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映像にノイズが走った。
「レイ・エンジェルの、初の敗北ですか」
コネクターは諦めてしまったかのように、冷めた口調で言い放った。
「そそ、そ、そんなこと、い、いうなよ」
「もう少しだったのに。敵の巣の一番深いところに誘い出されてしまったみたいです」
「な、なにを、のんきなことを」
振動のせいで舌をかんだ。
「た、たすける方法は、ないのか」
顔に脂汗をにじませながら、ヘイルは問う。
「今の状態では、難しいです」
コネクターは首をかしげた。
眉間にシワがより、困っていることが一目でわかる表情なのだが、口調は他人事のようだった。
ヘイルはコネクターの話し方に対し、何度も床を叩いて怒鳴った。
「レイ・エンジェルがやられてしまったら、この船も沈んでしまうんだよ!」
「わかってますとも」
「本当にわかっているのかよ!」
コネクターの返答は実に疑わしい。
「この船がやられたら、お前の役目は永遠に果たせなくなってしまうんだぞ!」
「言わないで!」
コネクターが叫んだ。
ヘイルは驚いて口を閉じた。
「そんなことわかっています。でも、でもどうすることもできないのです。私にもできないことはあります!」
叫び声は静かな宇宙船の内部全体に広がりそうな勢いを持っていた。
ヘイルは何も言えなくなった。
画面はレイAを映そうとしているらしいが、出てくるのはイボだらけで、けばけばしい色の宇宙生物の皮膚だけだった。重なり合う宇宙生物の隙間から、かろうじてレイAの頭が見えた。ひさしのような額の飾りの下には、目が確認できた。
画面が切り替わり、今度は遠くからの画像になった。
一匹の宇宙生物の背中が裂けた。
赤と黒が混ざり合った体液の中から鋭い爪を持った手が現れた。
その宇宙生物の反対側にいたものにも異変が起こった。体が縦に長くなったかと思ったら、外殻から体液が漏れ出し、ついには巨大な手に握りつぶされたかのように破裂した。
それから、翼にくっついていた宇宙生物も体を大きく捻じ曲げられていた。
そして、レイAから弾かれるように離れ、消えていった。
翼は少し湾曲していたが、すぐにピンと伸びた。
レイAは無事だった。
レイAが両足にかじりついている宇宙生物を槍で突き殺した。
両足を軽くふると、それはゆっくりと離れていく。それから、レイAは両足に大きく反動をつけると、大きく蹴り上げた。
頭に取り付いていた足の長いクモのような宇宙生物はレイAから離れた。
細くて長い十本ほどの足をばたつかせていた。
蹴りによって頭部と胸部は引きちぎれ、腹部には大きな穴が開いていた。
そのクモをレイAは杖で殴り、遠くへ飛ばす。
レイAが全身を現した。赤く滑らかな体には傷ひとつ、体液は一滴たりと付着していなかった。
レイAが肩で息をしている。
ヘイルにはそう見えた。
首を振り、武器を持ち直すと、糸の切れた人形のように後ろにのけぞり、倒れる格好となった。
宇宙空間に上下はないが、映像の中のレイAは墜落しているようだった。
ヘイルは汗をぬぐった。
床には、汗の跡がいくつも残っていた。




