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一章 幼き愛読者



「ふう、面白かった!」


 読み終えたばかりの文庫本から顔を上げ、茶髪の少年は座ったベンチから公園を見渡した。表紙には美男子キャラクターと、『ユアン・ヴィーの冒険八 ~砂礫の黄金遺跡前篇~ 著 ネイシェ・ミーヌ』と書かれている。ページ数は三百枚程度。初等部前半と推定される少年には些かハードルの高い枚数だ。

(いつも思うけど、何でこんな性格ド最悪の刑事に奥さんがいて、主人公のユアンには恋人一人いないんだよ?現実的に普通逆だろ)

 格好良くて誰にでも親切。おまけに毎回バラッグ・ビータを筆頭とする悪党共からお宝を奪取する鮮やかな手並み。なのに全篇通じて付き合う彼女は無し。長編なら時々それっぽいヒロインも出ては来るが、次の巻にはすっかり忘れ去られて名前も思い出されない。

 一方、イディオ警部は出て来る度に厭味とノロけを紙面に撒き散らかし、子供こそ出来ないものの順風満帆の結婚生活を送る。これが理不尽でなくて何だと言うのだろう。

(確かにユアンは生涯独身だったから、史実通りと言えば違いないが)

 だからってもう少しやりようがあっただろう、作者。協力者とか愛人とか、女っ気を突っ込める箇所は幾らでもある。

(にしても、相変わらず準レギュラーのくせに生意気な奴だな。ユアンと気が合わない訳だ)

 イディオ警部はバラッグ・ビータと並ぶ、シリーズ当初からの登場キャラクターの一人だ。因みにオネット嬢との運命的出会いは三巻参照の事。

 勿論、ユアンはその巻でも大活躍だった。幼い頃巨大な陰謀組織に誘拐され、監禁されたまま成人になった彼女を見事奪還。警部と燃え盛る施設から脱出した時は、全読者揃って胸が熱く震えた事だろう。全巻通じてもベスト五に入る名場面だ。そしてエピローグ。警部宅で婚約発表がなされた場面は、読者一同一度は我が目を疑う場面として余りにも有名である。

(さて。このまま後篇に突入したいのは山々だが、そろそろ家へ戻るか)

 選りにも選って、今日は一番苦手な数学の宿題が山と出ている。夕食の後は眠くてとても勉強出来る状態ではないだろうし、とっととやっておかないと。大冒険の続きはまた明日だ。

 そう決心した少年の元へ、背丈と年齢の近い灰色髪の少年が駆けてきた。勝気そうな青い眼の彼は顔を見るなり叫ぶ。


「やっと見つけたぞアレク!中等部の連中がバスケで勝ったらトリプルアイス奢ってくれるってよ!」

「本気か!?」


 ベンチから勢い良く立ち上がり、冒険心旺盛な少年は知らせに来た親友兼義兄弟を追い越す。


「おいカーシュ、他の奴等に先越される前に行くぞ!!」

「当ったり前だ!」


 伝記を放り込んだ学生鞄を背に未来のトレジャーハンター、アレク・ミズリー少年はそう相方を急かして公園を後にした。日没まで粘りに粘って見事アイスをゲットした彼等が、翌日宿題を忘れて廊下に立たされたのはまた別のお話。




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