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十三章 小瑠璃遺跡へ



「ここか」


 俺達を出迎えたのは決して広くない地下室に、ごちゃごちゃ詰め込まれた大量の機械群と、それらを血管のように繋ぐコード。ガチで本格的科学施設だ。下手に触れないよう細心の注意を払って通り抜け、進んだ先に目的地があった。

 施設の隅っこ。床の広い面積を取る、縦横三メートルはある黒錆びた両開きの扉を取り囲む。

「鍵は……掛かっていないようだな。開けるぞ、下がっていろ」

「ええ」

 ユアンが取っ手に両手を掛け、腰に重心を掛けて手前に引いた。


 ギギギギィ………。


 長年閉じ込められていた冷気が吹き上がり、頬毛を撫でる。かなり埃っぽいが、意外と黴臭さは無かった。

 デイバッグからランプを取り出し、火を灯して暗闇を覗き込む。埃の積もった階段は見える範囲だけでも二十段以上は続いていた。

「いよいよね。二人共、覚悟はいい?」

「それはこっちの台詞だ女狐。足を引っ張るなよ」

「分かってるわ」

 お、素直な返答。やっぱあの暗号を解いた功績が大きいようだ。

「ネイシェ」「おう」

 いつも通りランプの取っ手を持つ。油注ぎたてで少し重いが、落とさないようにしないと。

 ユアンが先に降り、懐中電灯を持った姉が続く。どうやらこの階段、元々は地上階同士を繋ぐ物だったようだ。横の壁に用をなさなくなって久しい小窓が埋まっている。建物がそのまま埋まるとか、昔の“黄の星”は浮島構造のせいで不安定な地盤だったのか?

 階段の先には、又もや一枚の金属の扉。鍵は掛かっていなかったが、長年の腐食のせいで押しても引いても開かない。罠の有無を確かめた後、俺達コンビの蹴りで破壊する事に。

 床に降り、人型へ変身。後脚をシャッ!と持ち上げてリハーサルする。


「いけるか?」「OK。呼吸を合わせるぞ。せーの!!」ガンッ!ガンッ!!バキィッ!!!……ドオンッ!!


 ノブの反対側の上下へ同時にキックを叩き込み、脆くなっていた蝶番を破断させて扉を奥へ倒した。一瞬遅れて土埃が朦々と舞い上がり、少し咳き込む。

 魔力節約のため変化を解除した俺を、ランプを預かっていた姉が自身の肩に乗せる。

「結構乱暴なのね。てっきり外せるグッズを持って来ていると思ったのに」

「爆弾の上にそんな物が入れられるか」デイバッグを示して首を振る。「お前こそ準備が足らんぞ。一人で来ていたらどうするつもりだった?」

「大丈夫よ。こう見えて私、空手とか柔道を習っているの」

 掌底突きの構えを取り、空中へ放つ。中々訓練された力強い動きだ。

「今度は任せて。腕前を見せてあげるわ」

「フン」

 鼻を鳴らしたユアンはランプを受け取り、躊躇無く更なる闇へ先陣を切った。


「ほう……こいつ等が遺跡の名の由来か」「凄え数」「それにまるで、生きているみたい」揃って感嘆の声を上げる。


 部屋は奥に長く伸びた構造。その左右には、作り付けの棚を住処とする小瑠璃の大群が鎮座していた。彫刻の鳥達は姉の言う通りどいつも精巧で、今にも一鳴きしてこの穴倉から飛び立っていきそうだ。

「見て。奥にまたドアがあるわ」

 早速三人で近付き調べてみる。ところが今度は頑丈な石造りの上、ノブも取っ手も無し。しかも押しても引いても、はたまたスライドさせようとしてもビクともしなかった。

「やれやれ、ここに来てまた仕掛けか。その僧侶、余程セキュリティ意識が高かったらしいな。感心するぞ」

 言葉とは裏腹に、こってり嘲りを含んだ口調。つくづく面倒な真似をしてくれた、って所か。

「ますます期待大ね。―――パパ、待ってて」

 祈りを捧げた姉と俺は、早速手分けして部屋を調べ始める。ふむ。床や天井に隠し通路は無さそうだ。やっぱあそこを開ける以外、先には進めないよう。

「きっとこの中の一羽がスイッチになっているのよ。だってこんなに沢山いるもの。絶対カモフラージュに決まってる」

 賛成。問題はどうやってそいつを見つけ出すかだ。石の小瑠璃達は一見どれも同じに見える。一羽ずつ確認していくか?三人でなら一晩中には何とか、


「―――おかしい。何故誰も降りて来ない?」


 ヤベ!本格的に怪しみ始めたぞ。どう誤魔化す!?

「矢張り妙だ。若しやエルシェンカの奴の罠か……?となると、今夜は大人しく戻るか。奴の掌で踊らされるのは我慢ならん」

 ブツブツ言いつつ顎に手を当て、来た道を引き返そうとした直後、


「駄目!パパの薬のレシピを手に入れるまで、絶対に帰さないんだから!!」


 バッ!姉が両腕を大きく広げて、行く手を阻止する。

「狭い部屋で騒ぐな女狐。耳がキンキンする」

「俺も反対だ。ここで戻ったら髭に使った爆弾が無駄になるぞ。そこそこ高いんだろあれ?それに父さんの容態だって何時急変するか。ほら、それに仮令捕まっても大丈夫さ。小晶さんがすぐに出してくれ―――悪かった。そんなヘマをしないように頑張ろうぜ」

 マジな命の危機を感じ、即座に謝る。しかし、何もそこまで睨む事は無いだろう。取調室でも会える事には違いない。ひょっとしたら、それがきっかけで良い関係に発展するかもしれないじゃないか。

「今の否定は怪しい。ネイシェ、私に何か隠してないか?」

「まさか。お前を騙して何の得があるんだよ?」

 毛の下を伝う汗を気取られないようにしつつ、口笛を吹いて惚ける。姉は調査に夢中なフリをし、ポーカーフェイスを一切崩していなかった。

「まあいい。どうせお前とは―――」

「?」

「いや、取り敢えずさっさとそこを開けるぞ。まごまごしている暇は無い」

「あ、ああ。だけどどうやって?」

 するとユアンはデイパックから例の箱型ペンダントを取り出し、靴の爪先で中央付近の埃を掃った。そこにランプを近付けると、綺麗になった石床に四角の切れ込みが現れる。手に持った物の底面と全く同じ面積の。

「ど、どうして分かったの!?」

「ここから三百六十度眺めてみろ。鳥共との間に遮蔽物が一切無い。何かあると気付くには充分だ」

 余裕たっぷりに言いやがる。俺達姉弟では、仮令一晩中うんうん唸っても勘付きもしなかっただろう。

「凄い!流石は元第七対策委員って所?」

「いい加減昔の話を持ち出すのは止めろ」舌打ち。「不愉快だ」

「昼間の内にシルバーフォックスの情報網で少し調べたの。巧妙な演技で街に隠れ住む不死族、又はそれに類する連中を捕まる仕事だったんでしょう?しかも公安課きってのエリート。検挙数は確か」

「そんな数字に意味など無い。私は結局何も出来なかった。だから辞表を出し、今こうして盗人紛いの事をやっている。それだけだ」

 眉を顰め、お喋りは終わりだ、入口まで下がれ、と命じた。

「はいはい。行きましょネイシェ」

 一旦引き返し、邪魔にならない所へ。

 ユアンが続いて取り出したのは、昨夜のアロマキャンドルの残り。ライターで再度火を灯して入れ、切れ込みの位置へ置く。その後素早く俺達の隣まで後退。すると!


 バサバサバサッ!!作り物の小瑠璃達が、一斉に羽ばたく音が聞こえた気がした。


 放出された無数の光に照らされ、灰色だった鳥達の身体が鮮烈な蒼に戻った。その内の一羽、ダイヤの光を浴びた奴が一際輝く。封印された扉の右の棚の上、仮初の翼が広がった。


 ふわっ。ゴゴゴゴゴ………!!


 石扉が開き始めると同時に、無機物の筈の小瑠璃がまるで生きているかのように飛び立つ。シュビドゥチの匂いを感じたのか、真っ直ぐ俺の頭上へ留まる。重い。

「あれ?石に戻ったみたい。ちょっと待って、今どけるから―――あ!」像を持ち上げた姉が驚嘆の声を出す。

 小瑠璃は背骨から左右に観音開きし、折り畳まれた古紙入りの空洞を晒していた。破らないようゆっくりと引き出し、恐る恐る確認して更に仰天。


「これ、調合法だわ!!やった!これでパパを治せる!!」

「本気で!?よっしゃー!!」


 狂喜乱舞する俺達を、謎を解いた当人は冷ややかに見つめた。

「まだ決め付けるのは早計だ。全く関係無いただのメモと言う可能性もある。奥へ行くぞ」

 伊達に何年もトレジャーハンターをやっていない。その一言で俺達姉弟は冷静さを取り戻し、紙を元通り収める。

「そうね」「流石はユアン」

 素直な返答に、やれやれ、手間の掛かる狐共だ、奴は軽く鼻を鳴らした。




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