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四章 再会



 開かれたままのドアから、立ち去った筈のショナと彼が握手しているのが見えた。

「いやあ、あの有名な聖者様にお会いできるなんて光栄です!あ、色紙にサイン貰っていいっすか?図書館に飾る分と自宅用に」

「ええ。私ので良ければ幾らでも」サラサラサラ。「はい。少し失敗してしまいましたが、これでいいですか?」

「全然大丈夫ですって!うわぁ、ありがとうございます!うちの家宝にします!!」

「そんな。価値のある物ではありませんけど、喜んでもらえたなら私も嬉しいです」

 極上のエンジェル・スマイルを向けられ、坊やが腰砕けそうになりながら笑い返す。と、ユアンが立ち上がった。片脚が裸足のままドスドス入口へ向かい、ポカッ!「ぎゃっ!?」

 だらしなく口を開け、耳まで真っ赤になった脳天に本日二発目の拳骨を入れる。

「サボってないでとっとと図書館へ戻れ!」くるっ。「お前はこっちに来い!おい貴様等!こいつは見世物じゃないぞ!!」

 好奇心で集まっていた近隣住民達を一喝し、小晶さんの手を引いて戻って来る。バタン!ガチャッ!

「チッ、くそっ!お前にもここの事は教えなかったぞ!?なのにどうして」

「あ、えっと、これです」

 ポケットから取り出したのは、見覚えのある四角くて薄いプラスチック板。紛れも無く瞑洛図書館の貸出カードだ。裏にはちゃんとユアン・ヴィーの署名も入っている。

「前に会った時シャーゼさん、シャバムに着くまでコートを掛けてくれましたよね?どうも私が眠っている間に、燐さんが財布から抜き取ってしまったらしくて……」

 一瞬何か言いたげに口をもごもごさせた後、ペコリ。

「探しました、よね?ごめんなさい。お返しします」

 謝らなくても全然構わないのに、相変わらず良い人だな。しかしあの時、確か座席の近くには誰もいなかった気が……?でもそれなら納得。だから図書館で訊いてここまで、

「あ、ああ。わざわざ済まん」

 動揺冷めやらぬ手で受け取り、定位置の財布に仕舞う。ふと視線を移すと、肉親の方々はニヤニヤしながら二人を見つめていた。

「もう用件は済んだだろう?」女家族を一瞥し、「暇人のこいつ等はともかく、お前が長時間シャバムを離れているのは拙いんじゃないか?」

「暇って、折角有休取って捜しに来たのに」ボヤくお姉さん。

「それなら大丈夫です。午後からこの街の病院を訪問すると、きちんとエルや美希さんに言ってから来ました」

「また慰問だと?昨日環紗で散々したばかりだろう?過労で倒れても知らんぞ」

 あ、転んでもちゃんと一応目は通したんだな。感心感心。

「なら尚更早く行って準備しろ。きちんと昼飯を食ってからな」

 その台詞に、何故か姉さんとお母様がクスリ。

「?ところでアムリ、お前が付き添いか?それとも神父か誰かが病院で待っているのか?」

「その前にシャーゼ、小晶さんに怪我を治してもらったら?」お母様が提案する。「おでこ切っているし、脚も転んだの?赤カブみたいに真っ赤」

「母さん!?これぐらい何とも」

「え!?」おろおろ。「す、済みません気付かなくて!すぐに治療します。そこに掛けて下さい!!」

 当人以上に慌てる片想いの人を見やり、額に掌を当てて嘆息。

「だからこいつと関わるのは嫌なんだ……」

「んな事言うなよユアン。可愛い子ちゃんの頼みだぜ?ほら、座り直せよ」

 渋々腰掛けた奴の足元へ、済みませんお借りします、小晶さんがヴァイアに断って椅子を宛がい、患部を上げさせた。

「うわ酷!さっき司書さんから怪我したとは聞いてたけど、一体どんな転び方したらこうなるの?」

 姉が興味津々に尋ねるとギロッ!弟は無言のまま睨み付けた。しかし流石は肉親。少しも怯まないまま、治療者へ視線を向けた。

「小晶君も原因聞きたいよね?治すのに必要でしょ?」

「え、いえ……私は特に大丈夫ですけど」

「図書館で脚立から滑り落ちたんですよ、お姉様」相棒に代わって説明する。「額は棚の縁でやっちゃって」

「あら、まあ」お母様が口元を押さえる。「シャーゼも意外とそそっかしいのね。これからは気を付けるのよ」

 すぅ。目を閉じて数回深呼吸した後、何か言いたげなユアンの額へ右手を伸ばす。うっすら指先が白い光を帯び、ぱっくり開いた傷が見る見る内に塞がっていく。放射された温かさが俺の毛皮にまで伝わり、何だかとても心地良かった。

「―――はい。次は脚を診ますね。他に怪我はありますか?―――良かった。もう少しの辛抱ですよ」

 あれ程プックリ膨れていた足首も、光を当てた数十秒後にはすっかり元通り。新聞に載ってたけど『奇跡』だっけ?呪文も唱えないのに凄い即効性だ。

「はい、終わりました。軽く動かしてみて下さい」

 くいくい。すっかり元の可動域を取り戻し、自由自在に曲がる関節を一同見やる。

「フン、手間を掛けたな。さっさと行け」

 靴下と靴を履き直しながら、この期に及んで恥ずかしいのか殊更素っ気無く言う。ところが、


「じゃあ行ってらっしゃい『三人共』。私達、しばらくここで大家さんとお話してから帰るから」

「何だと?」


 衝撃の発言をしたお姉さんはニンマリ笑い、ね、お母さん?さっき美味しそうなハンバーガー屋さん見かけたから、買って来てここで食べようよ、と提案した。

「そうね。あそこ、確かこの間雑誌に載っていたお店でしょう?早く並ばないと売り切れちゃうわ。大家さんもどうですか?」

「ええ。この間一度食べましたけど、凄く美味しいですよ。体重が許すなら毎日買いたいぐらい」

「へー、それは楽しみ」

「おいアムリ!さっきのは一体どう言う意味だ!?」

 怒鳴る弟の質問に、彼女は至極平然と言った。

「?ああ、付き添いの話?もうエルシェンカ様にはシャーゼがやりますって言ってあるから。ネイシェ君だったっけ?不束者だけど弟のフォローお願いね」

 次の瞬間。築三十年の鳳凰亭を、驚愕と激怒の叫びが震撼させた。




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