2-5
給食時間が終わり、昼休みに入った。
「セリナ、宿題終わったか?」
「何とか。全部じゃないけど」
「和人にでも聞くか」
「そうだね」
セリナと雲野はノートを持ち、霧沢和人の席に向かった。
ふと、和人の隣の席に目が止まった。
本来なら、いや、昨日までそこはユキの席だったはずだ。
なんだか妙な感じだ。
「カズ君、ここ教えて」
「どこ?」
セリナはちょっと甘えた声を出してみた。それに対し、和人は冷静に対応し、宿題を教えてくれた。
セリナと雲野は並んでノートに記入していた。
顔を上げると、和人の横顔がすぐ近くにあった。
少し体を傾けるだけで頬と頬がくっついてしまいそうなほどだった。
耳を澄ませば、和人の呼吸音のひとつひとつまでもが聞こえてきそうだった。
「つまり、これは」
セリナはわれに返って、慌ててノートに答えを書きとめた。それで宿題は終わった。
ハァ、と息をつくセリナとは逆に、雲野は意気揚々と立ち上がり、ノートを閉じた。
「わりぃな、和人。助かった」
と言い、自分の席に戻っていった。
「どうもありがとう」
セリナも礼を言い、雲野の後に続く。
「待って」
和人がセリナの手をつかんできた。
そしてそのまま近くに引き寄せられた。
「何?」
和人がこんな行動をとるとは想像しなかった。物腰柔らかで、人に何かを強要することを嫌う性格だと知っていたからだ。
「悪いんだけど。今日の放課後、剣道場の裏へ来てくれるかな?」
「う、ん……。いいよ」
あいまいな返事だったが、和人は手を放した。
「なんだろう」
小声で言ってはみたものの、何が起こるかはすぐに予想がついた。
―でも。
ユキと和人が付き合ってるのは知っていたし、偶然ではあったが、セリナは告白の場面をしっかりと見ている。
昨日だって、二人は学校にいる間ずっと仲良くしていた。
―ユキちゃんのこと、覚えているかな。急にいなくなった事情を知っているかなぁ。
ユキはセリナに黙って和人と二人でどこかに出かけていた。それも一度や二度ではないことも、知っている。
―何か知ってたらいいけど、頼りないな。
セリナは右隣の席を叩き、雲野を呼んだ。
「雪村弥生ちゃんって子、知ってる?」
「誰だ、それ」
やはりね。
予想していた通りだった。
手を引っ込め、スカートのポケットに突っ込んだ。今度か雲野がセリナの机を叩く。
「セリナ、その子誰だよ」
雲野は身を乗り出している。
「私の友達だったんだけどね、いつの間にかいなくなったのよ」
「悪いが、俺には他の学校に女の子の知り合いなんていないよ」
「このクラスにいたもん」
「セリナ、今日の欠席はゼロだぜ」
「だよねぇ」
雲野の言葉に対し、力のない声で言い捨てた。そして、前を向き、首を垂れる。
誰にも聞こえないように、セリナは小声でユキの名を呼んだ。




