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人にどう思われようと、知ったことではない。
残酷?冷徹?薄情?
そんなボキャブラリーの貧困な言いようには既に慣れきっていたし、それを真っ向から否定しようと思ったことも無い。
能力や才知を羨望し、しきりに嫉妬する凡人などには、路傍の石程にも注意を支払うことは無かった。
ましてや、他人に興味を引かれるという事など、微塵にさえ無かった。
僕の存在価値は絶対的なものであり、揺らぐことなどは決して無い。
他人がそれを決めたり、又、それを脅かすことなど、尚更無い。
あるわけが無い。
できるはずが無い。
そう信じて疑わなかった。
他人など・・・下等な有機生命体としてしか見てはいなかった。
だから・・・・・・
「とめないの・・・?」
「ああ」
こんな状況に立たされたところで、動揺一つするはずも無かった。
「・・・君が何をしようと、僕の知ったことではないからな」
肌を刺す風邪が、景色を揺らめかせる。
感情のこもらない自身の声が、風に乗ってその空間に響くのを、僕はまるで第三者としてのように、離れた位置で、驚くほど客観的に聞いていた。
屋上のフェンスを乗り越えた先。
僅かに残る、幅数十センチのアスファルト。
そこには、おぼつかない様子で、それでもしっかりと立ちすくむ、一人の女性がいた。
長い黒髪をはためかせ、視線は足下に落としたまま、僕と短い会話を交わす。
斜め横から見た、その女性の横顔。
その時、風に逆らわずに靡く髪の間から、一点を見つめ続ける瞳が見えた。
喧噪に満ちた地上を見つめる、深くよどんだ瞳の奥。
そこに映るもの。
僕はそれを知っていた。
それは・・・"絶望"と呼ばれている。
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