爪を引っ掛けた。
細かな金属片を撒き散らしながらも、レイAは止まった。
吹き飛ばされそうになったとき、コネクターが何か話していた。よく聞こえなかったので、もう一度、と頼んでみた。
「え?」
もう一度聞き返す。
「五千度以上の熱風が秒速四千キロの速さで吹き付けてくるって? そんなの食らったら死ぬじゃん! 早く逃げよう! え、逃げてる? 間に合わない? 重力崩壊が止まり、もうすぐ爆発? 衝撃が、ここまで来る?」
それはセリナにとって、死刑を告げる声のように聞こえた。
吹き飛ばされぬようにしがみついていたが、手の力が抜けてしまった。
「あれ?」
吹き飛ばされない。
風がやんでいる。
爆発の前兆なのだそうだ。
明らかにコネクターは狼狽していた。どんな顔しているのだろう。ヘイルはどうしているかな。
そんなことを考えている最中、ふと、思い出したことがある。
レイAは不測の事態の対処のためにあるのだと。
そう、まさに今のときのために。
立ち上がる。
今、思いついた。
できることがある。
命かけることになるけれど。
レイAが船尾に立った。
ロケットブースターは勢いよく動いている。
正面より少し上方には強い輝きを持つ赤色超巨星がある。
今にも爆発しそうだ。殴りつけてくるような光がまぶしくて、思わず目を閉じた。
「なにするつもりかって? バリアを張るの。やり方わかるよ。すごいね、レイ・エンジェルって。なんでもできるんだね」
そう言うと武器を掲げ、杖の光の輪を恒星に向けた。
武器を握り締め、しっかりと足を踏みしめ、構えた。
「ヘイルに伝えて。あなたのおかげで、ちっとも寂しくなかったって」
杖の先の輪から、なだらかな放物線状の光が広がり、互いにつながって傘のようになった。
エデンを覆い尽くすかのような勢いで、光の傘は広がっていく。
コネクターの声がうるさいぐらいに耳に飛び込んできた。
時々聞こえてくるヘイルの声に、セリナは涙を流しそうだった。
二人そろってセリナにこう言う。
危ないからやめなさい、逃げ切れるようにするから、と。




