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RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
51/71

4-16

 二人が部屋に入ると、まず見えたのはレイAの両足の裏だった。

「早く頭へ」

 コネクターに重力を操作してもらい、レイAの巨体を大回りし、頭に向かった。

――うひゃあ、大きいなぁ。

 今、セリナはレイAのすぐ近くを走っているが、そうしているとロボットの大きさがよくわかる。

 セリナが出てきたときのままだった。

 レイAの頭部の兜のひさしが上下に二つに割れ、コクピットが開けっ放しになっていた。

 そこから先端がベルト状になっている黒いコードが、何本も外に垂れ下がっている。

 コクピット内部は陰になっていてよく見えない。

 息が荒くなっていた。ほんの50メートル少々を走っただけなのに。

「長い間カプセルに入っていたから、運動不足になっているのかな」

 激しく動いている心臓を落ち着かせるため、何度も大きく息をはいた。

 息は白くなり、床に汗が数滴落ちた。

 喉から変な音が聞こえていたが、すぐに治まった。

 コクピットはセリナの背より高い位置にあったが、手を伸ばせば届きそうだった。意外と簡単に中に入ることができた。

「座りましたか? まだですね。座ったら全自動で起動しますから」

「あなたはどうする気なの?」

 セリナは問い返した。

 大声を出したためか、声がコクピット内で反響する。

「私はエデンに残り、あなたに色々と指示を出します」

「わかった」

 セリナは座席に座った。

 鈍いモーター音が聞こえ、同時にコクピットハッチが降りてきた。

 完全に閉じてしまうと全ての音が消え、真っ暗になった。

 狭いと思っていたのに、どこまでもつづく広い世界にいるように感じていた。

 両腕と両足、そして胴体に何かが絡みついてきた。

「ワッ、何? 蛇でもいるの?」

 慌てて振り払おうと手足をばたつかせた。しかし蛇のような何かはすばやく動き、セリナの四肢を締め上げた。

 痛みで思わず叫び声をあげてしまった。

 体のあちこちに厚く焼けた刃物が突き刺さったように、体の内側にまで激しい痛みが食い込んできた。

 思い出した。体を締め付けているのは、さっきの黒いコードだ。

「な、なに、これ」

 コードはセリナが考えている以上の圧力を加えてくる。

 胴体を座席に固定させようとしているらしいが。

 両腕両足、頭部も同じだった。

 荒い息と苦痛の声を漏らしながら抵抗するが、コードの力には勝てそうもない。

 逆らえば逆らうほど圧力は強まり、皮膚がはがされると錯覚してしまう。

「くっ、うっ……」

 痛みに耐えることしかできなかった。が、痛みはますます強くなってくる。

 大丈夫。

 頭の中に声が響いてきた。確かに聞いた。空耳ではない。

「だ、だれ」

 次に聞こえてきたのは、力を抜いて、だった。

「ちからを、ぬけって」

 疑いながらも、言われたとおりにしてみた。抵抗するのに疲れてきたところだ。でも、大丈夫なのかな、不安は募っていくばかり。

「コネクターなの?」

 その通りだった。

 足が生ぬるくなってきた。

 足元から液体が入ってきたのだ。ものすごい勢いだった。体があっという間に沈んでいく。頭の上まで来るのも、時間の問題だった。

 中途半端に暖かく、あんかけのような、滑りのある液体なので、変な感触だ。

 セリナの下腹部までが液体に沈んでいた。

 しかし、コネクターの説明は続く。

 安心して、溺れないから。

 この液体、ブレインミューカスはセリナの身体に及ぼすダメージを緩和し、彼女の意思を正確に電子信号に変換する役目があるそうだ。

 当然、溺死の心配はない。

 それに、セリナの体にまきついているコードは、痛みを伝えるためだそうだ。

「どうして、そんなことするの?」

 痛みというのは、体に危険を知らせる信号。

 痛みがないと、たとえば、多量の血を流していても死ぬまで気がつかない、ということになってしまう。

 ブレインミューカスはセリナの口にまで上ってきた。

 一口の見込んでしまうと、後から後から押し寄せてきて、食道や気管に入っていく。

 しかし、途中から空気を吸うのとなんら変わらなくなった。

 液体がセリナの体を全て埋めてしまっても、すぐに慣れてしまった。

 セリナは眠気を感じた。今度は、痛みはなかった。


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