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「誰?」
何者かが廊下を歩いてきている。
セリナは真っ暗な廊下の先に目を凝らした。
ヘイルも足跡に気がついていた。
闇の中から白い人影が見えてきた。
瞬きのたびに、その人影が大きくなり、姿もはっきりと見え始めた。
その者と目が合ったとき、セリナはあっと声を上げ、体を硬直させた。
ヘイルはセリナとその者の間に立ち、双方を見比べた。
「セリナが、二人?」
いや、この場に現れたその者は黒髪だった。
しかし、顔つきはセリナとよく似ていた。
驚くヘイルにはまったく眼もくれず、セリナはその者をじっと見た。
「あなたは」
彼女は少し間隔を置いて、立ち止まった。
「こんにちは」
その者は礼儀正しく頭を下げた。
感情の抑制が感じられない機械的な口調だった。
セリナは少しも動かなかったが、ヘイルは戸惑いながらも頭を下げた。
「あなた方二人が目を覚ましたことは、予定外のことでしたので」
そこで一度言葉を切り、視線を上に向けた。
「この船の運行が安定に戻ったみたいです。それでは行きましょう。こちらです」
と、二人に背を向け、歩き出した。
「待ってくれ、どこに行くんだ!」
「メインコンピュータールームではないのですか?」
その者は足を止めず、振り向くこともなく、返事をした。
セリナは寒気を感じ、、その者に尋ねてみた。
「あなた、誰?」
声が刺々しく震えている。
「クリエイター、つまり私の創造主は私のことを『コネクター』と名付けられました。正体については、後で説明します」
機械のような口調はまったく変わらない。
コネクターは一人で先に進んでいき、セリナたちを置いてけぼりにしていた。
「あ、ちょっと待って!」
二人は慌ててコネクターを追いかけた。
近づき、肩をつかもうと手を伸ばす。だが、手はコネクターの体をすり抜けた。
「あ、あれ?」
勢いあまって、セリナはコネクターのすぐ目の前で転んでしまった。
セリナはすぐに顔を上げた。
「大丈夫ですか?」
コネクターは腰を曲げ、セリナの顔をのぞきこんできた。
今の話し方はそれまでのものとは微妙に変化し、心配そうな声に聞こえた。
「今、すり抜けた、よな?」
ヘイルの言う通りだ。つかんだと思った次の瞬間には、既に転倒していたのだから。
セリナは体を反転させ、コネクターを見上げる。
「あなた、いったい……」
ヘイルが口を挟んできた。
「立体映像?」
「そうです」
「本体はどこにあるんだ?」
「ありません。強いてあげるなら、エデンのプログラム。つまり、こういう事態が起きたときに起動するプログラムが映し出すものだと思ってください。それでは、行きましょう」
コネクターは微笑みながら、セリナとヘイルを交互に見て、明るい声で二人を促した。
「もうひとついい?」
「なんでしょうか」
「さっき足音が聞こえてたよ。立体映像なのに?」
「あれはそういう演出なのです。こんな暗い場所で、私がいきなり現れたとしたら、あなた方は驚くでしょう」




