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RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
50/71

4-15

 ヘイルは押し黙り、目を伏せた。

 コネクターをにらみつけていた彼の目は殺気が消え、おとなしくなった。

 室内をただならぬ緊張が包んだ。


「私、戦う。レイ・エンジェルに乗る」

 コネクターとヘイルは同時にセリナを見た。

 コネクターの驚いた顔を見るのは、初めてのような気がした。

 今、セリナは自分がとても穏やかな表情をしているのが自覚できた。この上なく落ち着いていた。

 言ったことに後悔はなかった。

「いいのか?」

「いいのですか?」

 コネクターとヘイルが同時に問いかけてきた。

 二人の質問には何も言わず、首を縦に振った。

 外から重い物体がぶつかったような音が聞こえ、足元がわずかに震えた。

「私は」

 セリナはヘイル、コネクターの順に視線を送った。

 二人を目の前にして大きく息を吸った後、しばらく黙りこみ、一言一言ゆっくりと話し始めた。

「私は、またあの夢を見たいから、戦おうと思う。最初は、いやだったよ。これ以上の悪夢があるかって。でも、私しかいないのでしょう? 戦わなきゃ、また誰かが死ぬかもしれないし、あの日常に戻れない」

 セリナは微笑んで見せた。さらに続けて

「だって、こんな時のためにあるんでしょう? レイ・エンジェルは」

 セリナの声ははっきりしていて、すごく通りがよく、非常に明るかった。

 コネクターがセリナの視線を受け止めていたが、不意にレーダーに目を向けた。

 しかし、すぐにそれからも目をそむけ、壁に遠い目を向けた。

「30分」

「え?」

「何とか30分だけ、耐えてください」

「わかった」

 ゆっくりとセリナはうなずいた。

 次に、ヘイルのすぐ前で膝をついて座り、彼の手を握った。

 彼はまだ床に座り込んだままだった。

 セリナの手を握り返し、見上げる。

 何か言いたげな唇が半開きのまま、小刻みに震えていた。セリナは両手で彼の手を包み込む。

 温かい。

 ヘイルは小声でセリナの名を呼んだ。彼はうっすらと目に涙を浮かべながら、心配そうな視線をセリナに送っていた。

 セリナは微笑みながら、ヘイルと目の高さを合わせた。

「待っててね」

 ヘイルは何か言おうと一瞬口を開いたが、声を発しないで小さく、うん、とだけ言った。

「大丈夫だよ、トシくん。お姉さんに任せなさい」

 頭をなでながら、セリナはヘイルの唇に自分のを押し当てた。

 すぐに唇を離し、立ち上がる。そして、無言でコネクターと顔を見合わせた。

 へイルはその場に座り込んだままだ。

 セリナは歩き出そうと足を踏み出したが、振り返り、ヘイルに優しく声をかけた。

「今まで、ありがとう」

 へイルはうなだれ、セリナを見ることなく、首を縦に振った。

「私のこと、よく見ててね」

 しばらくの沈黙の後、ヘイルは顔を上げ、答えた。

「どうか、死なないで」

 セリナはコネクターにつれられて部屋を出た。

 レイAの格納庫はメインコンピュータールームのすぐ近くにあるのだ。

 このことをヘイルは知らなかったらしい。

 二人の歩く速さはそのままで、廊下を進んでいく。

 室内に比べて照明は少なく、薄暗い。だが、様子はよくわかる。ヘイルと来たときと同じつくりの廊下だ。

「あの扉の向こうね」

「はい」

 コネクターの声は沈んでいた。

 セリナはドアノブに手をかけた。


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