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十四章 旧き僧の想い



 石扉の先は書斎になっていた。先に続く通路は無く、どうやらここが最奥のようだ。

 左右には天井まで聳える書棚。正面は重厚な木製の書き物机で面積の大半が占められている。そこから顔を上げ、俺達は揃って視線を釘付けにされた。

 壁に掛かった写真は色褪せているものの、年老いた僧侶と彼に抱き上げられた先祖の仲睦まじい瞬間を切り取っていた。その周囲には無数の、恐らく蒼い翼をした小鳥達。

 その瞬間、俺達三人は全てを察した。だから僧侶はわざわざあれだけの数の小瑠璃を彫ったのか。死後も恋人が寂しがらないように……。

 相棒は棚から手記らしき物を抜き取り、慎重に捲りながら最後のページを探す。

「あった。―――遅過ぎた希望は、飛び立つ事の無きシビリアン・ブルーロビンへと託そう。いつか星の箱を携え、訪れるかもしれぬ彼女の子孫等のために―――御苦労な事だ。お陰でこちらがどれだけ労力を使わ……」

 厭味を途中で止め、何処か憎しみの宿る表情で手記を閉じた。


「―――それでもジジイ、貴様はまだ幸せな方だ。伴侶に逃げられもせず、最後まで共にいられたのだからな―――くそっ!」ガンッ!石畳を爪先で蹴飛ばし、苛立ちを発散する。


「用は済んだ。帰るぞ」

「え、ええ」

 先頭を歩き出した相棒の三メートル程後ろから、俺達も続く。

 今の、一体どう言う意味だ?この野郎、以前にんな手酷い失恋を?相手は小晶さん、じゃあないよな……なら、一体誰の事だ?

 住居跡を脱出し、更に階段を昇って一階へ。一応小僧のいた窓を覗き込んでみたが、移動したのか誰もいなかった。

 その後も何事も無く裏口から脱出。温い夜気を肌に浴び、ホッと一安心した。

「不気味なぐらい誰にも見つからなかったな」そう言いつつ、トレジャーハンターはいたいけな姉弟を睨み付ける。「―――まあいい。過程はどうあれブツは手に入れたんだ。後はお前等で何とかしろ」

「え!?で、でも私、薬の調合に詳しい人間なんて知らないわよ!!」

「それぐらい、あの煮ても焼いても食えないババア狐にでも頼め。これ以上こちらに面倒事を持ち込むな」

 ご尤も。闇組織のボスなら優秀な人材の一人や二人、即座に斡旋してくれる筈。

 ところが普段強気な姉ちゃんは、何故か哀れなぐらいおろおろし始めた。

「―――だ、駄目よ……昨日帰ったらママ、今回は三人で頑張りなさいって。ほら私、何れはシルバーフォックスを継ぐ立場でしょう?だから時々ママ、本当に困っているのに梯子を下ろすような真似をするの」

「旦那の命が懸かっているんだぞ?あのババア、鬼か悪魔だな」

「それには激しく同意するわ」

 彼女は愁傷に両手を組み、好敵手へ懇願した。

「お願いユアン、パパを助けて……!」

 今にも泣き出しそうな年頃の娘に対し、相棒は実にイライラした様子で舌打ちを返す。この人でなし!

「アテが無い訳ではないが、一体私にどうしろと言うんだ貴様は?」

「そいつを紹介してくれよ。金は俺達で何とか用意するからさ」

 筆舌に尽くし難い渋面の後、重々しく口を開いた。

「私の名前さえ出さないなら、住所を教えてやらん事もない」

「本当に?ありがとう!あなたはシュビドゥチの救世主だわ!!」

 手放しで喜ぶ。

「煽てても何も出んぞ。それより約束はちゃんと守れよ?」

「ええ、必」


「シャーゼさん!!」




 中性的な呼び声が聞こえた瞬間、奴は全てを悟ったようだ。最大火力の殺人視線で俺達を睨んだ後、正面玄関から走ってきた小晶さんに向き直る。

 傍まで来た彼は立ち止まり、薄い胸を押さえて動悸を治めながら話し始めた。

「良かった……その様子だと、無事見つけられたようですね。後は薬を作るだけですか?」

「ああ」努めて冷静を装うのが可笑しい。「小晶、お前から天宝の連中に連絡しろ。未知の異種族の薬も作るあの爺ならその程度、お茶の子さいさいだろう?」

「そうですね、分かりました。明日の朝、私からアイザに電話しておきます。久し振りですから、ゆっくり話もしてきたらどうですか?」

「行くのはこいつ等だけだ。そこの所を間違えるな」

「え?」

 澄んだ黒目を丸くする。

「遣いなど餓鬼二人もいれば充分だ。私は次の遺跡へ行く準備で忙しい。まあ、お前よりは遥かにマシだがな」

「いえ、そんな。皆が手伝ってくれるので平気です」

「平気だと?面白過ぎて腹が捩れそうだ」

 全く場の和まない冗談をかますも、本人は可愛らしく小首を傾げただけだった。

「あ、そうだ。今政府館に、以前船着場でお会いしたシャーゼさんの知り合いの人が来ているのですが」

「知り合いなどではない。あいつは盗掘家の上に悪質な爆弾魔だ。骨の髄まで絞ってやってくれ」

 薄笑いを浮かべながら、嬉々として同業者を売る相棒。

「そう、でしょうか……?確かに武器を持っていましたが、爆発は玄関へ近付いた瞬間に起こったと言っていました。私にはとても、あの人が嘘を吐いているとは」





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