#4
スコッチランドに現れた異世界人は、若い男だったという。
「英雄は色を好むというのもまずかったわね」
異世界人と親しくしていた貴族が、彼の女癖の悪さをかねてから心配していた。友人として諌めねば、と思い邸宅を訪ねたところ、そこには各身分の美女が十数人も囲われていることがわかった。
頭を抱えた友人が、とにかく彼と話をしようと奥の部屋へ進むと、そこにはアサーン王の一人娘である王女までが籠絡されていた。
「彼の者曰く、『人類みな平等』とか」
この期に及んでも、彼は重い咎めを課されるとは思っていなかった。
「最後まで自分が処刑されると予感すらしていなかったとのこと」
「異世界人ってなんでハーレムを作りたがるのだろうな?」
女の身のヴァイオラには理解できなかった。
「なにか夢物語を見ていたのかもしれませぬな」
「ともあれ、新しい発想、視点はアガスティアにも発見をもたらしたことも確かなことだ」
「自由な観点で物事を見ることは大事です。しかし、それは彼ら異世界人自身にも言えること」
自然科学の分野では、優れた知見があった。この事件があってからも、異世界人排斥という動きには至らなかった。大方の諸侯にっとては、まだまだ彼らの利用価値は高いと思われていたのだ。
「それもだんだん手に負えなくなっていきました」
彼らに共通して言えるのは、自己主張が強く、感謝が少ない。
「敵国に渡り、勝手に休戦協定を結ぶこともあったな」
国交を断絶した国があれば、断絶しているより交流があった方がいいに決まっている、と単身乗り込み、その原因を探す。
「それは良いのですが、相容れぬならば、接触を絶ったままにしておいた方がいいこともあるのです。殺し合った人間のうらみを軽視して、過ぎたことは水に流せと言われても、素直には聞けますまい」
「戦争犯罪などお互い様、水に流しましょう」と言われれば、身内から犠牲者を出した人間は神経を逆なでされたようなものだ。
「彼の者らの国では、もう何十年も戦争をしていないとか、それも究極的に我らが目指すべき目標ではあるのだろう」
「戦争を知らぬということは、戦争被害者の痛みもわからぬということですからな」
「しかし、その割には、彼の者ら同士でも考え方が大きくちがうというのはどういうことなのだろう。同じ国から来たと言う割に、互いの考えを否定し合っていたようだが」
「私憤を公憤にすり替える傾向もありましたなあ」
やがて異世界人同士で戦争を始めた。正確には、それぞれが所属する国同士を紛争に導いた。