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「セリナ、いったよ!」
目を開けた。
いつの間にか体操服に着替えて、体育館でバレーボールをやっている。
見上げると、ボールがこっちに飛んできている。
「え、え? えっ?」
よくわからないまま、両手を頭上に掲げ、レシーブした。
ボールはネットの近くまで戻された。
前衛がスパイクを打ち込むが、ブロックされてしまった。
セリナは状況が飲み込めなかったが、体育の授業中だということはすぐにわかった。
体育の先生は審判台に立っている。
クラスに元バレー部員は三人、そのうちの二人は相手チームだった。もうジャージを着用していい季節なのだが、体を動かすと暑くなるので、まだ夏の格好をしている者が多い。
試合はすぐに再開され、サーブがあげられた。
ラリーが続き、三度こちらのコートにボールが来た。
チームメイトがレシーブに失敗し、はじかれたボールがコートの外に飛んでいった。
セリナは後衛の右側にいた。
すぐにボールに追いつき、テニスのラケットを振る要領で右手を下から上に振り上げた。床に落ちそうだったボールはすくいあげられ、フラフラと上がっていった。
所定の位置に戻ると、ミスした生徒は
「ごめん」
「ドンマイドンマイ」
その生徒の両目もガラス玉のようだった。
そして、声もなんだか違う。
テープに吹き込まれた棒読みの音声を聞いているようだった。
初めの頃は気づかなかったが、どの生徒も似たような話し方をしている。
結局、セリナがあげたボールは、向こう側のコートの隅ぎりぎりのところに落ちた。
「やったぁ」
先生がフエを吹いた。短かったが、セリナには『ピーッ』ではなく『ウィーン』という警報ブザーのような音に聞こえた。
体育館のドアはすべて開け放たれていた。
外では男子がサッカーをやっているはずだ。
ちらりと外を見ると、風景が演劇用のハリボテのようにしか見えない。
――変だ。
考え込んでしまい、今が体育の授業中だということも忘れていた。
「セリナ!」
名を呼ばれ、我に返った。
再び自分に向かってボールが飛んできた。凄いスピードだ。
突然のことでセリナは驚き、よけた。
ボールは床にあたり、壁にあたって跳ね返った。
先生がフエを吹いた。
またさっきと同じ音だった。本当にどこかで警報が鳴っているんじゃないかと、セリナは耳を澄ませた。
しかし、聞こえてきたのは先生の
「アウト」
という声だった。
近くにいた生徒に話しかけられた。
「ナイス、セリナ。大丈夫?」
うなずき、試合に集中しようと身構えた。
彼女の『大丈夫?』という言葉が、セリナには
「あなたの頭は大丈夫?」
という意味に聞こえた。
――かなりおかしくなっているかも。




