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三人はしばらく歩いていた。
コネクターはセリナとヘイルに背を向けたまま、
「皆さんが見ていた『夢』ですけど」
「知ってるよ。メインコンピューターが見せてたんだろう?」
「でも、どうしてそんなことを」
ヘイルに続いてセリナがそう口にしたとき、足元が大きく揺れた。
二人は何もできずに床に倒れてしまった。コネクターは姿勢を維持したまま、少し上方を見上げた。
「来ましたか」
「何が?」
コネクターの呟きに対し、セリナが大声で聞き返した。
大きな揺れが断続的に起こる。
セリナとヘイルは床に伏せたまま、立ち上がれない。
コネクターの笑みは既に消えていた。
「宇宙生物の群れに追いつかれたみたいです。急がないと」
コネクターは指を鳴らした。
「あぁっ!」
「うわっ」
二人の体が宙に浮き上がった。
両手足をジタバタと動かした。突然のことで混乱し、どうしていいかわからなくなった。
「な、なによー!」
コネクターは二人に向き直り、真剣な面持ちで、短く鋭く叫んだ。
「落ち着いてください! 動かないで!」
二人は動きを止め、コネクターに注目した。
「無重力状態にしました。壁を軽く蹴るだけで進めます。床の赤い線に従って進んでください。もうすぐそこですから。それではまた後で」
セリナが何か言おうと口を開いたとき、コネクターは笑顔を見せて、姿を消した。
セリナは床を見た。
赤い線なんて、どこにも……。
カーペットの一部が赤く光り、線のようにまっすぐ伸びていった。
「これか。行こう、セリナ」
ヘイルは手招きをしてから、近くの壁を蹴った。すると彼は滑るように空中を移動し、すぐに見えなくなった。
「あ、ま、まって」
セリナは両足を後方に突き出したが、蹴るはずの壁が遠くにあった。
「足が届かない……」
仕方なく、泳ぐ要領で両腕を動かした。
それでも足りず、両足も働かせた。
なんとか両手が届き、体を壁に引き寄せることに成功した。
全身を覆っているスーツの特殊繊維が、いい滑り止めになった。
「どこまでいったんだろう」
壁を蹴り、前進した。
赤い線は消えていない。その上をセリナは直進していった。
壁にぶつかりそうになる度に足で蹴る。思っていた以上に簡単だった。
曲がり角を右に曲がったところで、ヘイルが待っていた。
彼はセリナに呼びかけ、手をさし出す。セリナは黙ってその手をとった。
コネクターの声が聞こえてきた。どこかにスピーカーが設置されているらしい。
「私です。二人とも、進みながら聞いてください。エデンをねらう宇宙生物の数は、増加していく一方です。急いでください」
セリナとヘイルは顔を見合わせ、互いにうなずくと、二人は同時に壁を蹴った。




