#2
耳打ちを受けて、玉座のヴァイオラが手を挙げた。
ユーワン・アルティミトが立ちあがる。
貴賓席の見届け人も近隣国の筆頭騎士だった。剣聖と呼ばれ、異能の異世界戦士を倒したその技を是非とも見たいと志願したのだった。
「人は剣聖と呼びますが、なにも自分が天下無双の剣の腕を持っているとは思いません」
「謙遜することはない」
宿の食堂でノエル・ヴァルキリーにユーワンは言った。
「わたしと同じ戦場に立ち、もっと優れた技量を持つ者は大勢いました。ただ、彼らが死に、わたしがたまたま生き残っただけのことです」
自嘲的に、そして少しさびしそうに言った。
「勇敢な人間から死んでいきました」
ノエル=ヴァイオラも剣聖は、任じられたものではなく、彼の「二つ名」であることを知っている。
彼は果たし合いの闘場で、一人の味方もなく立っている。
彼の出自は、遠く東方の小国の商家の末子だったらしい。物心つくと剣の道を志し、平和な故郷から武者修行の旅に出たと聞いている。
彼は軍隊にも入らず、旅を続けていくうちに剣士として名が知れることになっていった。行く先々で野盗の類から村々を守り、一揆に加わることもあった。
多勢を前にしても、怯むことなく戦い、力なき者には兵法を教えた。強大な権力を持つ為政者であっても、ユーワン・アルティミトの剣から逃れることは難しかった。負け戦であろうと、敵方の将は暗殺により討ち取った。殿を務めて、一気に参加した者は逃しきった。
「守りきったなどと思っておりません。もとより挙兵しようとする者には、最初から土地を捨てて逃げることを勧めました。旅を続けて、どの国にどれだけの人間が移り住めるかのキャパシティを知っていました。どうしても戦うと言ってきかぬ場合にのみ、わたしは彼らとともに戦ったのです」
士官の誘いがあっても旅を続けた。
「どうして旅を続けるのか?」問われても、多くを語らなかった。
果たし合いの順番はくじ引きで決めた。ノエルもくじを引こうとしたが、なにがなんでもロートルに拒否された。
「姫の順番は大将でお願いします」
先鋒は衛士から剣の腕で取り立てられ出世した青年、ウルフィーが引き当てた。
「十分に気をつけよ」とのヴァイオラの言葉に、彼は不敵に微笑んだ。
「これは幸運。手前、まだ己より強い相手と立ち会ったことがありませぬ」
「そういえば、まだ七剣同士での手合わせも無かったな」
七剣と言えど、なにか特別扱いされることは無く、諸奥ムは多忙だった。
「最初は、円卓の騎士のように定例の会合があるのかと思っていました」




