#3
すれ違う者たちが思わず後ずさった。
「剣聖どの」
「ユーワンあるいはアルティミトでけっこうでございます。ヴァリキリー卿」
「ノエルでけっこうです。それよりも先ほどの事ですが、 いつもあのように命を捨てるようなことをなさるのですか」
「 必要とあるらならば」
「よく今まで生きてこれましたな。 命を惜しまないからこそ剣聖と呼ばれるようになったのでしょうか」
剣聖と呼ばれた人物はこの世界に幾人も在った。しかし、多くは年老いたベテランの剣士、さらには教導的な立場にある者が敬意を込めてそう呼ばれること多かった。歳若くして英雄的な働きを残して戦死したものをそう呼ぶこともある。 若くして剣聖と呼ばれる者には死のにおいが付き纏う。
ユーワンはまさしく後者の代表だった。そして今も生きていることが稀有の存在だった。
「剣聖と呼ばれる者は紙一重の悪運の持ち主ということでしょうか」
「なるべく命は粗末にしないよう死に場所は選んできたつもりです。 何度か、もはやこれまでという窮地もありましたが、このたび同様に悪運に救われました」
ユーワンの悪びれぬ声に、ノエルはため息を吐いた。
「さようですか……そろそろ着きますよ。そら、この部屋です」
ユーワンは目を細めた。子どもが幽閉されているのが牢獄でなく、官舎の居間であったからだ。
衛兵と事務官がノエルに敬礼する。
「仔細は聞いているな」
「はっ、驚きました。今まで半信半疑でありましたが、御一行のお姿を見て納得いたしました」
「まあ、そういうことだ。鍵を開けておくれ」
サクヤは宮中の女官に身の回りの世話をされていた。ノエルは直接、サクヤと接することを控えていたが、毎日、様子を陰から見守っていた。
だから、これから自由の身になりここを出て行くことも、 接していた時間が長い女官から告げた。最初、サクヤは女官のスカートをつかんで涙ぐんでいたのだが、家に帰れるのだというようなことを聞いて、それまで世話になっていた農夫の元へ帰るのだろうと納得して支度をした。
「サクヤよ、準備ができたならこの者とともに出発するといい」
ノエルは剣聖の出で立ちを見返した。
「アルティミト殿、着物に血が付いております。子どもが怯えましょう」
ノエルは官吏に着替えを持ってくるように伝え、ユーワンは部屋の隅で着替えた。
やがて、何事もなかったように二人は宮殿を後にした。サクヤはユーワンと初対面だったが、嫌な顔もせずに手を引かれて歩いていった。
ノエルは、少し拍子抜けした。だが二人の姿が消え、夜が来ると公女は感慨にふけった。
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