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頭を抱え、その場に両膝を落とした。
声が弱々しく、息も細く途切れだした。脂汗が頬を伝わり、床に落ちた。
「もしかしたら……」
セリナは突如、絶叫し、両拳を叩きつけた。無機質な金属音が床に響いた。
「セリナ、何を!」
床に額をぶつけようとしたが、ヘイルに体をつかまれ、阻まれた。
呼吸が荒くなっている。
セリナはうなだれたまま、顔を上げようとはしなかった。
「もしかしたら、あの時、食べられちゃったのはユキちゃんだったかも。それと、私の知っている多くの人たちも、そうなのかも。人が食べられた、何人も死んじゃったんだ! 私が、私がもっとうまく戦っていたら……」
ヘイルはセリナの肩をつかみ、揺さぶりなら、落ち着け、と繰り返した。
セリナは彼を見ていなかった。
「私がうまく戦っていたらだれも死ななかった! 怖がって逃げたかったから、助けられなかったんだ! それでみんな……。あの時、私が怖がったり気持ち悪がってなかったら、助けられたのに!」
「セリナ、セリナ! 落ち着け!」
ヘイルは叫んだ。
セリナは取り乱し、わめき散らした。
ヘイルはセリナを落ち着かせようと何度も方を揺さぶり、落ち着けと繰り返し呼びかける。
だが、彼女は顔を真っ赤に腫らしながら涙を流していた。
首を激しく振り、自分の罪を全て告白するかのように、感情をあらわにした。
抱きすくめられながら、セリナはむせび泣いた。
「ごめん……」
喉の奥から声を絞り出す。
「いいんだ。君だって、知らぬ間にレイ・エンジェルに乗せられて、宇宙生物と戦っていたんだ。誰も君を責められない。そうすることは、誰にもできないんだ」
「だって、棚がこんなに……」
「いいんだよ。あれから襲撃はない。犠牲は少なくてすんだんだ。君のおかげだよ」
へイルはセリナの頭をなでた。
「もういいかい? 落ち着いたかい?」
「うん」
うなずいて見せたが、セリナの本音はもう少しこうしていたかった。
ここはあまりに静か過ぎる。
また、一人ぼっちになってしまうような気になってくるのだ。
ヘイルは体を離し、セリナの顔を覗き込んでくる。
いけない、心配かけては。慌てて涙を拭き、笑顔を作る。
ヘイルは安心したようだ。彼女に笑いかけてきた。
「まだ、しばらく襲われないと思う。セリナ、もう君を一人きりにしない。僕がそばにいるから、もう心配しないで」
「ありがとう、頼りにしてる」
ヘイルの顔が赤くなった。だが彼はそれをごまかそうと咳払いをし、視線をそらした。
「き、君の目は、ウサギみたいだな」
「相当泣いたからね、私」
セリナはヘイルから離れ、標本箱にもたれかかった。
「私もカプセルに入ってたんだよね」
「あぁ。君の名前は、やっぱり『セリナ・ジュレ・ブランシュ』だったよ」
セリナのカプセルはレイAの格納庫の、すぐ近くの部屋に放置されているそうだ。
「でも、なぜ私たちはカプセルに入れられてたの? それに、なぜ私がレイ・エンジェルなんかに?」
セリナの視線がヘイルを射抜く。彼はセリナの真剣な表情から目をそらすことはできなかった。しかし、やがて彼は大きく息をはき、両肩を落とした。
彼は表情を緩めたまま、首をゆっくりと左右に振った。




