轟け聖剣! マルミアドワーズさん!to青龍偃月刀さん!
※続きました
その日、中村はウキウキ気分で出掛けていた。最近避けられている気がする友人、佐々木からの久々の誘いだった。中村からすれば彼は親友とも呼べる存在だ、スルーされ続けるのは正直辛い。
原因は分かっている。今も中村の肩にちょこんと乗っている金髪碧眼おかっぱの利発そうな少女――聖剣マルミアドワーズ、彼女との契約が切っ掛けだ。そこで少し、価値観に行き違いが生じた。それだけだ。
「俺は変わったつもりないのになぁ、マンホールベースさん」
「マルミアドワーズです、わざと間違えるのはやめてください……マスターは、積極的過ぎるのが良い所ですが、悪い所です」
ぷく、とマルミアドワーズが膨れる。彼女も初めの頃と比べると随分と表情が分かりやすくなったな、と中村は思う。お互いに気を許したからだろうな、とも。
中村にとって佐々木に聖剣エクスカリバーとの契約を迫るのは、特に変わった事ではなかった。いつも通り強引に自分が神ゲーだと思ったゲームを勧める時、強引にアニメの視聴を迫る時、それと同じだ。ただちょっとだけ対象が大きくなっただけ、と。
それに――
「……マスター。聖剣or魔剣使いの反応があります。光る、回る、DXマルミアドワーズちゃんの感知能力です、概ね間違いはありません」
「いつもの奴じゃないのか?」
「いえ、いつも佐々木様に絡んでいるかわいそうな人ではありませんね。反応が違います……ひねくれていて、暗い」
「ほーん」
魔剣と聖剣は戦い合うがサダメ――と言う訳でもないが、時折こういう事がある。そしてマルミアドワーズにはその戦いの先触れと言うのか、目立った意思を感知する力があるのだ。
つまらなそうに中村は返し、しかしその手を持ち上げた。意図を察したか、マルミアドワーズはその身を剣へと変じさせる――輝き、周り、そうして目の錯覚であるかのようにいつの間にか、だ。中村の手には淡く輝く長剣が握られていた。
「そうだよなぁ。契約しなくても、それでスーパー聖剣&魔剣大戦から逃げられる訳じゃねーんだ」
呟く中村の顔は、平時より幾分か引き締まったものであった。
「ちょっちお嬢さん、よろしいかな」
『マスター、手つきがエロいです。そして今思い出したのですが自慰してから手を洗いましたか?』
「えっ、何、マイティパンサーさん見てたの? うっそ、いつもあの時間は夢中でプ○キュア見てるのに」
『正直30分でイタすのはやめてほしいです、マルミアドワーズです。というか質問に答えてくださいこのままでは満足に戦えません』
「……過去は大切じゃないぜ」
『私の今の気持ちを素直に伝えるとすると死ね、でしょうかこのマスターベーションマスター』
花田は困っていた。いきなり後ろから声を掛けられたかと思うと、青年がその手に握る聖剣と漫才を始めたのだ。なんというか、奇襲を警戒していたというのに拍子抜けである。
そう、その考えに至るという事は花田もまたスーパー聖剣&魔剣大戦を戦うべく剣を手に取った一人であった。
「セイちゃん、どう思う?」
『どうもこうもない。殺せるのならば、殺しておくべきだ』
彼女の薙刀のような武器――青龍偃月刀は極めて事務的に、極めてクールに応えた。涼しげで熱のない男の声、花田はいつもこの声に助けられてきた。熱を持ってはいけない、心を持ってはいけない。心を持ってしまえば、自分はただの一人の小娘に戻ってしまうから。
冷静を超えた麻痺した心のまま――殺さなければいけない。
普段の自分ならばこんなに軽々と青龍偃月刀を持ち上げられないだろうなと、そういう考えも消す。持ち上げられるし、振り下ろせるのだ。今の自分はそういったものなのだから。
「ふっ――」
呼気と共に振るわれた刃を――余所見をしていたはずの青年が受け止めたのだ。驚き、一瞬思考が止まるがすぐに持ち直す。そう、不思議ではないのだ。男は話しながらも、斬りかかられようがすぐ受け止められる位置に剣を据えていた。気付くのが遅れたのは花田の失態だ。
青年の目が花田を射抜く。この男、ただのマスターベーションマスターではない。
「やっぱりか……薙刀使い、お前がそういう卑怯な事をする奴か、計らせてもらったぜ」
『ところでマスター、本当に手は……』
「あ、洗ったよ! お前がテレビの前でプ○キュアと一緒にダンスしてる間にな!」
気の抜けたやり取りをしながらも、青年は刃に両手を添えた。
この一合だけで実力差までは分からずとも筋力差ぐらいは分かる、まともに押し合えば負けるのは自分だ。悟った花田は青龍偃月刀に込める力をずらし、横合いに飛び退る。
斜め後ろ、数m。聖剣魔剣使い同士ならばさして遠い間合いではない。しかし踏み込み近づかなければいけない距離なのもまた事実。青龍偃月刀がそのリーチを生かせる距離だ。
「あんたお前で殺し合うのもなんだ、名前を教えてくれ。ちなみに俺は中村だ」
『その聖剣、マルミアドワーズ』
青年、もとい中村が名乗る。やりにくい。
手の中で青龍偃月刀が震えた――その意図は分かる。そういう細かい取っ掛かりが躊躇いになるぐらいなら、早々に付き合って切り捨てておけと、そういう事だ。
「花田だ。そしてこちらは青龍偃月刀」
『お初にお目にかかるが、二度目はないぞ』
青龍偃月刀の刃を下げてじり、と距離を詰める。さて、ここでリーチの差が出るように少しずつと距離を詰めていけば、花田の方が早く攻撃圏内となる。『自分が殺せて、相手が殺せない』距離のアドバンテージ差は大きい。余裕の分だけ、攻め手も変わる。
ならば先に焦れるのは中村。逃げるにしても攻めるにしても必要なのは速度だ。こちらの攻撃範囲から逃れるか、攻撃範囲に立ち向かいながらその内側へと潜り込む速度。そして速度を出すのに必要なのは、その為の挙動。
一瞬の隙。些細な足運びの変化。それを見るために研ぎ澄ます。花田は己を無心の中に沈めた。機械的に、冷静に。勝つのだ。
「そいやっ!」
何故か気の抜ける声と共に放たれたのは奇策――その手に持った聖剣を投げるという、聖剣魔剣使い同士の戦いではありえない事だった。この武器を持ってこそ同じ土俵に立てるのだ。一歩の踏み込みと共に垂直に投げ放たれたマルミアドワーズは、刃を花田に向けて勢いのままに飛ぶ。物理法則を無視したような投擲、やはり常識は通用しない。
しかし、花田の集中は奇策程度で崩せるものではない。タイミングを合わせて青龍偃月刀で下から掬い上げる。打ち合う硬質の音――切り結べば地力で負けるが、流石に手を離れて放り投げられたもの程度ならば迎撃は容易い。マルミアドワーズはくるくると回り、あえなく花田の背後へと――
『――ッ、前を』
見ろ、と。青龍偃月刀がそう声を紡ぐ前に花田の視界には飛び上がる中村の姿が広がっていた。
そう、数m程度ならば大した距離ではない――中村はマルミアドワーズを手放す前の一歩、それはただ投擲に勢いを付けるだけでなく自ら飛び上がる為の一歩でもあった。
長物の弱点の一つは取り回しの悪さだ。マルミアドワーズとほぼ同時期に飛び上がった中村を迎撃するには無理にでも振り下ろすしかないが――
「せいっ!」
弾かれる。掌底、横に逸らされた力のままに青龍偃月刀はアスファルトを抉った。焦燥、もし花田が正真正銘の達人ならばこうも簡単にはいかなかっただろう。この僅かな間だけでこの男は、中村は花田の技量を見切ったのだ。
『ところでマスター、彼女が達人だった場合どうしたのですか?』
「え、こんなマイナーっぽい武器を普通に扱える奴とか日本にいないだろ多分」
過大評価であった。
しかしそんな事に脱力している場合ではない。中村の靴裏が何の躊躇いもなく花田の腹に突き刺さる――剣を持っている内は苦痛にもある程度耐性があるとはいえ、痛みが全て消える訳ではない。鈍く、慣れない類の痛み。じわと広がる不快な痛み。
青龍偃月刀だけは手放さないと、そう決意した瞬間に二発目が来る。
「俺は女にも容赦はしない。何故なら、リョナもいけるクチだからだ」
『マスターはプ○キュアの三十分前だけでなく一時間前も見るべきです……』
漫才の距離が近い。見れば、マルミアドワーズは小人の姿となり既に中村の手に戻っている。ぐるり、マルミアドワーズが剣へと姿を変じ――中村は、青龍偃月刀を握る花田の手に剣を添えた。
その顔はリョナ趣味というのが本当なのか、気楽なものだった。あるいは、そう装っているのか。
「さて、剣を手放してくれよ。そうじゃないと指を斬りおとすとかそういう事をやらなくちゃいけなくなる。俺はリョナはいけるが、あんまり取り返しのつかない状態にするのは好きじゃないんだ。それはそれで萌えるが」
『マスターの守備範囲には理解が及びません……』
勝負あり、だ。青龍偃月刀も最早何も言わない。花田はこの男に負けたのだ。
だから花田は諦める。もう手を動かそうが足を動かそうがそれよりも先にマルミアドワーズが彼女の指を斬りおとす。片手を失っても戦えるほど彼女は強くない。だから諦める。
一人で勝つことを、諦める。
『……あっ、マスター! 微弱な』
マルミアドワーズが言い終わる前に。中村の腹から剣が『生えていた』。血は出ているが――よく見ればざっくりと貫通しているのはシャツだけだ、脇腹をざっくりと深く切っただけ。とはいえ、それだけでも人間には十分致命傷となりうる。
中村の背後に立っているのは、花田の協力者である男。恰幅の良い、という表現が躊躇われるようなだらしない肉を揺らした眼鏡の男。花田よりもさらに弱いが、それ故に気配が薄い。いざという時の為の伏兵だ。
「ぇ……ちょ」
足に力が入らないのだろう。中村は膝から崩れ落ちた――血が舞う。その光景から花田は目を逸らさない。やったのは協力者である男だ。だが、それを引き起こしたのは間違いなく花田なのだ。そしてこれから彼に死を与えるのはやはり、花田なのだ。
協力者はこの男に手を下すのはそれほど躊躇わないだろう。しかし花田はやらなくてはならない。自分の願いのため、背負って行かねばならない。
「……ごめん」
相手に聞こえたかどうか分からない、小さな言葉。それと同時、花田は刃を振り下ろす。青龍偃月刀は何も言わなかった、それが有難い。
そして過たず中村の脳天へと振り下ろされた刃は――再びアスファルトへと突き刺さった。
混乱、私はこの男に向けて振りおろしたはずだ。目の前に男はいる。目の前に刃がある。何もおかしくはない。おかしくはないはずなのに、男に刃は到達していない。目がおかしい。何かがおかしい。捻じ曲げられている。捻じ曲げ、普通ではない。そう、普通ではないという事は――聖剣や魔剣?
思考の波を抜け、花田は飛び退る。それを見て協力者もまたよたよたと下がった。
「ひゃーっはっはっはっは! 超かっこいいタイミング見計らってた!」
『おぉいおい、それで中村が死んじゃってたらどうするんだよ? いや、それもいいか……奴は所詮、それまでの男だったという事。俺が血を吸うまでもなく、な』
「ひえぇ~かっこよさのあまり鳥肌がたつぜぇ~。イッツ魔剣ジョーク!」
空気が凍る――現れたやかましい一人と一本は異様なまでの存在感を放っていた。いや、そんなものなくともこの会話の圧倒的寒さに空気が凍っていた気もするが、少なくとも花田と協力者は男の凄味に凍った。
金に染め上げられた髪をたっぷりの整髪料で逆立てさせ、大きく開いた襟元には骸骨のシルバーアクセ。頭のてっぺんから足元までちょっと典型的イメージのちょい悪ファッションで固められた男である。その顔には享楽的な笑みが張り付いている。
そして――手に握られた剣は、ぐにゃっていた。
「お、お前は……『魔剣組』の……」
協力者が口を開く。そう、花田も知っている。この街には関わってはいけないと言われる剣の契約者が二人いる。いや、正確には一人は契約していないのだが。
一人は『これから花田が襲撃するつもりだった』男、佐々木。エクスカリバーの仮契約者。
そしてもう一人は『魔剣組』と呼ばれるコンビ。その剣の名が判明しない故にただ魔剣と呼ばれる彼。
「ギャハハルト=エッジバーグ!」
凄い名前だった。でもこれが本名らしいので仕方ない。
日系三世である彼は魔剣を手にし、祖先の故郷である日本に腕試しにやってきたらしいのだが、近頃はこの街を拠点にしている。それは聖剣魔剣がこの街に集いつつあるからなのか、はたまた別の理由か――
ともあれ、ギャハハルトが相手ならば二人がかりでも怪しい。花田は男と目を合わせる、なんとか逃げる機会を伺わなければならない。
『さぁ、散りな散りな、敵さん達よ! 俺達は中村が起きた時にどうかっこつけるのか考えるのに忙しいんだ!』
「ひゃっはぁ! とりあえず「う、ここは……」って言わせるように色々考えようぜぇ!」
なんか逃げて大丈夫らしかった。
そんな訳で、花田は普通に撤退したのだった。
「あの男……中村の攻撃は、普通に私の視界に入っていたはずだった。しかし私は見逃した。それがあの剣の能力……なのかもしれない」
「持ち主の気配を消す……という事か。そういう神話はありそうだね、マルマルウマウマとか聞いた事のない剣だし」
「あぁ、マリーゴールドシューズなんて聞いた事がない」
花田と協力者である男はホテルの一室で作戦会議をしていた。本来ならばビジネスホテルで一室ずつ取りたかったのだが、埋まっていたので仕方なくこちらを取ったのだ。男と同じ部屋で寝るのは花田としても気味の悪いものがあったが、安全であるという事に関しては確信があった。何故なら
「ふひひ……勝ち抜いて、僕は幼女を侍らせる……楽しみだなぁ」
彼の性的嗜好は非常に偏っていたからだ。これならばあの中村の方がマシだ、と花田は溜め息を吐く。
この男とはある程度勝ち抜くまでの協力関係。花田としてもけして負ける事がないと確信しているから組んでいるし、男もまた花田を盾にした方が生き残りやすいという都合がある。ギブアンドテイクだ。
「はああぁぁ……もう、今日は男とばっかり会って疲れたからなぁ。僕を慰めてねぇ、ふたばちゃん……!」
男が水着姿の童女をプリントした抱き枕に埋もれる光景を見て、花田は流石に眉をひそめる。趣味は人の勝手だ、しかしそれを気味悪がるのもまた人に勝手だ。口出しこそしないが、花田は彼を気味悪く思っていた。
花田はそっとベッドの上に視線を投げかけた。そこにはミニチュアサイズの人間、中華風の鎧を着た精悍な男が居た。たくましい髭を生やし、厳つい表情で目をつむっている。青龍偃月刀である。
「でも、私の願いも……ようじょはーれむ、だかとそんなに変わらないか……」
「たとえそうでも、信じる道を行けばいい。同じ道を往く限り俺はただお前と共にある」
同じ道を往く限り――その言葉を、胸に刻んで。花田は目を伏せる。
「そうだね、セイちゃん。私達は運命共同体」
「勝ち抜く理由がある、互いにな。それだけだ」
「うん……」
花田は人の目を見るのが嫌いだ。だからか、青龍偃月刀はいつも目を閉じてくれている。
***
「う……」
中村は目を覚まし、そして目の前にあるそれを見た。反射的に声が出る。
「ココア?」
「ふっ覚えていないのかとんだお気楽野郎だな俺のライバルだというならもっとしっかりしてくれ……ぜーはー」
『お前はやられて倒れていたんだぜ俺達以外に負けるなんて許されねぇぞくっくっく助けたんじゃねぇ気まぐれさ……ぜーはー』
中村は状況を察した。「う、ここは……」と言わせて否定する間もなくかっこいい事を言いたかったのだこの二人は。
ガレージであった。乱雑に様々なモノが転がっているガレージの隅、パイプベットに中村は寝かされていたのだ。目の前にぶら下げられたココアの袋を払いのけ、中村は立ち上がろうと――
「っと」
そうして胸に張り付くマルミアドワーズに気付いた。上半身を起こしても落ちない――シャツにしがみついている。そこで斬られた事を思い出し脇腹へと目を向ける。包帯が巻かれているがシャツはそのままだ。斬り裂かれて、血が滲んでいるどころか染まっている。気分が悪い。
しかし、そんな状態の自分に張り付いていてくれたのだ、マルミアドワーズは。剣を握っていれば身体能力は治癒力・苦痛耐性含め向上する。看病してくれているようなものだ。いたわるように、中村はマルミアドワーズの頭を指で撫でた。
「とりあえず……サンキューな、魔剣組。いや、お前らがかっこつけたいから助けたのは分かるんだけど、それでも一応」
『止血とか超したから超安心だぜぇ! あと俺の能力も使った、ここに居る間はイタイの飛んでけモード! いやぁ、俺達看護師になれるんじゃねぇ?』
「ま、拭った血よりも流させた血の方が多いんだけどな……?」
『イイィイヤッホーゥ! イッツ魔剣ジョーク!』
話しているだけで疲れる奴らだった。
しかし実際感謝はしている。ぐにゃ剣の能力はその見た目通り『認識を歪める事』。怪我が治る訳ではないが、痛みは大分和らいでいる。
ちなみに彼らが隣町学校最強にして近隣でも有数の魔剣使いとして数えられるのはその能力のおかげでもある。接近戦に置いて受ける事も避ける事も叶わず、多くの聖剣魔剣使い達が散っていった。さらにただ剣士としてもギャハハルトは一線級だ。
「っていうか、マルミアドワーズさんも寝てるんだな……今何時だ?」
「まだお前が倒れてから一時間しか経ってねぇ、三時だよ」
「そっか。ならまだ佐々木との予定には間に合うな……」
ちなみにワクワクし過ぎて約束の時間より五時間ほど早く家を出た中村である。
これからの予定を立てる。魔剣組が特に襲ってこないという事は今日のかっこつけはもう済んだのだろう、今度エロゲでも差し入れしようと誓うが今日の所はもう関わらなくても大丈夫だ。大丈夫だ!
となると問題は青龍偃月刀を使う女――花田となる。中村にとって佐々木の家に行くのは確定として、その前にあれを片付けるかどうかだ。方角的に佐々木を狙っている可能性が一番高い。あまりに強すぎると評判になっている佐々木、だからこそエクスカリバーと契約する前に……と考える奴は少なくはない。幸い佐々木を守ろうとする中村以外のクラスメイトも居たりするが、恐らく彼女は花田を見つけてはいないだろう。感知能力ならばマルミアドワーズが頭一つ抜けている。
「おい魔剣組、お前らがあいつ片付けといてくれないか?」
「あぁ? なんで俺だよ、因縁ねぇよ、因縁ないと盛り上がらねーんだぜ。せめてもっと時間かけてよぉ……」
「ひゃはは、聞かせちゃったじゃん。あれを聞いて生き残った奴はいないんだろ?」
「ぬぐぅ……」
魔剣組はかっこつけで、残虐で、ヒールめいた言動は裏切らない。それが彼らの矜持であり戦う理由だ。だから彼らの美学を指摘すれば必ずそれに従うだろう、と中村は踏んでいた。
ぬぅん、と眉間にしわを寄せて迷うギャハハルト。それからポン、と手を叩いた。
「くっ、雑魚を蹴散らしている間に本命を取られてしまっては仕方ないな……」
『やられちまったぜ……流石はマルマインスパークだ……』
どうやら、どうしても花田との決着は中村に付けさせたいらしい。因縁が出来たからだ、魔剣組は自分が思うカッコよさをライバル認定した中村にも押し付けたがる。
どうしたもんかと頬をかいている中村の胸元で、がばっとマルミアドワーズが身を起こした。そのまま転げ落ちそうになるのを中村はつまみあげる。
「助かりましたマスター、マルミアドワーズです。……さてマスター、あの女だけは自らの手で倒すべきだと思います。もし彼が佐々木君を狙っているとしたら、こんないい加減な人たちに任せられますか?」
「あぁ、うん。それな……」
魔剣組はなんかかっこよさげな演出さえすれば「今お前を倒すのは惜しくなったぜ……」『次に会う機会まで、腕を磨いているんだな……』「『キーヒッヒッヒッヒ!』」とか言って帰るタイプだ。絶対倒したい相手にぶつけていい奴ではない。
仕方ない、と溜め息を吐く。
「じゃあギャハハルト……今、このガレージを囲んでいる奴は任せたぞ」
「おう、俺のベストプレイスを守るためにもやらせてもらうぜ。なんか、こういうの超かっこよくね!? アジトっぽくね!?」
『なお、激イカすコンポを買うために目下バイト中だぜぇ! 洋盤揃ってる良い店知ってるなら俺らにぜひぜひ教えるべき!』
「マスター。早く行きましょう。なんだかすごく疲れます」
俺もだよ、と中村はマルミアドワーズを肩に載せ――決戦の舞台へと向かうのだった。
***
マルミアドワーズの感知能力をもってすれば中村が花田を見つけ出す事は簡単だった――殺気を放ち中村をおびき出そうとしているのならば尚更、だ。
河川敷だ。野球をしている少年達からも大きく離れている、お互いに周りを気にせず戦える空間だ。
「龍とは何か知っているか」
花田は口を開く。決意を瞳に込めて、青龍偃月刀をその手に握って。
「龍とはすなわち、河だ。巨大な河が氾濫し荒れ狂う様子、肥沃な大地を潤す恵み、それら人の手に及ばぬ神の如きものを、過去に人は龍と呼んだのだ。つまり」
花田の言葉の意味は、中村にもすぐに理解出来た。
河川敷、つまり河原。河の傍だ。花田が背にする河の水が持ち上がる。龍が首をもたげるかのように、あらゆる物理法則を無視して、河が花田に従う。
「ここは、青龍偃月刀の舞台だ!」
叫び――呼応するように『龍』が中村に襲い掛かる。
中村の肩の上で龍を睨むマルミアドワーズ。その身体は恐怖ではなく戦意に震えている。
「ここが貴方の舞台? そう言うのならば、見せてやりましょう。世界は常に私オンステージだという事を」
「マヨキンステージさんは目立つ事にかけては貪欲だよなー」
やれやれと言った風にいつもの漫才をしながら――二人は襲い掛かる龍に対して立ち尽くしていた。
勢いを付けて直角、脳天から大地へと突撃する龍。そこで中村は動いた。その手にマルミアドワーズを握り、刃を龍へと振りかぶる。
『マルミアドワーズっ、です!』
マルミアドワーズと龍が激突する。だが水というモノは断ち切る事が出来ない。圧倒的な力のまま面を保ち、障害物を呑み込みながら直進を続ける――そのはずだった。
龍が、収束する。マルミアドワーズの刃筋に合わせるように、面積数m分を誇る龍が細く纏まっていったのだ。そして龍は斬り裂かれる――傷がつく訳ではないが、丁度中村を避けるように二つに分かれて怒涛と降り注いだ。
『我が能力は目立つ事……! 私よりも目立っている聖剣魔剣を探しだし、そして私の存在感を見せつけるという事です。あらゆる存在は、私から目が離せなくなる』
「水だろうがこの通りって事だ!」
降り注ぐ水を全て斬り裂き、中村は花田へと距離を詰める。龍であった水は地面に吸われながらも緩やかな傾斜のままに河へと戻ろうとしている。
花田の言った通りだった。青龍偃月刀の能力はあくまで『河を操る能力』、『水を操る能力』ではない。大質量の水を叩きつけられるのは堪えるが、散った分は気にしなくてもいいという事だ。正面勝負、中村にとって魔剣組よりよほどやりやすい相手であった。
花田ももう驚きはしない。そして、万全を期す。中村の間合い――あえて一度その距離を許してから身を引いた。
「――!」
刃を振り下ろすタイミングを逃し、マルミアドワーズを振り上げたままの中村に襲い掛かる、花田の足元の水。
河に接してさえいれば、それはもう河だ。支流というものがあるのだから。水流の端が河に辿り着いた時点でそれは既に花田の操作範囲である。
次に引いたのは中村だった。斬りかかる体勢から咄嗟に避けられるという事は警戒していたという事。恐らく青龍偃月刀での直接斬撃を、だ。残念ながら花田にそこまでの技量はないが、警戒されているという事実そのものが武器になる。
「それに、龍はいくらでも作れる」
河より再び龍を形成――中村へ向かって撃ち出す。今回は先程よりも込めた力が少ない、だがその分何度でも――何度でも、撃ち出せる。
龍の射出は魔剣的リソースを消費するが、体力自体は消費しない。一方、向こうは斬るにしてもかわすにしてもどんどん消耗していく。身体能力が向上しているとは言ってもやはり人間、限界はある。
龍が中村の脇腹を掠ったのは、五度目の射出であった。
「ぐ、っう……!」
大袈裟に顔を顰める中村――脇腹の負傷はそのままだ。聖剣魔剣使いは多少の失血程度で死にはしない。しかしその苦痛はまともな生活しか送ってこなかった人間にとって耐えられるものではない。
『撃て、花田』
「分かっているッ!」
その隙を狙い、六度目の射出。腹部への直撃だ。中村は剣を取り落し仰向けに倒れる――いや、違う。確かに腹部へ直撃したはずが、そこには中村はいない。
ぞく、と花田の肌が粟立った。魔剣組の横槍の時と同じ、能力により五感をくるわせられた。相手の術中に嵌まっているという感覚。その場から動こうとした時、背後から腕を掴まれた。
『私の存在感は、一瞬であるなら剣を握る人間がいると錯覚させる事すら可能です。観念しなさい、青龍偃月刀の担い手よ』
「っても、油断を作るために脇腹に食らったのは……ってて、マジで痛いけど」
マルミアドワーズはまた人型となり中村の手に収まった。このコンビネーションは何度も繰り返してきたのだろう、鮮やかな手際だ。こうなってしまえば単純な力では敵わない。
それでも、花田は抗う。
「私は……私はっ、願いがある! 認めさせるんだ、理解しようとしない奴らに!」
「どぁっ!? 大人しくしろって、命まで取る気はねぇから」
それでも、戦えなくなったら死んだも同然だ。
花田の理想は叶えなくてはならない。例え人を殺したとしても――そうだ、花田の考えを理解しようとしない者に価値などない。
だから、殺さなければ。花田の瞳がひたむきに、ただ一点を見つめる。無闇に暴れるのを止め、青龍偃月刀へと力を込める。
『そうだ、花田よ。敗北してその夢を散らせるぐらいならば、狂ってしまえ。勝利の為に、より深く。お前の意思を全ての人に届けるために』
「ぅ、あ、あぁ……!」
負けたくない。負けたくない。負けたくない。
一つの方向へ向ける思いは結果へと結実する。聖剣や魔剣はある程度人の気を大きくする力がある。願いを求めるように、素人であろうと戦う事が出来るように。ほんの些細な、背中を押すだけの力。
だがしかし、その力を剣と契約者の間で増幅すれば――人を狂わせる力にもなり得る。ただひたむきに願いの成就を求め、躊躇いなく戦い続けるための獣になる為の呪い。
『私は、お前と共にある』
「ガアアァ!」
尋常ならざる叫びをあげ、花田は中村の拘束を振り切った。人の限界も、魔剣の限界も考慮しない動き。人としての技術を捨て、獣となった者。単純な力だけなら今の花田の方が上だ。
『聞け、小僧! 花田は苦しんでおったのだ、己の性的嗜好に! ふじょしと呼ばれる、それに!』
そう、花田は腐女子であった。それもただの腐女子ではない――腐の中でも特に隠れる必要のあるジャンル、ナマモノを扱う腐である。実在人物をテーマにホモォする、本人たちに晒してはいけないものだ。
腐女子と言えばそのグループに迎えられ、そして花田は自身の分からぬままに排斥される。花田は愚かであったが、彼女を教え諭す者が居なかったのもまた事実だ。自分の何が悪いのか分からないままさ迷い歩き、悪評を増やし、そして花田は広大なネットの海でも小さい教室という空間でも孤立した。
『故に、花田は理解者を求めた! それを誰が責める事が出来よう! 花田は理解者が居らぬゆえの死すら覚悟しておったのだ!』
価値観も、苦しみも、痛みも、それは全て人によって違う。理解者が居ない痛みは花田にとっては致命的であったという、それだけだ。
花田は傲慢だった。最後の瞬間まで誰かに見てもらいたいと願い、それ故の学校の屋上からの飛び降り自殺。青龍偃月刀が彼女に出会ったのはその時だ。
青龍偃月刀はホモエロなど知らない。理解したいとも思わない。しかし切実な願いを聞いてしまったからにはそれを叶えたいと、そう思ったのだ。
花田は人の目を見るのが嫌いだ。誰もが自分を蔑んでいるか憐れんでいる気がするから。青龍偃月刀の目もまた、彼女を憐れんでいた。
「死ね、死ね……死ね! 私を理解しないなら、死ね!」
『花田の願いは、世界全てからその偏見を取り除くこと! 自分の趣味を晒そうがゴシップ程度となる、そんな世界だ! 少女の些細な願いを阻むのならば、容赦はせん!』
龍が、生まれる。次は一体や二体ではない、数十の龍が中村へと殺到する。
避けるだとか、集めるだとか、そういった事が言える質量ではない。圧倒的な水流に呑み込まれながらも――中村はぽつり、呟いた。
「つまんねぇな……」
***
『トンデモ横町~風にさらわれあばよパンツ~』というエロゲーがある。
まぁ色々と端折ってしまえば主人公は破天荒であるがゆえにヒロイン達にベタ惚れはされないものの、なんやかんやそういうシーンもある、そんな物語だ。ハーレム展開ではあるがただ惚れられる訳ではなく、無理やりもない。理性あるエロス。後に『終末パンツ大戦』へと連なるシリーズの一つである。
それは中村のバイブルであった。中村が進むエロの道を決めた一作であり、そしてそれを中村に貸し出したのは佐々木だ。
中村の原点は佐々木だった。だから佐々木にはいつも変わらずにいてほしい。闘争本能のままに襲い掛かってくるような奴らならばまだいい。だが、歪んだ願い・真摯な痛み、そういったものを目にしてほしくはない。スーパー聖剣&魔剣大戦の表舞台に立ってほしいのだ、佐々木には。暗殺なんてされそうな位置にはいてほしくない。
中村にとって佐々木は恩人であり、師であり、親友なのだ。
そして例のエロゲー略して『横風』に中村が学んだ事の中で特に大切な事は二つ。
「意思が介在せぬエロは獣のエロスなり。真に人として追求すべきは愛と希望の備わった人としてのエロスである」
「他人に対して自身の恥部を隠す事は相手への配慮である。自身への配慮とはならぬ。真に恥部を曝け出してこそ、それは真の主張となる。時を選んですら己を出せないものはただの臆病者だ」
故に中村の願いは解放。この世全ての「自分を恥ずかしい」と思っている人間の解放だ。罵られるのが嫌ならばいい、他人に合わせたいのならそうするべきだ、だが――自分で自分を否定するのは、クソだ。
ロリコンだろうが熟女趣味だろうが薔薇だろうが百合だろうが鎖骨萌えだろうが臭いフェチだろうが――その他ありとあらゆるどんな性的嗜好だろうが、己に恥じる事なく立てばいい。
それこそが中村が歩むエロ覇道。己一人が歩むならば道はいらぬ、後に続くもののための道だ。中村には意思がある。大きくて他人を踏みにじるような願いが叶うぐらいならば自分の道を押し通してやろうと。
だからどれだけ倒れても中村は剣を握る。立ち上がる。誰よりも前に立つ。きっと叶うその日まで、戦い続ける。
――行くぞ、マルミアドワーズ
英雄のように。
***
西の方角で爆発的な光が巻き起こる――ギャハハルトは目を細めてそれを見ていた。
「始まったか……と意味深な事を言ってみたが、実は今回は普通に知ってるんだよな俺ら!」
『どやさどやさ! ま、あいつらは俺達のライバルだからな!』
マルミアドワーズの真の力とは「目立つ事」ではない。それは本当の力から漏れ出した能力の一端に過ぎない。一人と一本は身をもってその事を知っていた。
今、魔剣組に立ち向かうのは一組のみ。眼鏡デブの男が雇った魔剣使い達が群がっていたのだが、その多くは斬り伏せられ、あるいは敗走していった。雇い主である眼鏡デブも逃げ、残ったのは彼だけだ。
無精ひげにざんばら髪。武士のような男の腰にはやはりというべきか、日本刀が収まっている。
「元より金などはどうでもいい、私は強者を求めてここに来ただけ。この状況は願ったりだ……ギャハハルト殿、手合せ願おう」
「そういう趣向は好きだぜ俺ぁ……こいよ」
無遠慮に適当にぐにゃ剣を振り回しながら、ギャハハルトは男へと近づく。対し男の構えは居合。間合いにはいれば一瞬で斬り伏せるつもりである。
しかしギャハハルトはまったく警戒もせずその範囲へと踏み入り――瞬間、一閃。
「見事……っ!」
呟き倒れ伏したのは居合の男であった。
ギャハハルトの能力には速さも強さも関係ない。相手の剣戟を歪めて回避し、自分の一撃を歪めて当てるだけ。言うほどに簡単な作業ではないが、ギャハハルトにはそれを操作するだけの腕前がある。例えるならば剣を振るう一瞬のうちに脳内でパズルを完成させるかのような神業。それを悟ったからこその男の賞賛。
「最後に、剣の……名を、教えてくれぬか」
『ねぇよ。一万そこらは聖剣魔剣があるんだ。大した逸話がない、あっても無銘――そういうのも珍しくねぇだろ? 俺はそれよ、ぎゃはは』
ぐにゃ剣のいつも通りの笑いに、男もふっと微笑み返した。
「そう、か……くくく、私達は銘無き刃に敗れたか……」
『ま、今名乗る必要がある時は「名も無き悪意」と名乗らせてもらってる。どうよどうよ、俺の残虐性を表していて、超ぅ~COOLだろ?』
「ちなみに、俺・命・名!」
いやそれ普通に中二病――そういう間もなく男は気を失った。
ギャハハルトはもう空を浮かべるばかりである。出来るだけかっこいい角度を心がけて、死屍累々と気絶させた奴らを積み重ねた上に座った。一番下の人が苦しそうだが、かっこいいからいいのだ。
輝きが世界を包む――それを発しているのは、中村の手にあるマルミアドワーズである。
『これは、一体――っ!?』
叫ぶ青龍偃月刀。彼や花田からはただ光が満ちている様子しか視認できない。
「行くぜっ、マルミアドワーズ!」
『強気になって叫ぶマスターにドキドキですっ――マルミアドワーズです!』
そうして光は龍をはじく。ありとあらゆる攻撃を拒絶する輝き。中村が踏み込むと、河川敷の雑草が千切れ飛んだ。
「ちっくしょー……コントロール上手くいかねー……つ、疲れてきた……」
『あともう少しですマスター。ふぁいとっ、ふぁいとっ』
「んー……っしゃあ!」
光がしぼみ、マルミアドワーズの刀身へと。そうして文字を刻む――『H ERO』と。
マルミアドワーズとは英雄ヘラクレスが所持していたとされる剣。しかしその伝説が語られるのはまた別の英雄譚である。その物語の中でもまた他人の手に移っている――英雄から英雄へと移り変わる剣。マルミアドワーズ、その特性はただ「英雄」。
物理的な攻撃力を持つ『光』もまた副産物に過ぎない。英雄に差す後光だ。というより、光や注目される事、そのような副産物の塊こそがマルミアドワーズの能力と言える。なんといったって、本体の能力が「追い詰められるとかっこよく立ち上がれる」というものでしかないのだから。
『H ERO』の刃を手に、中村は立ち上がった。
「ところでハイエロパーティクルさん、なんでエイチとイー・アール・オーが離れているんだろう」
『マスターが持つ前はこんなつもりはなかったのですが、不思議ですね』
ともあれ。中村は輝くマルミアドワーズを花田に向けた。彼女はまだ理性を失っているが、中村にとっては関係ない。
叫ぶ。
「随分とつまらねぇなぁ、花田! 誰かに拒絶されるって事は、誰かに自分を晒せたんじゃねぇか! お前、かっこいいはずなのに、それを押し付けるのはかっこわりぃよ!」
『マスター、彼女に言葉は……』
「それでも言う! おい花田、きっとどっかにお前を分かってくれる人はいるぜ。俺達は人間だ、性的嗜好も分かり合える……だが! それだけを急いだ時点で、お前はつまらねぇ奴だ!」
走る。迎撃にと射出された龍は意味を為さない、全て光によって弾かれる。
「英雄」の力はその根拠を「揺るがず自分の正義に邁進する自己」、「他者から見てどのような存在か」と言うその二つによって構成されている。その二つは今、激しく高まっている。
花田に理性はない。しかし青龍偃月刀は思ってしまった――彼なら、と。花田を救うのは他の全てを変えてしまう事ではなく、もしかしたら。
『言い忘れたので今言わせてもらいます、マルミアドワーズです! あなたの、皆の、世界の! スーパー英雄剣、マルミアドワーズでございます!』
マルミアドワーズの叫びと共に光が収束し剣の延長線上と、新たな剣を構成する。光の巨大剣――中村はそれを、横薙ぎに振るった。
「うぅおおおおおりゃぁの、どっせえええぇええい!」
『花田、防御だ! 防御せよ!』
龍による防御は全て光に触れた瞬間に吹き飛ばされ河へと吹き飛ばされ戻っていく。迫る刃の勢いを弱める事すら出来ない。
『う、おおぉおおおお!?』
光の刃は――花田と青龍偃月刀を呑み込んだ。
「は……お前みたいなのは、俺のつくった道の後を歩いてりゃいいんだよ」
『惚れちゃいます、マスター』
花田は河川敷に倒れていた。あらゆるものを拒絶する光、制御段階でそれは悪意にのみ激しく対応するように調整されていたらしい。思えば、草葉が影響を受けたのも最初の余波のみだ。
中村は「あっ、やべ。遅刻する! お前、今度ちゃんと話するからな!」と言って去っていった。嵐のような男だ。
そう、嵐のように――花田の悩みを、ずたずたに吹き飛ばしていった。
花田はすぐ傍で辺りを警戒している青龍偃月刀を胸に抱きかかえる。いつものように、青龍偃月刀は目を逸らした。
「ねぇ、セイちゃん――顔を、眼を見せてくれないかな」
花田は眼を見るのが嫌いだった。他人は花田を蔑んでいるか、憐れんでいるだけだったから。
「しかし……」
「いいの、お願い」
少しためらって――それから、青龍偃月刀は花田に向き直って目を開く。
精悍な顔、そこに浮かぶ躊躇い。そして間違いなく――花田を憐れむ、瞳。
「ごめんね……セイちゃん、ごめんね……憐れんでいるって事は、私を心配してくれているって事だもんね……」
花田は涙を流して青龍偃月刀を抱きしめる。彼はただ何も言わず、それを受け止めていた。
世界中にはまだ花田が話していない人間が沢山いる。その中には趣味が合う人もいるだろうし、合わなくても聞いてくれる人が居るかもしれない。押し付ける必要はないのだ。わざわざ孤独を嘆く必要はないのだ。殺す事も、ないのだ。
花田はその日少し成長して――ようやく明るい方向へと、人生の一歩を踏み出したのだった。
――この日、中村がマルミアドワーズと佐々木とエクスカリバーとでパーティーゲームで翌日まで盛り上がったのは別の話
とりあえず思いついた設定は大体入れたはずです! これで完結したぞヤッター(フラグ)