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エイプリルなんやら

ネタssです(;・∀・)

 その日、なんだかグレイが素っ気なかった。正しくは朝見送った時はいつも通りだった。だが、夕方帰って来た時には、その態度はよそよそしいものに変わっていたのだ。いつもであれば無駄に構ってくるというのに、わざとらしいほどにライナを避けている。


「どうしたんでしょうね?」


 ライナの着替えを手伝いながら、ニーナも不思議そうに首をひねっていた。


 ―――なにかしたかなぁ。


 グレイを怒らせるような、何か……いや、見送ってから帰ってくるまで、ライナはグレイと接触していない。特に手紙のやり取りもなければ、精霊を使ってのやり取りもしていない。ということは、仕事で何かがあってきっと気分が悪いのだろうと結論付けた。

 着替え終わったライナは、そのまま本邸の朝食室(名称は朝食室だが、ただの食堂である)に向かい、その扉を開けた。いつものようにファヴォリーニがいて、ミラビリスがいて、グレイがいた。そしていつもの通りジュネスはいなかった。


「さぁ、いただきましょう」


 ライナが座り、準備を終えたのを確認するとミラビリスの楽しげな声があり、食事が始まった。伯爵家であるが、食事はそこまで華美ではなくいっそ質素である位だ。多くの貴族たちが見栄と虚栄を振りかざす中、バーガイル伯爵家は常々まるで自らを戒めるように、贅沢を極力控えて生活している変わった貴族なのだ。

 実はその食事は、豪華な食事に慣れきれないライナを慮った結果なのだが、ライナは全く気付いていない。

 温かいスープは体をポカポカと温めてくれる。深皿に入れられたスープを、ライナは幸せそうに味わった。その様子をグレイはそっと盗み見て優しく微笑んでいたのだが、ライナが視線に気づいて顔を向けると、慌てて明後日の方へと視線を背けてしまうのだ。その避け方が露骨すぎ、ライナだけでなくファヴォリーニとミラビリスも驚いたように、思わず手を止めてしまったのだった。

 食事中に野暮な追求をすることを憚ったのか、グレイに対し特に咎めはなく、そのまま夕食は続いて行く。


「グレイ、領地の東にある谷の事だが―――」

「それは早計ではないでしょうか。あの場所の利用価値は―――」


 なんだか難しい話をしている男2人は、食事が終わった後も領地管理について話し合いを続けていた。管理に関して特に興味のないミラビリスは、食べ終わったライナと共に今に移動して一緒に刺繍の続きを始めた。


「グレイの様子、おかしかったわね?」

「……」


 ミラビリスの問いに、ライナは一つ頷く。

 頷いた拍子にサラサラとした小麦色の髪が肩から滑り、顔を隠してしまう。その姿が寂しそうに映り、ミラビリスは我が息子にどう説教しようかと脳内でシミレーションを繰り返したのだった。


「ライナ様、お部屋に戻りましょう」


 ニーナに促され、ライナは別館にある自室に戻っていった。今夜は夕食後の勉強会もなかったため、やりかけの刺繍が進むはずだったが……グレイの態度の豹変に戸惑ったのが原因なのか、あまり進むことなく終わっていた。ほぼ進まなかった刺繍の糸を指でなぞり、無意識ではあるがため息が吐きだされる。


「ライナ」

「!」


 ため息と呼びかけは同時だった。

 薄暗い廊下の先、ライナの部屋の扉の前で壁にもたれ、腕組みをして待っていたのは元凶ともいえるグレイ本人だ。


「―――」


 どう接していいかわからず、思わず一歩足を引こうとしたところで腕を取られた。いつの間に眼前に?ときょとんとして見上げてしまうほどには早かった。


「ごめん、ごめんライナ」

「?」


 グレイは掴んでいた腕を離すと、そのまま両手でライナの腕から肩へ手のひらを滑らせ、そっと顔を包み込んだ。鍛えられ、皮の厚みが増した掌がライナの柔らかい頬を包んでいる。


「大好きだよライナ」


 大きな身を屈め、ライナの額と鼻先にキスを落とす。そのまま鼻同士を擦り合わせ、ライナが思わずぎゅっと目を閉じたところで、両の瞼にもそれぞれ口付けた。


 ―――ひゃああぁ〜〜!?なになにっ


 内心ドキドキのライナの焦りと緊張は、声に出なくても顔にはありありと現れている。そして体温と脈拍も急上昇間違いなしだ。肌に触れているグレイはそれを直接感じ取っている事だろう。


「俺が騙されたばっかりに……つれなくしてごめんね……」

「?」

「全部全部、嘘ばっかり教えたうちの部隊の連中が悪いんだ。でもそれをすっかり信じ込んで寂しい思いをさせてごめん」

「?」


 グレイ曰く、本日いつもの鍛錬場で部下たちに言われたらしい。そして運悪く、その時ジュネスは別件での用事の為グレイの傍を離れていたのだ。


『隊長、今日はエイプリルフールですよ』

『なんだ、それ』

『えっ!』

『マジですか、隊長!』

『エイプリルフール知らないとか、マジで20代ですか』

『失礼だな。で……そのエイプリルなんやらというのは、なにかの行事なのか?』


 首をひねるグレイに、部下たちはある意味ドン引きしていた。


『……おいおい、マジだぜどうするよ』

『これは教えておいた方がいいだろ』

『だな』

『隊長、エイプリルフールとはですね―――』


 そうして部下たちから教えられた内容とは……。


「今日という一日だけ、自分の大切な人につれない態度を繰り返し、その愛情を図る日だって言われたんだ。素っ気なくしたり、されたりすることにより、心に生まれた悲しさや切なさを味わい、翌日からまた普段通りに過ごすことにより、いかにお互いが大切なのかを再認識する日なんだって言われたんだよ……!」


 グレイは切々と訴えつつ、ライナに頬ずりし顔中にキスに雨を降らせた。唇だけは避けているが、それは一度唇を合わせたら間違いなく貪ってしまい、自制できない自信があるからだった。


「でも、ライナの寂しそうな顔がもう限界。父さんと母さんにも怒られたし反省した。もうエイプリルフールなんて二度としないから……それに」


 頬に固定されていた両手を離すと、ライナは上気した肌のままうっすらと目を開けた。恥ずかしさと恥ずかしさと恥ずかしさで、顔は赤みを増し熱は上がり、脈は早まり瞳は熱を孕んで潤んでいる。しかも上目づかい。


「それに、それに―――再認識なんかしなくても、俺はライナが大好きだからね……………あああもうヤバい!超かわいいっ!潤んだ瞳で上目づかいとか、俺は試されているのかっ」


 両腕でライナを抱きしめ、奇声を発する。

 これでも彼はバーガイル伯爵家当主であり、辺境部隊隊長という立派な役職も持っている人物だ。


「このまま部屋に連れて―――」

「はい、ストップ」

「!」


 背後からの声に振り返ると、ジュネス、クレール、ニーナがそれぞれ仁王立ちで見下ろしていた。この三人、別名『ライナ保護者部隊』である。


「グレイ様」

「大人しくライナ様をお放しください」

「大人しく引き渡してくださいましたら、部屋に連れて行きたい云々発言は旦那様には内密に致しましょう」

「……は、はい」


 ライナが絡んだこの三人に、グレイが勝てるわけが無かった。




 ジュネスとクレールに連行されていくグレイの後姿を見送りつつ、ライナは火照った顔をニーナに拭われていた。いつから見ていたのか、暖かい湯で絞られたタオルは心地よく、顔もサッパリした。


「ライナ様。部屋の扉は内側からしっかり鍵をしてくださいませね。明日わたしくがお声をかけるまで、決して開けてはなりませんよ」

「……」


 ニーナの鬼気迫る発言と表情に、ライナはただ頷くしか出来なかった。

 部屋に入り、ベッドに潜り込んだ。

枕もとにはやりかけの刺繍。図柄はバーガイル伯爵の紋章だ。なかなか難しいが、出来上がればグレイに渡そうと思っている。

 ふんわりとした布団に包まれ、ライナの瞼が自然と落ちていく―――そんな中、思うことは一つだけ……


 ―――エイプリルフールってなんだろう……?


グレイの暴走はいつもの事です。

本編の真面目な彼も、こっちでのちょっとおかしい彼も同一人物ですとも…!

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