第四章 七剣士
そして決闘の日がやってきた。
決闘場は、騎士官舎の稽古場となった。衆目を憚り、他国からの見届け人を招くのに都合が良かった。ふだん、なにも飾りのない空間だが、四隅には白い幕が張られ、通常より明度の高い灯が増設された。時刻は正午に用意が整った。
日本で言えば中学高校の体育館ほどの広さがあり、窓からは柔らかい光が差し込む。
ヴァイオラ姫を上座にヴァビロンの重臣と近衛20名ほど、隣国の官吏や騎士が見届け人として20名ほどいた。建物の内外を、数え切れぬ兵士が警護していた。
中央にしつらえた折りたたみの椅子に、ユーワン・アルティミトが無言で座っていた。
「不機嫌そうだな、ロートル」
「姫をお止めすることができず、今日の日を迎えてしまったことはこのロートルの不徳」
上座を右に見る位置に決闘の相手、七人が居並ぶ。
その七人の中に、ノエル・ヴァルキリー=ヴァイオラもいた。
本来、ヴァイオラが座る席には、侍女が仮面を付けて皇女の謁見服を纏って座っている。元より市井の視察の折にはこういった役割分担をしていた。どの国にも王族には複数の影武者がいるものだった。それは、暗殺の防止という目的があったり、形ばかりの視察を任せることもあった。
ヴァイオラの場合は、近衛騎士に扮して、あるいは一平民として国内を闊歩するためのものでもあった。
「見よ、剣聖の姿を」
「白装束ですな」
この地方には白装束に死に装束という認識は無い。むしろ、結婚式などの慶事のイメージが強い。彼の姿は二枚ほどの簡素な着物を重ねて着ている。裾は七分ほどの長さの下に足袋を穿き、脛には具足を付けていた。決闘に於いては、望むのなら鎧を付けることも卑怯には当たらない。あまり、防具を重くすれば一対一の試合に於いては不利になるばかりだ。
観戦席の見届け人たちが顔をしかめている。
「不謹慎な」そう言っているのが、ヴァイオラには唇の動きで読める。彼らには戸惑いもある。ユーワン・アルティミトは、生身の人間でありながら、「悪魔憑き」と呼ばれた異世界人を倒した剣の道を極めし者。また、その人柄も聖人と呼ばれるに足る者として敬意を持たれている。意味無く礼を失することなどないだろう。
「東方では、死者に白衣を着せて葬るのだという。おそらく剣聖は勝敗の如何に関わらず死ぬつもりなのだ。先日会ってそう思うにいたった」
ノエルが先日、安宿に逗留するユーワンを訪ねたときに比べるとさすがにその形相に鬼気迫る者があり、とても晴れやかな場所にいる顔には見えなかった。
「刻限です」




