ルーフの憂鬱
「今日も、目が覚めてしまったのね....」
王都ゲアルカンの居城、尖塔の最上階の窓際で、
少女は心底鬱屈した表情で嘆息した。
誂えられたような天蓋つきのベッド。宝石を散りばめた豪奢なシャンデリア。
美麗な刺繍の施された絨毯。机上に規則正しく並べられた瀟洒な調度品。
古今東西の贅を尽くしたこの部屋を、少女は鳥籠だと思った。
自由を奪われた鳥が、希望を捨て去り諦観する場所。
飛ぶことを忘れた鳥は次第に身を蝕ばれ、終には朽ち果てる。
少女は、ルーフ・ディン・ゲアルカンは藍色の目を伏せた。
――鳥籠の中では、願いは叶わない。
そう諦観する第二王女がそこにはいた。
もう限界だったのだ。
妾の子である彼女は、王女といえど軽蔑される傾向にあった。
王の寵愛が誰よりも厚かったこともあり、第一王女で姉にあたるルティアの嫉妬は
苛烈を極めた。そんな時は、優しい宮仕えの母に泣きついたものだ。
だが、そんな母も急逝し、畳み掛けるように王の崩御が重なり、彼女の歯車は狂い始めた。
内向的で気弱な性格のため、心の許せる兄弟はなく、信頼できる臣下も少ない。
居場所がなくなった彼女にとって、この城で生きることは苦痛以外の何物でもなかった。
――死にたい。
いつしか彼女はそう渇望するようになっていた。
この胸を焼くような苦しみから逃れるのは、それ以外ないと思っていたのだ。
ルーフは窓の向こうへと視線を泳がせる。
水平線上に太陽が顔をだし、たなびいた雲の合間に隠れるように陽光を放っている。
海は未だその陽光の照り返しを受けず、暗く息をひそめている。
俯瞰した王都の街並みは、精巧に並べられた模型のようだ。
彼女の心を投影しているような情景に、ルーフの心は一層暗く沈んでいった。
深い、深い、闇の中にゆっくりと沈んでいった。