#7
幸いなことに、剣聖の嘆願であるならば大方の為政者はそれを聞き届けてくれた。 どうしてそこまで他人の世話を焼くのか。
『私には秘密があります』
つい口を滑らしそうになることもあった。ユーワンと異世界人は不倶戴天の敵に思われている。彼の指揮のもと、異世界人は葬られた。ユーワンにはなぜか彼らが考えが理解でき、その次の行動を的確に予想した。
ノックして、青年が入ってきた。七剣士の一人。
「ヴァイオラ姫にお目通りします。謁見の間に」
ノエルは姫殿下の隣に立った。玉座に向かってユーワンは膝をつく。
「面を上げよ」
「昨日はご無礼つかまりました。ご迷惑をかけぬよう出立するつもりであります」
「そのことなのだが」
仮面の下から若い女の声がする。貴人が仮面を被ることは珍しく無い。王族ともなれば、暗殺に備えて影武者を立てることも多い。領民も領主の素顔を知らぬことは多い。
「わたしもお前に謝りたいことがある」
ヴァイオラ姫は仮面に手をかけると、素顔を見せた。
「……」
「……」
どのみち、初対面なのだからユーワンには素顔も仮面も関係無い。
「どう思う? ユーワン殿」
「大変、お綺麗でいらっしゃいます」
影武者だとわかった。きれいな女性ではあったが、その表情は真摯なものだった。この宮殿の主人の佇まいではない。実直な使用人の顔だ。
「ありがとうございます」
ヴァイオラ公女の影武者は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「よかったな、ビルギット。剣聖殿はおまえのような女性が好みらしい」
「そ、そんな、姫殿下」
恥ずかしそうに、両手を前に出す影武者の女性。きっと侍女が女官なのだろう。そして、彼女が敬う相手とは。
「……」
「驚いたか、ユーワン・アルティミト」
ノエル=ヴァイオラのカミングアウト。
「驚きましたよ。破天荒ですね、ノエルいえ、ヴァイオラ閣下」
ノエルが満面の笑みとともにユーワンを指差した。
「剣聖よ、その顔が見たかった!」
「これは一本とられましたね」
「あははは、愉快、愉快」
「近衛隊長、心労が絶えないことでしょう」
ロートルも苦笑いしている。姫と同じく、剣聖の上を行ったことは心地よい思いなのだろう。
「まさか、一国の公女が国を代表する騎士を務めているとは。自由に国内を闊歩するための、影武者と仮面でしたか」
他国でも王族の男子で剣の道に励み、騎士としても求めらた者はいた。
「ユーワンよ、国を出るなどと言わず、名前を変え騎士に兵法を教えてはどうか」
「他国の手前、それはまずいかと。せめて国境まで住まいを変えないと」
「剣聖は死んだことにでもして、名前を変えて生きればよい」
サクヤの命を救ってくれたヴァイオラ公女の申し出は断るわけにはいかなかった。




