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十一章 密談



 ガタガタガタガタッ!扉越しに階段を駆け降りる音が響き渡る。「何だ?」「出掛けるのかしら?付いて行きましょ、ネイシェ!」


 又もや抱え上げられ、再び一階へ。モップを片付けかけていた愛人の丸くなった目の先には、カウンターのプッシュ式テレフォンに向けて怒鳴る店子がいた。

「ヴァイア、相手は?」傍に寄って尋ねる。

「さあ?突然掛け始めたと思ったら、ずっとあんな調子で喋っていて」


「元の長はお前だろう!?その程度何とかしろ!!」


 普段の冷静さは何処へやら。あんな喧嘩腰で、一体誰と話しているんだ?

「あ、そうだ」

 閃いた俺は素早く裏へ回り、ユアンの死角から前脚をカウンターへ伸ばす。目指すはテレフォンの拡声ボタン。そぉれ、ポチッとな。


『だから、地下はもう不死省の管轄なんだって。何回言えば分かるんだいシャーゼ?』


 受話器から響く、若い男の声。幸い相棒は会話に夢中で、周囲に会話が丸聞こえになった事に全く気付いていないようだ。急いで転進し、姉の足元へ戻る。

(本名で呼んでいるって事は、昔の知り合いか?友達、って風じゃなさそうだけど)

『素直に誠へ電話すればいいじゃないか。番号は貰っているんだろう?さっき隣で支度してたから、今頃は家に帰り着いている筈だよ』

 通話相手は半ば呆れ気味に言う。

「たかが狐一匹とは言え人命が懸かっているんだぞ。副聖王の分際で探索許可一つ出せんとはどう言う了見だ?これだから公僕は」

『そっちこそ、とても元政府員の台詞とは思えないね。そんなに頼むのが嫌なのかい?向こうは君の連絡を今か今かと待っているのに』

 放たれた一言に、相棒は息を詰める。

『随分心配していたぞ?調査が難航していないか、頼んで迷惑でなかったかもね』

「―――迷惑なのは厄介な病気持ちの狐共だ。あいつが気を揉むような事ではない」苛立たしげに舌打ち。「相変わらず甘い奴だ」


『とにかく、僕の命令じゃ不死族達は通してくれないよ。ほら、さっさと掛け直』ガチャッ!!


 叩き付けるように受話器を置き、憎々しげにキッ!殺気立った視線で俺達を射抜く。

「ユ、ユアン?」

「―――まだこの時間なら開いているな……少し出掛けてくる。小娘はさっさと家へ戻れ。見せ物は終わりだ」

 そう言い捨てるや否や、奴は玄関から夜の街へ飛び出して行ってしまった。

「何よあいつ!?パートナーのネイシェに説明もせず勝手な!」

「いつもあんな物だよ。それより今の内だ!」

「へ?ちょ、ちょっと何処行く気!?」

 三度階段を駆け上がり自室へ。躊躇いも無く机の一番上の抽斗を開け、あった!

「何これ、聖者様の名刺?あいつ、何で持ち歩いてないの?これじゃいざと言う時連絡出来ないじゃない」

 追い掛けて来た姉が、宝物同然に仕舞われた紙片を抓み上げて言う。

「姉ちゃん分かってないな。男心って奴がさ」

「え?もしかしてあいつ、聖者様の事が……へえ。まああんなに綺麗で優しい女の人だもの。惚れるのも仕方な―――え、男?嘘でしょ?でも……それでも充分ありよね」

 父の一件で、姉ちゃんはすっかり小晶さんを尊敬しているらしい。異性と知っても然して驚かなかった。

「電話するなら早く戻りましょ。ユアンが何時帰って来るか分からないもの」

「了解」

 連続昇降運動で若干息切れしつつも、何とかカウンターへ帰還。椅子に座って休憩していたヴァイアが、何度も大変ね、と労ってくれた。

 受話器を外し、名刺裏の自宅番号を間違えないよう慎重に押す。ピッ、ポッ、パッ、と。


 プルルル、ガチャッ。『はい、もしもし?』


 予想外にも出たのは中性的な小晶さんではなく、高い声の少年だ。同居している弟さんか?

『あ、もしかしてキューキンドロボー?』妙なイントネーションで問う。『兄様ー!』

「いや、俺はネイシェ。ユアン、じゃなくてシャーゼ・フィクスの相棒だ」

『あ、じゃあ君が噂のキューキンドロボーの友達なんだ!僕と同じで変身能力があるんでしょ?初めまして。僕はオリオール、元一角獣の不死族なんだ。宜しくね!―――あ、兄様!はい、どうぞ』

 カタッ。『ネイシェさんですか?あの』

「心配無いよ、あいつさっき外行ったから。えっと……さっきの男の人から事情とか聞いてる?」

『エルの事ですか?ええ。電話が終わって、すぐにここへ掛けて来てくれました。まさか、探していた小瑠璃遺跡が政府館の真下にあったなんて』

「「えっ!?」」

 そうか、だから許可がどうとか言っていたのか。連合政府は宇宙を股に掛ける公機関。流石の奴でも不法侵入は出来ないってか。

『?今の声、ミリカさんもいるのですか?―――ええ、恐らく間違いありません。現在地下にはリュネさんの研究所があるのですが、確か移転作業の時に下へ続く階段がありました。エルの話だと、政府館が建つ前に大規模な地盤沈下があったらしくて―――いえ、入口には鍵が壊れて開かない扉があるんです。だから中がどうなっているかまでは誰も』

 彼は少し沈黙した後、意を決して口を開く。

『―――ネイシェさん。どうしてシャーゼさんは私に相談してくれないんでしょう?自分でも頼りないとは思いますが、一応これでも不死王です。話してさえくれれば、出来る限り協力するのに……』

「あー、えっと……」

 今日こそあのムッツリ野郎を恨んだ日は無いだろう。こんな純粋無垢な人を困らせるなんて、何てふてえ奴だ!

「ごめんなさい。ユアン、聖者様に迷惑掛けたくないみたいで」

 返事に詰まった俺に代わり、受話器の傍で姉が声を出す。

『そんな、迷惑だなんて……私達、白鳩の仲間なのに』

 アムリお姉さんが言ってたのと同じ名前だ。政府員時代所属していた組織か?変わった団体名だな。

「ところであいつ、何時行くって言ったんですか?」

『エルの話では明日にでも、と。安定しているものの、ドラットさんの病状は相変わらず一刻を争う状態ですし、随分急いでいたようです』

 どーだか。今となっちゃ、小晶さんの頼みだから聞いたんじゃないかって気がしてきたぞ。しかも今回に限っては、あいつ本来の探し物とは全く関係無いしな。

『お二人も一緒に来るんですよね?―――はい、分かりました。こっそり入るつもりなら、多分来るのは夜でしょう。不死族の人達に頼んで、それまでに何とか入口を開けておきますね』

「「お手数お掛けします」」

 受話器越しに姉弟揃って頭を下げた。




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