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もう一つの再会

本編『再会と交渉』まで読んでいる事をお勧めします

 アロイスを含む、主要な関係者が用意された室内に入ってしまえば、廊下はとても静かになった。まったく見知らぬわけでもないのだが、フォーデックはライナに会う必要性を感じなかった。もともとアロイスの剣の師匠として関わりがあっただけで、ライナ自身とフォーデックは個人的な繋がりは何もないのだ。


「師匠、お久しぶりです」

「息災のようでなによりだ、ロージィ」


 室内で感動の再会が行われている頃、廊下に残された側にも再会を喜ぶ声があった。ただ、そのロージィの声は若干恨めしげでもあったが。


「えぇ。師匠が師事の途中で何も言わず姿を消してからもゴート様が便宜を図って下さりましたので助かりました」


 訳すれば『あなたが投げだした訓練をゴート様が引き継いでくださったんですよ』という恨み言である。だが、そんな言葉が通じる相手であれば、そもそも無断で突然に姿を消すことはないだろう。案の定、フォーデックは反省の色なくあっさりと「そうか」という言葉を発したのみであった。

 だが、この場にはロージィ以上にフォーデックに強い視線を向けている人物がいた。漆黒の髪を持つ才女。アジレクトの孫でありファーラルの専属秘書をしているガーネットだ。


「お父様、生きてらっしゃったんですね」

「……ガーネットか……」


 淡々とした声に感情はなく、とても父親との再会を喜んでいる風ではない。だが、それも無理からぬことだろう。彼女は物心つく前にアジレクトに親の都合で預けられ、それ以降フォーデックの顔など見てもいないので記憶にもない。屋敷にいる侍女や侍従から、フォーデックの強さや武勇伝らしいものを聞かされたことはあったが、現実主義であるファーラルの傍にいた影響なのか、彼女も自分で見たもの聞いたものしか信じることはない性格に育っていた。つまり、『いかに父フォーデックか強く素晴らしい人物か』という話を聞かされても、脚色された夢物語として認識されるだけで胸に響くことはなかったのだ。


「いまさらよく顔を出せるものだと思いましたが、新王の側仕えに出世していたわけですか」


 皮肉気な発言であったが、フォーデックは特に訂正もせず肩を竦めただけだ。


「わしの母と名乗っていた人は、貴方が姿を消してすぐに屋敷を出ていきました。ご存知でしたか」

「ああ、それなりに情報は集めていたからな」

「そうですか。では別の男と出て行ったという事も?」

「知っている」


 まるで他人事のように取り交わされる会話に、傍で聞いていたロージィは胃が痛くなる思いだった。この場から消えてしまいたかったのだが、タイミングを外してしまい立ち去れない。大体にしてこんな家庭の事情を他人の前でしてくれるなという気持ちが強かった。


「わたしはもう、貴方の庇護が無くても生きていけます」

「―――わかった」


 ガーネットは知っていた。アジレクトに毎月それなりの金銭がガーネットの養育費として支払われ続けていることを。けれど彼女はもう独立し、自分の稼ぎで生活できる立派な成人女性だ。それにこのままいけば、公式に彼女の庇護者はアジレクトからファーラルに変わるだろう。


 だからもう、血の繋がらない(・・・・・・・)娘の為に無為な事をしてくれるなとガーネットは思っていた。


 自分がアジレクトと血の繋がりがないと気づいたのはいつだっただろう。親族で見かけない黒髪だっただろうか。父親だという肖像画を見た時だろうか。母親が見知らぬ男と手を繋いで寄り添っていた時だろうか。そして母が気づけば姿を消していた時だろうか。もうその時期は定かではない。アジレクトに確かめたわけでもない。けれどこれがきっと真実。


「ドルストーラを平定してください。ファーラル様の治世の為に」

「それをするのは俺の役目じゃないな」

「いいえ、貴方はその定石の一つです」


 黒い瞳がまっすぐにフォーデックを射抜く。そして本人は気づいていないが、闇の精霊がガーネットを守っている。それはファーラルからの最大の加護だ。ここで意にそぐわない返事をすれば―――室内にいるはずのファーラルに筒抜けになる仕掛けでもある。


「……まぁ、手助けはする。だが礎はアロイスたちが築くものだ」

「お手並みを拝見させていただきますわ」


 そう言って微笑んだガーネット。及第点はもらえた返事だったのだろう。

 決して暖かではない再会であったが、ガーネットにとってもそれは避けては通れない、必要だった儀式。もしこれで二度と会う事が無くても―――いや、次に会うときはきっと、それぞれ一個人として顔を合わせられるはず。


「隣室にお茶の用意をしています。あちらは長引くでしょうからこちらへどうぞ」

「そうさせてもらおう」


 すっぱりと切り替えたガーネットは、同じく切り替えたフォーデックを導いて歩いて行く。その後姿をロージィは胃痛と闘いながら眺めていたが、立ち止まったガーネットが目線で『来い』と合図したので同じく後ろに並んだのだった。


淡々としてますが、ガーネットの内心は―――

淡々としてますが、フォーデックの内心は―――

淡々とできなかったロージィは可哀想ですね。誰しも師匠には弱いんです。

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