3-5
今日、セリナがあのロボットになることはなかった。
クラスメートたちの姿に違和感はあるものの、少しずつ慣れてきた。
ただ、顔を近づけてほしくなかった。
自分も、誰の顔も見ないようにした。
先日のことを和人に謝っておいた。
ユキのことには触れなかった。どうせ覚えていないだろうし。それに、この前曖昧にしておいたままの問題もある。
和人はこう切り出した。
「どうなの? 君の答えは」
聞き慣れた声は変わっていない。それだけがセリナを安心させていた。
セリナの答えは『はい』だった。
彼の表情は一瞬で喜びに満ち溢れた。それがとても漫画的で、現実感のないものだった。
一瞬、和人の顔が元に戻った。
セリナ瞬き、再び見直してみた。
でも、違った。
人間に戻ったように見えたのは、ただの目の錯覚だったようだ。
再び視線を和人に戻した。今の彼の顔に以前の顔が重なる。
確かに似ているんだ。話し方なんかも、まったく変化がない。
「気分でも、悪いの?」
優しい性格も変わっていない。
「なんでもないよ。元気元気」
「そりゃよかった」
和人は明るく言った後笑い出し、セリナもそれにつられて顔をほころばせた。
遠くから声をかけられた。雲野だった。
「よぅ、ヒデ」
彼の顔も著しく変化していた。しかし、セリナは努めて平静にふるまった。
「何話してるんだよ、二人とも。おいカズ、俺のセリナに手を出すなよー」
といいながら、セリナの頭を抱くようにして自分の胸元へ引き寄せようとした。
セリナは雲野の手を払い
「お放し!」
と言ってやった。
「まったく、何が『俺のセリナ』よ」
「冷たいなぁ。せっかく席が隣になったのに」
「くじびきでそうなったんだろ」
和人が口を挟む。雲野も負けずに反撃する。
「いやいや、神様の思し召しだよ。俺とセリナが仲良くなるように」
「何言ってるんだ、お前は」
二人の話が長くなりそうだったので、セリナはその場をこっそりと離れた。
二人は冗談を交えながら言い争った。
「もてるわねぇ、セリナちゃんは」
席に着くと、前の席の露木智代が後ろを向き、こう言ってからかってきた。
「あら、そうでもないよ」
「本当? 魔性の女ほどそういうのよ」
「私はどこぞの悪女か……」
智代はいつもどおり冗談で言ったのだろうが、セリナにはそうは聞こえなかった。さらに、智代はからかい続ける。
「わはははっ」
智代は笑いながら前を向いた。
声の聞こえ方も少しずつ変化しているようだ。
智代とのやり取りもいつもと同じなのだが、笑い声が空々しい。
和人と雲野の言い合いはまだ続いていたが、ほうっておくことにした。
もうすぐ休み時間も終わる。
先生が来たら、話はそこで終わらざるをえないのだから。




