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RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
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1-2

 父は先に仕事に行ってしまったらしい。

「セリナが早く起きてくれて助かったわ」

「何よ、私がいつも寝過ごしているみたいじゃないの」

「ほんとのことでしょ」

「そうだった?」

「昔から、あなたは朝起きられない人だったから」

「ごちそうさま、行ってきます」

 朝食を終えるとすぐに荷物を持って玄関を出た。

 背中ごしに『行ってらっしゃい』という声が聞こえてきた。

 鏡のことが気になったが、いくら考えても答えなど出てくるわけがない。

 歩くうちに、制服たちが見えてきた。

 見慣れた後ろ姿があった。セリナは笑顔で走り出した。

 相手は自分に気づいていない。それをいいことに背後から近づき、背中をたたいてやった。

「わあっ!」

 その子はかなり驚いていた。その子の反応で、逆にセリナがあっけにとられてしまった。

「あ、ごめん、ユキちゃん。大丈夫?」

「うん……」

「ユキちゃん、リアクション大きい~クスクス」

「セリナちゃんか~。おどかさないでよ」

 その子はふり返り、ずり落ちたメガネをかけ直していた。

 セリナが声をかけたのは、彼女の親友だった。

 名前は雪村弥生といって、セリナは『ユキちゃん』と呼んでいる。

 大人しく、成績もいい真面目な女の子だ。ただ、セリナと違い、運動はまったくダメだが。

 ユキとセリナは幼稚園からの友達である。

「行こう行こう、ユキちゃん」

「うん」

 ユキの肩を叩き、セリナは歩き出す。

「あーあ、今日も退屈な授業聞いて、一日過ごすのかなぁ」

 セリナはぼやいたが、ユキにたしなめられ、空を見上げた。灰色の雲が空の半分を覆っている。

 二人並んで歩いていると同じ部活だった生徒やクラスメートたちともすれ違った。その度に二人は彼らと挨拶を交わした。

 セリナの学校、雷ヶ丘市立霙華中学校はもうすぐのはずだ。

 いつもの見慣れた風景が通り過ぎていく。違うのは人だけだ。

 それに、天候や気分によっても見える景色は、その日によって違っているのはなぜだろう。

「えっ……?」

 セリナは目を瞬かせた。

 いつの間にか違うところに立っていた。

 どこだろう、ここは。

 友達は?

 町の人たちは?

 それらは一切、どこかに消え去っていた。

 銀色の壁で囲まれている。非常に広い部屋だ。

 足元も凹凸のない、まったいらな床で、天井もかなり高い。

 足で感じていたアスファルトの質感が、別のものに変わっていた。

 セリナは息を呑んだ。

 ここは、どこ?

 目を凝らし、見慣れぬ金属の壁を見回す。

 背後をふり返った。何者かに見られているような気がしたからだ。とても強く心臓が鼓動した。

 肌からはうっすらと汗がにじんできた。吐く息も弱い。

 声を上げそうになり、口をふさいだ。体中の汗も一瞬にして引いてしまった。

 そこにいたのはSFアニメに出てくるような巨大ロボットだった。

 赤を基調とし、要所を白で装飾された、細身のフォルム。腰は細くくびれ、腕や足は長い。指先はとがっていた。

 関節部にジョイントなどは見えず、流線型のパーツが鎧のように体を覆っている。

 背中には翼があり、折りたたまれていた。アニメの主役ロボットにありがちなシャープで細面な顔で、セリナにも『かっこいい』と思わせてしまうような外見だった。

 全体的に、女性のような優美な雰囲気が漂っていた。

「きゃっ!」

 セリナは頭を抑え、しゃがみこんだ。

 天井からズゥゥゥンという低く響くモーターのような音が聞こえてきた。 セリナは顔を上げ、天井を仰いだ。

 白いカプセルが天井に吊り下げられ、ロボットに向かって運ばれてきた。

 照明らしきものは見当たらないが、視界は不思議とはっきりしていた。カプセルは天井を移動し、ロボットに向かう。

 その額が上下に割れているのに気がついた。

「あの中に入れるのかな」

 急に目眩を感じた。頭が重くなり、両膝から力が抜けていく。

「セリナちゃん!」

 ユキに大声で呼びかけられ、セリナは正気を取り戻した。

「あ、あれ?」

 周囲はいつもの景色に戻っていた。

 セリナは辺りを見回した。生徒たちはセリナに目もくれることなく、歩いていた。

 肩をゆすられ、ユキに視線を戻す。とても心配そうな顔をして、セリナを見つめていた。

「大丈夫?」

「う、うん。もう平気」

 なるべく平静を装って応対した。


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