十九章 訪問者達
「あんたこそ、五年振りに会った仲間に失礼じゃないその態度?」
テーブルを挟んで相棒と対峙していたのは、身長二メートル近い茶髪の女性。年は三十代前半、ユアンと同年代と見た。
「ただいまヴァイア。寂しくなかったか?」
カウンターで痴話喧嘩の模様を眺めていた恋人に声を掛ける。
「あ、ネイシェ。おかえりなさい。ミリカさんもようこそ」
「はい。今日から宜しくお願いします、スーンさん」
挨拶の後、ポケットから徐に分厚い封筒を差し出す。
「敷金礼金と、取り敢えず二ヶ月分の家賃です。お納め下さい」
「まあ、御丁寧にどうも。礼儀正しいお嬢さんで安心したわ」
大事に受け取り、新しい店子と握手を交わす。
「家事の手が足りない時は何時でも呼んで下さい。料理は苦手だけど一生懸命覚えます」
「本当に?悪いわね。凄く嬉しいわ」
「ところでヴァイア、あの人誰?何か険悪な雰囲気だけど」
「詳しい事は分からないけれど、天宝商店の人らしいわ。もう一人男の人がいたんだけど、さっき二階に上がって行ったきり中々降りて来なくて……あ、噂をすれば」
トン、トン。階段を降りて来た大男は、何処となく啖呵を切っている女と顔立ちや雰囲気が似ていた。親子?
布越しに太い両腕で抱えられた翡翠の龍の像を見、おい!勝手に持ち出すな熊男!!ユアンが叫ぶ。
「大丈夫だよ。この街のめくらな質屋に預けるより、うちでずっと高値付けてあげるから」
「余計なお世話だ!返せ、この泥棒共!!」
見覚えの無い置物だ。どうやら俺がいない間も、こいつは宣言通りせっせと遺跡探索に勤しんでいたらしい。超の付く程糞真面目な奴。
「で、どう四?幾らぐらいになりそう?」
「ざっと見ただけだが、ここまで純粋の翡翠を使った像は初めて見た」
耳に心地良い低音ボイスの後、感嘆の溜息を漏らす。
「これはうちのような店より、直接博物館へ交渉した方がいいな。恐らくは百、いや一千万単位の値になるだろう」
「そんなに!?やったじゃんシャーゼ!これで当分働かなくても……あー、頼むから睨まないでよ。ホント喜ぶって事を知らないよねあんた。その内胃に穴が空くよ?」
「放っとけ。因みにそいつには何の魔術も掛かっていなかったぞ。昨晩散々調べたから間違い無い」舌打ち。「いつかの性悪造花の轍は踏みたくないからな。何が目が光ると願いを叶えるだ。子供騙しもいい所だな」
お喋りな水晶薔薇の一件は、充分懲りるに値する失敗だったらしい。
「それは預かりOKと受け取って構わないのよね?」
「反対してもどうせ持って行くつもりだろう?強盗共が」
わざと聞こえるように吐いた悪態を、OKだね、四、車へ運んどいて、見事に聞き流して大男へ言った。
「結果は今度来た時に報告するよ。誠からの頼みだし、鑑定料はこれからも只にしておいてあげる。代金は小切手がいい?」
「おい!?まさか今後もここへ来るつもりか!」
「いいじゃん、質に持ち込む手間が省けるでしょ?その分調べ物に集中出来て、良い事尽くめじゃない。あ、そうだ忘れてた」
彼女は手に持っていたビニール袋を友人へ差し出、しかけてこちらへ振り向く。
「危ない危ない。あんたに渡すと窓から投げ捨てかねないもの」
結構長い付き合いなのか?よく分かっていらっしゃる。
「こんにちは。こいつ性格悪いでしょ?苦労させられてない?」
労いの言葉の後、姉へ袋を差し出す。
「はい、お土産。龍商会饅頭とカステラだよ。二人共、甘い物は好き?」
「わ、美味しそう!ありがとうございます。でも、前に店へ行った時はお会いしなかったですよね?」
「あの日は鑑定の仕事で“赤の星”まで行ってたの。いたら色々街を案内してあげたのにね。退屈しなかった?―――そっか。なら良かった」
ハキハキした喋り方は実に気持ち良く、聞いているこっちまで元気になってくる。
「あ、自己紹介がまだだったね。アタシはアイザ・ストック。さっきのおじさんは四 理だよ。―――ミリカにネイシェか。これからも宜しくね」
姉に続き、背丈に見合った熱いぐらいの大きな手と前脚で握手を交わす。
「折角いらしたんですし、皆でコーヒーでも如何ですか?」
ヴァイアが薬缶に手を掛けながら提案すると、トレジャーハンターは不愉快極まりないと言う表情をした。
「主人、こいつ等を引き止めるな。五月蝿くて資料が読めん」
「おいおいユアン。昔の仲間を無下に帰すなよ。それも女性を」
相棒の務めとして諭すと、返って来たのは軽蔑の視線だった。
「女?ハッ、こんなガサツな奴がか?貴様の姉と良い勝負だぞ?」
「ちょっとどう言う意味よ!?」突き上がる憤怒のまま、スカートから赤毛の尻尾が飛び出す。「両方に失礼でしょ!?謝りなさい!」
「何故だ?私は本当の事を言っただけだ」つーん。
クスクスクス。やり取りを見ていた知人は、半ば呆れた風に笑った。
「いいんだよミリカ、アタシは別に気にしていないから。こいつ昔っからこんななの。怒るだけカルシウムの無駄使いだよ」
「でも」
「個人的に謝って欲しいなら手伝うけどね」
小悪魔的に微笑み、肉体労働者顔負けの力瘤を作ってみせる。その横でユアンは一際深い溜息を吐いた。




