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ヘイルは押し黙り、目を伏せた。
コネクターをにらみつけていた彼の目は殺気が消え、おとなしくなった。
室内をただならぬ緊張が包んだ。
「私、戦う。レイ・エンジェルに乗る」
コネクターとヘイルは同時にセリナを見た。
コネクターの驚いた顔を見るのは、初めてのような気がした。
今、セリナは自分がとても穏やかな表情をしているのが自覚できた。この上なく落ち着いていた。
言ったことに後悔はなかった。
「いいのか?」
「いいのですか?」
コネクターとヘイルが同時に問いかけてきた。
二人の質問には何も言わず、首を縦に振った。
外から重い物体がぶつかったような音が聞こえ、足元がわずかに震えた。
「私は」
セリナはヘイル、コネクターの順に視線を送った。
二人を目の前にして大きく息を吸った後、しばらく黙りこみ、一言一言ゆっくりと話し始めた。
「私は、またあの夢を見たいから、戦おうと思う。最初は、いやだったよ。これ以上の悪夢があるかって。でも、私しかいないのでしょう? 戦わなきゃ、また誰かが死ぬかもしれないし、あの日常に戻れない」
セリナは微笑んで見せた。さらに続けて
「だって、こんな時のためにあるんでしょう? レイ・エンジェルは」
セリナの声ははっきりしていて、すごく通りがよく、非常に明るかった。
コネクターがセリナの視線を受け止めていたが、不意にレーダーに目を向けた。
しかし、すぐにそれからも目をそむけ、壁に遠い目を向けた。
「30分」
「え?」
「何とか30分だけ、耐えてください」
「わかった」
ゆっくりとセリナはうなずいた。
次に、ヘイルのすぐ前で膝をついて座り、彼の手を握った。
彼はまだ床に座り込んだままだった。
セリナの手を握り返し、見上げる。
何か言いたげな唇が半開きのまま、小刻みに震えていた。セリナは両手で彼の手を包み込む。
温かい。
ヘイルは小声でセリナの名を呼んだ。彼はうっすらと目に涙を浮かべながら、心配そうな視線をセリナに送っていた。
セリナは微笑みながら、ヘイルと目の高さを合わせた。
「待っててね」
ヘイルは何か言おうと一瞬口を開いたが、声を発しないで小さく、うん、とだけ言った。
「大丈夫だよ、トシくん。お姉さんに任せなさい」
頭をなでながら、セリナはヘイルの唇に自分のを押し当てた。
すぐに唇を離し、立ち上がる。そして、無言でコネクターと顔を見合わせた。
へイルはその場に座り込んだままだ。
セリナは歩き出そうと足を踏み出したが、振り返り、ヘイルに優しく声をかけた。
「今まで、ありがとう」
へイルはうなだれ、セリナを見ることなく、首を縦に振った。
「私のこと、よく見ててね」
しばらくの沈黙の後、ヘイルは顔を上げ、答えた。
「どうか、死なないで」
セリナはコネクターにつれられて部屋を出た。
レイAの格納庫はメインコンピュータールームのすぐ近くにあるのだ。
このことをヘイルは知らなかったらしい。
二人の歩く速さはそのままで、廊下を進んでいく。
室内に比べて照明は少なく、薄暗い。だが、様子はよくわかる。ヘイルと来たときと同じつくりの廊下だ。
「あの扉の向こうね」
「はい」
コネクターの声は沈んでいた。
セリナはドアノブに手をかけた。




