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RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
34/71

3-10

 どれだけ泣いたかわからない。

 頬をぬらしていたはずの涙は筋だけを残し、乾いていた。声だけはまだむせいでいた。

 もう、どうしていいかわからなかった。

「ん?」

 足音が聞こえた気がして、目を開けた。

 背後から物音がした。

 門を開けたときのキィというきしんだ音だった。確かに聞こえた。

「誰かいるの?」

 振り返り、門のほうを見つめた。

 人影があるが、涙でかすんでよくわからない。

 空耳ではなかったので安心した。

セリナは涙を拭き、改めてその人影を見た。

「セリナちゃん、久しぶり」

 門の外に知らない少年が立っている。

 彼に自分の名前を馴れ馴れしく呼ばれてしまい、セリナは喜ぶどころか、戸惑った。

「忘れたかな。声変わったから」

 そういえば、誰かに似ている。

 年はセリナと同じぐらいで、身長は彼女より少し高いぐらい。よく見たら、セリナと同じ学校の制服を着ている。

 セリナは何度か瞬いた。

「トシくん?」

 少年は大きくうなづいた。

 確かに、ユキの弟の俊也だ。彼が中に入ってこようとしたとき、セリナは既に走り出していた。

「うわっ」

 セリナはトシに抱きついた。

「あの、ちょっと」

 トシは抵抗しなかったが、困惑し、照れくさそうに呟いた。

「人がいた、よかった……」

 涙声になっていた。もう誰にも会えないと思っていた。嬉しかった。いま、両腕の中にあるぬくもりを離したくなくて、セリナはさらに力を込めて抱きしめた。

「もう、泣かなくていいよ」

 セリナの背に腕が回された。トシの声がいままでの疲れを癒していくかのように、優しく響いた。

 抱き合ったまま、トシはセリナの耳元でささやいた。

「僕は、原因を知ってるんだ。君があの夢を見始めてから、周囲に変なことばかり起こっていることの、ね」

「えっ!」

 セリナはトシと顔を見合わせた。

 トシの表情は自信に満ち溢れていた。まるで全ての答えを知っているかのようだ。

「いったいそれは」

 セリナの言葉は途中でさえぎられた。

「それは、ここではまだ。いきなり真相を言っても驚くだろうし、何より信じられないよ」

「お願い、教えて、何でもいいから」

 セリナは食い下がる。

 トシは視線をそらしたが、すぐにわかったと呟いた。

「でも、ここでこうして話すのもなんだし、近くの公園まで歩こうか。セリナちゃんが、少し落ち着いてからのほうがいいと思うから」

 トシはセリナの体を引き離し、門の外へ出た。セリナも慌てて後を追う。

「どうしたの?」

「真相を説明する前に、言っておきたいことがあるんだ」

「何?」

「僕は今でも、セリナちゃんのことが好きだ。あ、いまはセリナ先輩か」

 トシは照れて、下を向いた。

 どんな表情をしているか、後ろを歩いているセリナからは見えなかった。セリナは今、とても落ち着いていられた。冷静に対応することができた。

「うぅん、前からの呼び方で呼んで」

 トシはこちらを振り返る。

「中学に入って、セリナちゃんを見つけたとき、すごく驚いたんだ。とても可愛くなっていて、話しかけられなくて。なんであんなことできたんだろうって、恥ずかしくなった」

「あんなことって、私とキスしたこと?」

「うん」

「あれは、私も意味がよくわかっていなかったから……」

「そのときからなんだ。初めてだった。セリナちゃんのことばかり頭に浮かんできて。それが苦しくて、何日も続いて、一緒にいたいなって漠然とだったけど、だんだんと強く思うようになった。話したかったけど、きっかけがなかったし、照れくさいし、先輩だし」

 セリナは頭を下げ、礼を言い、そして謝った。

「ごめんなさい。実は、昨日までトシくんのことすっかり忘れてて」

「いいよ」

 セリナは腰を曲げたままで、上目遣いでトシを見上げた。

 彼は笑っていた。

「やっぱり、年上の彼女って、いや?」

 セリナは言ってしまった後で、しまったと口をつぐんだ。こんなときに何を言ってるのかしら。自分でも、どういうつもりなのかわからない。

「そんなことないよ」

 トシは自分と目を合わせた。

「行こう」

 これだけ言うと、トシはセリナの手を引き、歩き出した。

「ちょっと待って、どこへ」

「とりあえず、近くの公園でいい?」

「うん」


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