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第五章 赦すということ

「それまで!  両者、控えよ」


会場がざわめいた。 声の主は仮面の公女。 立ち上がりその細い右腕を肩の高さに掲げていた。 これは国主としての命令を発する声だった。


「 姫様?」


 ロートルは剣を下ろし、背後の玉座に振り返った。その声にもっとも早く反応したのは剣聖・ユーワン・アルティミトだった。


 右手の木剣も背に回し、膝を地につき伏せる。


 思わず、はっと思い出したようにロートルもそれに倣う。


 しばし沈黙。仮面の下の瞳がノエル・ヴァルキリーに向く。コクリと頷くノエル。


「ユーワン・アルティミトよ、大儀であった。十分に剣技を堪能した。このヴァイオラの騎士も良い経験になったことであろう。礼としてその方の願いを聞き届けよう」


 剣聖は『誠でございますか』などとは言わなかった。貴人の言葉に疑問を口にしたりはしない。機嫌を損ねては元も子も無い。


「もったいないお言葉でございます」


「殿下」


 もはや、ロートルも何も言うまいと観念した。


「望みは捕らえた童の赦免であったな」


「御意」


「氏名も不詳であったが童の身柄は、ヴァイオラ・エル・ヴァビロンの名において解き放つ」


「おお」と観衆から戸惑いの声が漏れる。


「それで良いな、ユーワン・アルティミトよ」


 威厳のある声でヴァイオラは告げた。


 そのとき、思いがけないことが起きた。


 ユーワンは立ち上がると、最初に控えていた場所にまで下がった。そこに何があるかと言うと。


 ユーワンの背中を見ていたノエル・ヴァルキリーは剣の柄に手をかけた。


「何をする気か」


 これまで木刀だけを構えていた彼が、それを地に置き、持参した剣の鞘を手につかんだ。


「閣下のご慈悲を賜りまして痛み入ります」


「剣を抜いたぞ!」


 騒然となる場内。これまで対戦相手を死なさぬよう手加減をしていた剣聖がいま真剣を握っている。


「なぜだ、剣聖!」


 ノエルの叫びに呼応するように衛兵が公女の前に人の壁を作った。


「ここは通さんぞ」


 ロートルがユーワン・アルティミトと対峙する。


「ご安心を。ここにて失礼いたします」


 彼は試合場の真ん中に再び進み出て腰を下ろした。


「ご無礼つかまつります」


 ユーワンはあぐらを組み、着物の前をはだけて上半身を露出した。


「なんのつもりだ?」


 ノエルの隣に四剣士がまどう。


「まさか、これは」


「どういうつもりか、剣聖どの?」


 ロートルの問いに答えて曰く。


「悪魔憑きを赦免しては後々、閣下のお立場に障りがありましょう。なにとぞ、この一命を以って事態の収拾をお諮りいただきたく、この場にて自決いたします」



 

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