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RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
59/71

5-7

 レイAのブレイン、セリナは目を覚ました。

 といっても、見えるのはコケが生えた宇宙船の表面と、星がちりばめられた宇宙空間、そしてまったく数の減らないグロテスクな生物たち。

――起きなきゃ、戦わなきゃ、いたたた……。

 背筋がひどく痛む。腰から下の感覚はない。

 力を入れるとあちこちに痺れを感じる。立てるだろうか。

「翼は、大丈夫みたい」

 腕で体を支えようとした。

 掌の中でグチャッという不快な音が聞こえた。

 頭が痛い。

 目眩もする。

 右手に力が入らなくなっている。ずっと武器を握ったままだったからだ。

 強い圧迫感が胸にある。

 あわててその箇所に手をあてた。ひびでも入っていたら、どうしよう。

 顔を上げると、強い光が目に飛び込んできた。

 赤く輝く巨大な恒星だった。

 光をしばらく見つめていた。

 痛みが急激に和らいでいった。冷えた体を温めていくように、背中や翼や頭や腕にも浸透していき、疲労感が取り除かれていく。

――なんだろう、これ。

 強い光を浴びた途端、体の底から力がわいてきた。

 武器を握り締め、全身に力を込めた。

 コケを何とかしたかった。

 このままでは食い尽くされそうだし、なんといっても気持ち悪い。レイAは激しく身震いした。

 一瞬にして、コケが消滅していった。

 上を見ると、さっきの宇宙生物がいた。

 体が透き通っていて、まるでミジンコを巨大化させたようだ。

 レイAは翼を一回羽ばたかせ、跳んだ。すれ違いざまに武器をふるう。簡単に切り裂けた。体液も出なかった。

 レイAは宇宙空間の一点で静止した。

 攻撃力が格段に上がっているのに気がついた。

――まさか。

 信じられないが、これと同じことを一度だけ経験したことがある。

 レイAの体が細かな粒子を放出していた。それにつれて、不要な装甲が剥がれていく。


 ヘイルは驚き、絶叫した。

「レイ・エンジェルの鎧が!」

 レイAの体が白くなり、大きな亀裂が入った。

 二の腕や上腿部の装甲はすぐに砕け、小手とブーツ以外の部分もそれに続いた。顔と頭はひびが入るだけに留まった。

 装甲の下から現れたのは、真っ白な体だった。

 ロボットのそれではなく、人間の肉体のようにみずみずしい、柔らかな質感が感じられる。

 豊かな胸とくびれた腰を持ち、理想的な若い女性の体型を持っているといえるだろう。

 裸身ではあったが、ヘイルの性欲がかきたてられることはなかった。

 翼は二対ずつとなり、ひとまわり大きく広がった。

 特に目を引いたのは、孔雀か鳳凰のような尾羽根であった。

 破片となった装甲はレイAの鎧を再構築した。

 ほとんど前と同じ装飾の鎧だったが、今度はレイAの全身を覆うようなことはなかった。

 人間が鎧を装着するときのように、関節には何もつかなかった。

 動きの機敏さを確保するためだろう。

 また、以前は赤を基調としていたのに対し、今度は赤と白が均等に配色されている。

 よく見ると、装飾は微妙に変わっていた。西欧風の特徴を持つ、繊細で非常に凝った紋様が見つけられた。

 レイAの周囲にはいまだに光の粒子が漂っていた。

 やがてそれらもレイAに取り付き、大きく変化する。

 光の粒子は白く輝きながら、レイAを包み込んでいく。

 光は明るさを落とし、後には布のような物が残った。

 薄いシルクのように柔らかくて軽そうだ。

 長い一枚布は鎧の一部を外に出しただけで、体を覆う羽衣になった。

 頭部に入ったままの亀裂が、さらに大きくなった。両目が輝いた。

 レイAは頭を振った。

 頭部の装甲がはがれ、兜とひさしを除く全ての装甲が粉々になった。

 ひさしに緑がかった金髪がたれてきた。

 背中にもウェーブヘアがふわりと舞った。

 同時に、レイAの顔の下からは白い肌の人間の顔が現れた。

 周囲を漂う破片の残りは杖の先端の飾りに集まり、惑星のリングのように銀色の光の輪を形成した。

 ヘイルはその姿を見て絶句した。

「セリナが……」

 宇宙空間にその子がいた。今、軽く頭を振り、閉じていた両目を開く。真っ白で、瞳のない目だった。

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