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第二章 ノー・モア・ヒーローズ

ヴァビロンの姫騎士


 ヴァビロン市国に美貌の公女あり。その名をヴァイオラ姫と言う。


 宮殿の自室で彼女はいま、ため息を吐いている。


「とうとう我が国にも、悪魔憑き、いや異世界人が来てしまったか」


 他国では何度かそのようなことがあったと聞いている。だが近隣諸国ではこれが初めてのことだった。


「御意」侍従が答える。


 ヴァイオラにとっては頭の痛い問題だった。侍従の報告によると、山間部に近い農村に異世界からの惑い人が現れた、とのこと。


「しかも幼子と言うではないか」


「姫殿下のご心痛お察しいたします」


「ああー、いやだいやだ」


 ヴァイオラは頭を抱えた。父王が高齢で引退してから1年の間、政務はつつがなく執り行われた。これといった大事件は発生せず、国民からの信頼も得られたと自負している。 周囲に敵国もないため、姫が出生してから戦争もなく、もとより穀物の収穫にも酪農にも適し、飢饉なども起きず、恵まれた土地と気候の国柄であった。


「悪魔憑きは処刑が各国の決めごとでありますゆえ」


「ウィル、そなたも戦場に出たことはあったろう。齢6つの幼子を手にかけたことはあるか!」


 ウィルは眉間を指で押さえる。もう遠い過去の記録だ。


「ございませぬな。非戦闘員に手をかけたこともありませぬ。それも父君のご仁徳ゆえのことと感謝いたしております」


 侍従は貴人の身辺警護も担うから、騎士出身の者もいる。


「わらわも公女と生まれたからには、常に無垢ではいられぬと覚悟はしておる」


 盗賊や人を殺めたる者が捕縛されれば、詮議の後に処刑が行われることもある。その実務は法務官が執り行うが、執行名簿や日取りの稟議には国王の署名が行われる。それらも就任当初は大きな葛藤を経たが、務めは果たしている。


「いまでも慣れてはおらんのに、なんの罪もまだ犯していない稚児を処罰するなど」


 ヴァイオラは、机の引き出しから銀の仮面を取り出し顔にかぶった。


「姫様が心を鬼にして政務に取り組むためにあつらえた仮面でございますな」


 仮面は額から頬までを覆い、公務に臨む際に着用した。もちろん侍従の前では外すし、他国の貴族や諸侯が謁見に見えるときには素顔を晒しているので、


『白銀の髪に、白く透き通った肌、目のぱっちりした鼻の高い瓜実顔。人の心をかき乱すような種類の印象的な顔立ちではなく、どこかほっとする人の心を穏やかにする容貌でございました』


 その美貌は遠方の諸国にまで伝わっている。


「この仮面をかぶってなお自らの心を偽ることができぬ。なんとかこの処刑を回避する方法はないものだろうか」


「姫殿下は民の心を知り交わるために、実地視察がしやすいようその仮面で国民にもお顔を隠しておられますからな。法務官もお心を察して、すでに判例を探してはみたものの、かかる事態が初めてのことゆえ殿下の裁可を求めてきております。殿下の権限にて赦免することも法的には不可能ではありませんが、その場合には他国からの非難が予想されます」


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