#4
もう少しヴァイオラ姫のことに執着するかと思ったが、おとうさまの中では終わった前世のことなのか、どこか無頓着だ。彼女が無事ならそれでいいらしい。
(彼女のために命を賭けて戦い、落命したというのに)
「わたしはアガスティアに来たときと同じようにして、日本にもどってきたのだと思います。ヴァイオラ姫とお城のテラスでお茶に招かれていたら霧が出てきて、少し歩いただけで故郷に戻って来ていたの」
「はて、どうしてそんなことになったのかな」
(どうして? ですって)
そんなこと、理由は決まっているではないか。
「はあ」
わたしはため息を吐いた。
「例の力のことは?」
「もちろん、だれにも話してないわ」
「それがいいだろう」
わたしには異世界で授かった「ある力」がある。
「元の人生を取り戻したんだ、この文明社会を楽しめ」
「いまのわたしには、アガスティアの方が故郷という気がする」
「そうか」
「ねえ、おとうさま」
「うん?」
「いまも剣術の鍛錬をしてますか?」
「子どもの頃はやってたよ。いまはもう木剣を握ることもない」
「この世界ではあまり使い道がなさそうだしね」
「かわりに別の道具を……いや、忘れてくれ」
急に言葉を濁すおとうさまだった。
学習プログラムは一年続き、わたしは普通高校に編入することができることとなった。
県の教育委員会から来たお役人がわたしに問うた。
「あなたの学力なら平均的な普通高校のカリキュラムについていけるでしょう。大したものです」
「勉強以外にすることもないので、友だちもいませんし」
自分でもよくここまでと思う反面、そんなに難しいことでもなかったような気がする。おとうさまはこう言った。
『ゆとり教育なんて陳腐な言い方はしたくないが、いまの日本は学力がそれほど重要視されないからな、いくらでも融通が効くのさ』
「親しい友人がいれば、その子たちと同じ学校にもできるのですがね」
「行きたい学校はもう決まっています。○○高校です」
「この学区ですが大丈夫ですか?」
「大丈夫とは?」
「いえ、地元から少し離れた方がいいのではないかと思ったのです。あれこれ、その、興味本位で噂をされることもあるでしょうから」
「あまり気にしませんね。
人間にとって最初の所属共同体は家族だ。
やがて子ども同士の世界が生まれていくが、幼子にとって依って立つ場所も、なんらかの役割を与えられる場所も家庭の中にしかない。
親は子どもの人生に大きな責任を持っている。責任があるから子どをしつけ、社会での居場所を作る訓練として役割を与え教育する権利がある。