#3
「なりませぬ!」
「なあに、腕の一本ぐらい折られてやるさ。剣聖は我が国の厄介事を引きうけてくれると言っているのだ」
「姫、父君はお育て方を間違えられましたな」
ロートルはこの時、既に決意していた。己が敗れし時は、全軍を挙げて剣聖の抹殺をするよう配下の者に言い添えておくことを。決して姫殿下を決闘場に立たせることはないと。
「異世界人の童子はどこにおるのだ?」
ヴァイオラは問うた。
「言葉を話せぬ幼児故、捕縛されていると悟られぬよう裁判所の一室に軟禁しております」
「顔を見よう」
「心苦しくなりますぞ」
「剣聖との試合如何によってどう転ぶかわからぬ。全ての情報を把握しておかなければならぬ」
ヴァイオラは仮面の公女である。それは素顔で国の中を歩くためであった。
官吏の装束をまとって、裁判所を訪ねた。子どもではあっても、 強力な超能力を持つ危険人物である。その身柄を拘束するために裁判所の警備士は倍増されていた。
直接、言葉を交わすことは止められたが、異世界人と同じ部屋に入ることは許された。
童子は子どものいる女性官吏に身の回りの世話をされていた。ヴァイオラはその官吏の付添のように部屋の隅に立っていた。
(ロートルが面会を止めるのがわかる)
元気はあまりなさそうだが、童女の疑いを知らぬ目、自分の運命を知らず過ごしている姿を見ると、胸が締め付けられる。
ほろりと涙がこぼれた。
「すまない、外に出る」
言い残して、控室にもどった。侍従たちが待機していた。彼らを前にしてヴァイオラは宣言した。
「もし、剣聖の出方によっても処刑を回避できないことがあれば、表向きは処刑を執行したことにして、童子には新たな身分を与える。取り計らえ」
「もし、露見すれば……」
「適切な人物を選べ、一つ、信用のおける子どものいない夫婦。国を出て暮らしていける者だ。その者に暮らしに困らぬ財を与えよ。二つ……二つには、最近亡くなった子どもの亡骸を、用意いたせ」
前半は毅然として命じたが、後半は声を絞り出すようにやっとのことで発した。
「剣聖の居所は把握しておるのか」
「万端滞りなく、お許しがあればすぐにでも討ち取りに向かう所存です」
「使いを出せ、果たし合いを受けると伝えよ、いや……わたしが向かおう、七件の末席に名を連ねるノエル・ヴァルキリーの努めだ」
ヴァイオラ・ド・ヴァビロンは髪を束ねて、近衛騎士の装束に身を包んだ。帯剣して騎乗する。




