第三章 剣聖
「なにごとか」
侍従長の問いに、衛兵と官吏が息を切らし答える。
「謀反です!」
「ええー!!」
ヴァイオラは思わず叫んだ。
「うそでしょ、どうして?」
善政を敷いてきたつもりで、自分で言うのもなんだが国民からも支持は高いはずだと信じている。王位を狙うような野心を持つ親戚縁者もいない。領内で一揆なども父の代から起きたことがない。
「ええい、紛らわしい言い方をするな、殿下が腰を抜かしているではないか」
若い官吏は素顔のヴァイオラに拝謁できる重臣の家の出だ。ベテランの衛兵は平民だが、遠慮なく官吏を諌める。
「謀反……ではないの?」
「失礼しました。順を追ってご報告申し上げます。先ほど、モンパルナスの街路に不届きな高札が立てられ、市民の間で騒ぎになっておりました。高札は回収し、いまは城内に……」
「高札にはなんと書かれていたのか? また何者の手によるものか」
「真偽は不明ですが、それもまた驚くべきことに」
「何者だ?」
「剣聖、ユーワン・アルティミトを名乗っております」
「それはまことか!?」
騎士や剣の腕に覚えのある者でその名を知らぬ者はいない、高名な剣士だった。たいていそのような者は高齢で豊富な戦績を誇っているものだが、20歳を超えた頃の歳だというのに、その名は遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よと遠方の諸国にまで轟いていた。
「確かに、剣聖は旅の剣士、この地方に来ているとは聞いておりました」
ヴァイオラの表情が変わる。
「爺、知っておったのか、なぜわらわに知らせなんだ?」
「申し訳ありませぬ、殿下」
侍従は姫が剣聖に興味を示すことがわかっていた。姫の秘密の性分と、ユーワン・アルティミトにまつわる噂を重ねて遭わせぬ方が良いと判断していた。
「まことにその者が剣聖であるか調べねばならぬな、爺」
「御意」
「して、ユーワン・アルティミトはなんと申しておるのだ」
「文面をこちらへ」
高札からはがされた書面が、ヴァイオラの元へと届いた。
執務室に座り、盆に置かれたその書面をヴァイオラは緊張した面持ちで読んだ。臣下たちは国主として反乱者に対する故の真剣さと思った。それはそうだが、彼女の中にはもう一つ別の感情もあった。侍従長は知っていた。
書面の内容は、まず公女・ヴァイオラに対してこのような書面を掲出する非礼を詫びる言葉から始まった。
次に年端もいかぬ幼児を処刑するという無慈悲な裁きに対しての抗議の言葉が綴られていた。そして、提案。




