十五章 二度目の対決
バタンッ!!!「待てえっ!!」「誰が待つか!!」
正面玄関から逃げ出した髭と、追う政府員達の怒号が夜闇に響き渡る。続いて凶器の唸り声と、複数の悲鳴。手放しで歓迎すべき事に、それらの元凶は不可思議的引力でこちらへ近付いてきていた。
「見つけたぞ若造!あの手紙はやっぱり手前の仕業か!!」
しまった!ああ見えて、バラッグ・ビータの鞭使いはかなりの物だ。勿論拳銃持ちのユアンの敵ではないが、正面切って戦った事はまだ一度も無かった。
「阿呆が。やっと気付いたのか?」
「お前も挑発するなよ!?」
忠告も虚しく、髭は顔を一層完熟トマトにした。ヤバい!
「今日と言う今日こそは赦さん!二度とその生意気な口を利けなくしてやる!!」
「チッ。探索の〆は単細胞の相手か。つくづく厄介な仕事を持ち込んだな貴様」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ」
姉の肩の上から割といつも通りのやりとりを交わす。
「おい女狐。後ろで小晶と宝を守っていろ。レシピはともかく、そいつにもし傷が付いたら」自らの首筋の前で、立てた親指を横移動させる。「これ物だぞ?」
「分かっているわ。その代わり絶対負けないでよね」
「当たり前の事を言うな。縁起でもない」
「シャーゼさん、喧嘩は」
「不甲斐無い税金取りの政府員共に代わって、公務執行妨害及び器物損壊犯の捕縛をしてやるんだ。市民の善意を蔑ろにする気か?」
元給金泥棒が小馬鹿にしたように言うが、小晶さんの憂いは晴れない。
「でも、もし怪我をしたら……」
「要らん心配をするな。私がこんな中年に負ける道理が無い」
トンッ!「わっ!?」突然胸を掌で軽く打たれ、背後に倒れかけた所を姉が慌てて支える。「ちょっとユアン!?乱暴は」
「お前がさっさと下がらせないせいだろう。だから何時までもババアにナメられるんだ、小娘が」
「くっ……!!」
悔しげに唇を噛みつつ、姉ちゃんは美人を庇うように立った。
「二人共、喧嘩は駄目です!!」
「あなたが巻き込まれる方がよっぽど危険です!私より前に行かないで!!」
ピョン!俺は華麗な空中ジャンプで奴の肩へ飛び乗り、戦闘参加の意志表明をした。
「足手纏いになるなよ」
「当然。さ、小晶さんに鮮やかなKOを見せてやろうぜ」
「勝手な事を言うな、畜生が!!」
ヒュウンッ!バチッ!凶悪な皮鞭の一撃を横跳びで難無く避け、態勢を整え様に俺を投げ付ける。
「ぎゃっ!!」
クリーンヒットした鼻先を、後脚で思い切り蹴飛ばす。タンッ!素早く着地し、頭上で唸った鞭を天才的勘で避けた。
「ガラ空きだぞ、髭」
「な!?ぐあっ!!」
剣の鞘に脇腹を叩かれ、敵は苦痛に飛び退く。
「くそっ!?なら!」
鞭があらぬ方向にしなって伸びた。その先には―――姉ちゃん!?
「止めろっ!!?」
慌てて飛び出しかけた直後、良い意味でその行動は無駄になった。
「はあっ!!」「げえっ!!?」
赤狐の跳躍力で二メートル近く跳び上がり、一気に敵との間合いを詰めた姉。その落下の勢いを利用し、渾身の蹴りを見舞う。体重と重力のダブルパンチで弁慶の泣き所を急襲され、こちらが可哀相になるぐらい悶絶し倒れ込む髭。生憎折れてはないようだが、しばらくはマトモに立てないだろう。
「因みに私、一番得意なのはカポエラなの」
「へ、へえ……」
要するに蹴り技か。成程、見れば納得。
「終わらせるぞ」「ええ!」
美男美女が構え、同時にトドメ技を振り下ろそうとした次の瞬間。俺達は信じられない光景を目の当たりにした。




