#4
ノエルのことは信用しても良いだろうとユーワンも考えていた。ヴァイオラ姫殿下からも信任が厚い様子だった。若く純粋な剣士の目をしている。町の声でも評判のいい若者だ。
今ほど経験を積まぬときには、純朴そうな若者に潜む狂気と相対したこともあったが、今はもっと深いところまで見透かすことができるようになった。
「お入りになりますか」
自分の家ではないので、「粗末な住まいですが」とは言えない。
「ではお邪魔をしては申し訳ないのでわたしだけ」
こちらの懸念を察しているのか、言いづらいことを先にわきまえてくれた。
「サクヤお嬢様のご機嫌はいかがですか」
「 おかげさまでぐっすりと眠っております。 お掛けけください」
席を勧められてノエルは腰を下ろした。丸腰の上に着座していては、居合抜きの心配も無くなる。
「今日は 個人的な興味で参りました。 昨日のようなことでなければ、高名な剣士殿が我が国に逗留されているとなればぜひ兵法の御指南いただきたいところでございます」
「 危うく命をかけた指南になりかけましたが、 今日の日を迎えることができて何より。まこと、ヴァイオラ殿下のご仁徳に感服するばかり」
「そう、かしこまらないでください。サクヤ殿の処遇には姫も心を痛めておられたところです」
「他国の使者は 何か言ってきませんか?」
ノエルは首を振った。
「 その点はご安心ください。剣聖殿が命をかけての助命嘆願ならば、他国も口出しはしません。実際、誰も異論を唱えた使者はありませんでしたし、近しい国の大使からも気遣う書状が届いております」
「さようですか。それならば良いのですが。では、ノエル殿の御用の向きはなんでありましょうや」
「ただの、好奇心です」
剣聖と呼ばれるようになってから、そのような目を向けられることが多くあった。旅先でも身元が明らかになると 理由もなく招かれることは多い。
目の前の若者の目を見る。 屈託の無い笑みを浮かべている。なにか腹に隠しているものがあるようには思えない。
この世界で出会った多くの者たち。心に決めた意思を完璧に外見から隠すことのできる者もいた。しかし、 昨日大事だ。今さらきどることなど無い。7剣士は正直者揃いに感じた。 実際には戦わずに済んだが、近衛隊長は自分を殺すと目が告げていた。 目の前の若者は果たし合いを楽しんでいるかのようにすら見えた。国の命運をかけているという自覚があるならば、近衛隊長の姿こそが正しい武人の取る道だ。
たとえ何があっても、 主君を守るのが騎士の努めだ。




