#2
盆の上から書面を手に取り立ちあがり、もう一度読み返す。その文字が震えた。
「手が震えておられますな」
「姫、心配は御無用でございます」
衛兵が言上した。
「おびえずとも我らが必ずや剣聖を討ち果たします。なんともなれば、決闘前にその身柄を押さえることも可能でございます」
「1人対7人の勝負に勝ち抜きましたれば、童子の助命嘆願あい成りますこと願候」
ヴァビロン七剣はこの国の剣術指南役7名のこと。
「ヴァビロンの七剣の名をよく知っていたな、剣聖どの」
「ご謙遜を、名だたる剣士がこの地に集いしは、先王そして姫殿下の徳があればこそです」
「勝てるかな、我ら7剣士で」
「なりませぬ!」
七剣士の筆頭は、元近衛騎兵隊長で現侍従長のロートル。そして末席の最年少剣士はその名をノエル・ヴァルキリーと言った。
「七人がかりで勝てぬのでは、七剣の名が泣くであろう」
「そういうことを言っているのではありませぬ。たとえ、剣聖相手であろうと六人が相打ちするつもりで臨めば討ち取ることも可能かと存じます。危ういと判断すれば、生きて帰さぬこともできるでしょう。しかし、この試合を受けることはできませぬ」
「わたし自身も剣聖の腕には及ぶと思っていないが、一度手合わせしてみたいとは思っていた」
「やはり、武人の魂がうずいておりましたな。わたくしも同じです。だからこそなりませぬぞ、姫殿下に万が一のことがあれば、先王に顔向けできませぬ」
「しかし、これを拒めば臆したかと嘲笑を受けかねません」
ベテランの衛兵も七剣の一人だ。
「嘲笑がなんだ、ラウルよ、他の七剣と近衛騎士を集め、剣聖の居所を探せ、夜襲をかけるのだ」
「ま、待て待て、爺、勝手なまねは許さぬ」
「そうです、ロートルどの、それがしも剣に人生を賭けた者、剣聖とはいえ若者に負けぬ経験がございます。勝算もあります」
「可能性の問題ではない、姫の身をお守りすることが最優先事項だ」
「ロートルよ」
「姫」
「わたしはこの勝負を受けても良いと思っている」
「おやめください。姫は剣士である前に公女なのですぞ」
「だからこそ、である。異世界から来た者であろうと、幼子を国主として手にかけてよいのか? 助ける方法があるなら試す責務がある。ましてや、嘲りの言葉など気にはせぬ。おそらく剣聖には負けるであろう。しかし、それならば童子を見逃したとしても諸侯は納得するであろう」
「姫にもしものことがあっては!」
「それに見よ。この果たし状。最後の一文に自分は決闘に木剣にて臨むと記されている。命までは取られまい」




