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RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
29/71

3-5

 今日、セリナがあのロボットになることはなかった。

 クラスメートたちの姿に違和感はあるものの、少しずつ慣れてきた。

 ただ、顔を近づけてほしくなかった。

 自分も、誰の顔も見ないようにした。

 先日のことを和人に謝っておいた。

 ユキのことには触れなかった。どうせ覚えていないだろうし。それに、この前曖昧にしておいたままの問題もある。

 和人はこう切り出した。

「どうなの? 君の答えは」

 聞き慣れた声は変わっていない。それだけがセリナを安心させていた。

 セリナの答えは『はい』だった。

 彼の表情は一瞬で喜びに満ち溢れた。それがとても漫画的で、現実感のないものだった。

 一瞬、和人の顔が元に戻った。

 セリナ瞬き、再び見直してみた。

 でも、違った。

 人間に戻ったように見えたのは、ただの目の錯覚だったようだ。

 再び視線を和人に戻した。今の彼の顔に以前の顔が重なる。

 確かに似ているんだ。話し方なんかも、まったく変化がない。

「気分でも、悪いの?」

 優しい性格も変わっていない。

「なんでもないよ。元気元気」

「そりゃよかった」

 和人は明るく言った後笑い出し、セリナもそれにつられて顔をほころばせた。

 遠くから声をかけられた。雲野だった。

「よぅ、ヒデ」

 彼の顔も著しく変化していた。しかし、セリナは努めて平静にふるまった。

「何話してるんだよ、二人とも。おいカズ、俺のセリナに手を出すなよー」

といいながら、セリナの頭を抱くようにして自分の胸元へ引き寄せようとした。

 セリナは雲野の手を払い

「お放し!」

と言ってやった。

「まったく、何が『俺のセリナ』よ」

「冷たいなぁ。せっかく席が隣になったのに」

「くじびきでそうなったんだろ」

 和人が口を挟む。雲野も負けずに反撃する。

「いやいや、神様の思し召しだよ。俺とセリナが仲良くなるように」

「何言ってるんだ、お前は」

 二人の話が長くなりそうだったので、セリナはその場をこっそりと離れた。

 二人は冗談を交えながら言い争った。

「もてるわねぇ、セリナちゃんは」

 席に着くと、前の席の露木智代が後ろを向き、こう言ってからかってきた。

「あら、そうでもないよ」

「本当? 魔性の女ほどそういうのよ」

「私はどこぞの悪女か……」

 智代はいつもどおり冗談で言ったのだろうが、セリナにはそうは聞こえなかった。さらに、智代はからかい続ける。

「わはははっ」

 智代は笑いながら前を向いた。

 声の聞こえ方も少しずつ変化しているようだ。

 智代とのやり取りもいつもと同じなのだが、笑い声が空々しい。

 和人と雲野の言い合いはまだ続いていたが、ほうっておくことにした。

 もうすぐ休み時間も終わる。

 先生が来たら、話はそこで終わらざるをえないのだから。


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