15歳になった日
ライナ15歳の誕生日パーティにて。
時期的には本編3章『任務』の半ばです。
「ライナ、15歳おめでとう」
伯爵家一同が揃った食堂。使用人たちも易しく見守る中、幼い顔立ちの少女は照れ臭そうに微笑んだ。
ライナが15歳になった。
詳しい誕生日はわからないらしく、以前までは毎年その季節が来たら、誕生日ということにしていたらしい。ライナは春生まれだとわかったので、庭に新しい花が咲いたころを見計らって誕生日のお祝いをすることになったのだ。
テーブルに並べられたご馳走は、どれも美味しそうに輝いて見える。いつにもましてコック長が腕によりをかけて作ったのだと分かる出来栄えだ。だが、その中でライナの視線が釘づけになったのは、白く大きなケーキだった。
「ははは、誰か早く切り分けてあげてくれ」
「はい、只今」
ファヴォリーニの笑いを含んだ声に、大きなケーキ用のナイフを取り出したのは、コック長その人だった。そしてライナが固唾を飲んで見守る中、白いケーキが8等分されたのだった。その一切れをライナの前にある皿に丁寧に置いてくれる。
――― わぁ……っ
ライナの声無き感嘆の声が聞こえ、コック長のみならず室内にいた全員が微笑ましく見守った。
ふわふわのスポンジ。真っ白なクリーム。生地の間に挟み込まれたフルーツ。ケーキの上にもたっぷりとフルーツが盛られており、真っ赤にイチゴが一際目を引いた。
「食べていいんだよ、ライナ」
横からの声に顔を向けると、優しく見守るようにグレイが座っている。そのグレイ前にも同じように切り分けられたケーキが置かれ、ライナは安心したように口元を綻ばせた。その様子に、もしかしてライナは誕生日という主役しかケーキが食べれないのではと心配したのかな、と考えついてしまい、グレイは不思議なほど面映ゆさを感じた。
「一人じゃ食べれないなら、食べさせてあげようか?ほら、あーん」
「〜〜〜っ!」
グレイは自分の皿のケーキを手早く一口大にすると、それをライナの口元に近づけた。
たたでさえ目麗しい美丈夫が、蕩けるような笑顔でケーキを差し出して近寄って来るのだ。その破壊力は凄まじいものがある。ライナは首を振りつつ顔を真っ赤にして拒否するが、まったく気にしていないグレイはじりじりとその身を近づけていった。
「……グレイ、程々になさいよ」
「大丈夫です」
呆れたようなミラビリスの事にあっさりと返答するが、何が大丈夫なのかは室内にいる誰一人として理解していないだろう。
「グレイ、しつこいと嫌わ―――」
「ありえません」
ファヴォリーニの忠告めいた言葉は、ぴしゃりと跳ね除けた。
ニーナはライナを救うべきか、大事な坊ちゃんの幸せを継続させるべきか葛藤していたし、ジュネスはグレイが自分の言葉で停止するはずがないことを理解していたし、クレールは内心このままなし崩しに事が進めば、バーガイル家の後継者問題はあっさり片が付くと考え、傍観することに決めていた。他の使用人たちも同様で、結局はみんなグレイの味方だった。そしてなにより、ライナがグレイを嫌悪している様子が無いことが一番のポイントだろう。嫌がるのを無理矢理追いかけているのであれば、さすがに総出で救出を試みるべきだろうが……様子を見ている限り、恥ずかしがっているのは明白だが、嫌がっているという感じはない。
――― 頑張ってくださいね、グレイさま!
みんなの心は一つだった。
差し出されたケーキを食べない事には、どうあってもこの事態が抜け出せないと覚悟を決めたライナは、意を決してグレイの差し出したケーキにぱくりと食らいついた。
羞恥の為、真っ赤に染まった顔。
唇から零れた白いクリーム。
恥ずかしそうに見てくる上目遣いの瞳。
「かわいい!ライナっ」
「!??」
「こら、グレイ!」
「グレイ様、お放し下さいっ」
フォークを放り出し咀嚼しているライナに、がばりと抱き付いたグレイはびっくりしているライナの様子も、周りからの制止の声も届いていないようだ。そのまま抱きしめる力を強めつつ、器用に右手を動かし、ライナの後頭部を支える様に固定した。
間近くまで迫った秀麗な顔に、ライナがさらに体を強張らせたと同時―――
ペロリ
「―――っっっ!!?」
唇からはみ出していたクリームは、目の前に男に舐めとられたのだった。
「甘くて、美味しいね」
うっとりと満面の笑みで微笑む男に、ライナが硬直している間に……多方向から腕が伸びライナは救出され、グレイの頭には数発の鉄拳が振り下ろされたのだった。
本編更新するとか言いながら、いちゃいちゃとか、らぶとか、ぴゅあとかが不足して書いてしまいました…。
15歳誕生日ネタとしては、ちゃんとシリアスを考えていたのに、グレイのバカ…(八つ当たり)
王道の「あーん」です。この男に照れなんてありません(キリっ