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クラスのヒロインとカップル宣告

作者: 小隹雀
掲載日:2026/05/27

 俺のクラスにはヒロインがいる。


 容姿端麗で色白な美少女。彼女は表裏のない性格でクラス中から慕われている。

 背は俺より低く、150あるかどうかの小柄な体型で、人懐っこい笑顔を見せる様は小動物的な可愛さがある。

 だが、彼女はその小柄な体型に似合わないものをお持ちで、自然とそこへ目がいってしまう。


 佐藤陽菜(さとうひな)は間違いなくヒロインであった。


 そんな彼女に隙あらば話しかけているのは俺、中村颯太(なかむらそうた)

 我ながら普通の男子高校生だが、その小さい脳みそは佐藤陽菜でいっぱいいっぱい。最近は勉強も手につかなくなってきてしまった。


「おはよう、陽菜さん!」

「おはよー! 颯太くん! そうだ⋯⋯! この前おすすめしてくれた漫画読んだよ!」

「本当に!?」

「うんっ! まさか、最後に隕石が落ちてくるとは思わなかったよ! 早く続き読みたいな~!」


 彼女は嫌な顔ひとつせず会話をしてくれる。

 こっっっんな、天使がフリーだなんて信じられない!


 クラスの男たちは様子見しつつ、玉砕するファーストペンギンを待っているのか誰も陽菜に告白をしていない。

 きっと誰か一人が告白したら、男たちは隕石のように彼女に群がるのだろう。


 最初のペンギンになるのはこの俺だ。

 だが、今のままなら勝てる見込みは薄い。俺は彼女の前に現れ続け、単純接触効果を図った。


 告白は一日にして成らず!


 別の日。廊下を歩いていると陽菜の後ろ姿が見えた。その彼女の身体がよろめ、倒れそうになる。


「平気!?」

 俺は咄嗟に駆け寄って彼女の腕を掴む。細い腕の中には結構な重さの段ボール箱があった。


「あれ⋯⋯颯太くん?」

「こっちは俺が持っていくから、保健室で休んで!」

「うん⋯⋯あ——」


 俺はかっこよく演じきるため立ち止まらずその場を後にした。


 よし⋯⋯今日も話せた!


 陽菜は本当に体調が悪かったようで教室に戻ってくることはなかった。

 今日一日、クラスにヒロインは不在であった。


 その翌日には、学校に登校する陽菜の姿が見える。


「おはよー! 元気そうで良かった!」

「あっ、颯太くんおはよ。昨日はありがとうね⋯⋯!」

「いいんだよ! また、何かあったら頼って!」

「うん⋯⋯!」


 それから何日経とうが、俺と彼女の関係は変わりそうになかった。


 今日も今日とて、陽菜との甘々イチャイチャラブラブ同棲生活の夢を見た俺は、現実に落胆しながらも起床する。


 いつ告白するのがいいのだろうか⋯⋯

 やっぱり、卒業式の桜の下で告白するのが一番ロマンチックか?

 それとも休日に遊びに誘ってからか?


 学校へ行く支度をテレビを見ながらしていると、画面には何やら奇妙なものが映る。画面の中には顔半分を布で覆い、口だけを出している女がいる。


『本日、世界は混沌に包まれ、終焉の危機を迎えるであろう。これは、誰でもない神からのお告げである。危機を乗り越えられる者は、このお告げに従い迅速に行動できた人間だけだ』


 預言者だと自称する女はそう語り、口元をニヤケさせる。


「マジか!?」

 世界が終わったら元も子もない。


 こうなったら彼女に告白しないと——


 クラスでも予言の話で持ちきりだった。


「世界終わるらしいから課題してこなかった」

「えー! まだ、終わってないんだからやってこよーよ!」


 女友達と話している陽菜に俺は近づく。


「陽菜さん!」

「あれ!? どうしたの? 颯太くん」

「ちょっと、話したいことがあって。放課後時間もらってもいいかな」

「わ、わかった⋯⋯! 時間空けておくね!」


 俺たちの会話を聞いていた男たちが一斉に彼女に押しかける。


「佐藤さん、俺も話があるんだ!!」

「俺も俺も!!」

「ごめんね⋯⋯! 先に颯太くんと話さないとだから——」


 手を合わせ首を傾げる彼女と目が合った。


 放課後、俺は校舎裏に陽菜のことを呼ぶ。


「——で、話しって何かな⋯⋯」


 真ん丸の瞳が夕日に照らされ、輝いて見えた。

 その真っ直ぐな目が俺の心をかき乱してくる。


 やっぱり、綺麗だ——


 ⋯⋯って、違う!!


 今日は彼女に告白するためにここに呼んだんだ。


「颯太くん⋯⋯?」


 気を取り直して深呼吸をする。


「陽菜さん!!」

「は、はい⋯⋯!」


「お、俺⋯⋯陽菜さんのことがずっと前から⋯⋯」


 頭ではわかっているのに言葉が出てこない⋯⋯!


 しっかりしろ! 俺!


 「す⋯⋯好⋯⋯ス?」

 言葉を出しかけたその時、頭上を光輝く何かが通り過ぎていくのが目の片隅に映った。


「凄い流れ星」

「え?」


 肉眼でもはっきりと見える大きな流れ星が視界を埋め尽くす。


「本当だ⋯⋯! きれー!」


 流れ星は幾つも見え、空に筆を走らせている。


 流れ星に見入っていると、スマホが何の脈絡もなくけたたましい警報音を鳴り響かせる。


「な、なんだ!?」


 俺は身体を飛び跳ねさせながらもスマホに目を落とす。

 国民保護に関する情報と題したメールには、隕石による大規模自然災害の文字が羅列していた。


「隕石⋯⋯!?」


 さっき見たのは流れ星じゃなく、隕石だった!?


「——で、話したかったことって何かな?」

「それどころじゃないでしょ!?」


 陽菜はきょとんとした顔をしている。


 ちくしょう!!

 本当なら今頃、陽菜に告白をしていたと言うのに⋯⋯本当に世界が終わっちまうのか——


 辺りに防災無線が鳴り響く中、学校を囲むように配置されていたフェンスを装甲車が突き破ってきた。


 今度は一体なんなんだよ⋯⋯!


 中から現れた人たちは防護服を着た人と武装している人がおり、俺と陽菜は取り押さえられる。


「な、なんですか!?」


 二人は防護服の人間たちに鼻の中の粘膜を採取される。


「いきなり、何するんですか!!!」


 俺たちは装甲車の後ろに連なって停まっていた二台の車両、別々に詰め込まれる。

 そして、どこかに向かって発進した。


 目的地に着くまでの間、個人情報や家族構成、陽菜との関係を根掘り葉掘り聞かれた。

 後ろの車に乗っている陽菜も同じ事を聞かれているのだろうか。

 そのまま動く車の中で夜を明かし、タイヤが止まったのは翌朝のことであった。


 俺たちをここまで連れてきた奴らは、二人をマンションの一室に案内し事情を話す。


 世界各地に落ちた隕石から未知のウイルスが検出され、大規模なパンデミックになることが予想される。この緊急事態に国は感染していない少年、少女を隔離し、日本国民が滅亡しないよう取り組んでいるらしい。

 たまたま居合わせた俺たちがここに連れてこられたようだ。


 そこで俺と陽菜はカップル宣告される。


「俺たちがカップル⋯⋯!?」


 今現在猛威を奮っているウイルスがどれだけ人体に有害なのか判明していない。ウイルスに一度も感染していない男女で子供を作り、人類滅亡を回避する試みのようだ。


 国の存続危機だとしてもめちゃくちゃすぎだろ!?


 しかし、承諾をするだけで衣食住を提供すると言うのだから断ることもできない。


「⋯⋯わかりました。受け入れます」


 何より——


「わ、私も⋯⋯!」


 以外にも、陽菜も俺同様にこれを承諾した。

 何より、陽菜とカップルになれるなんて願ってもないことだ。


「あははっ⋯⋯私たち恋人になっちゃったね?」


 陽菜は赤く染め上がった頬をかいている。


 かわいっ!?


 でも⋯⋯


 でも!!


「どうしたの!? 颯太くん!! 頭痛いの!?」

 俺が頭を抱えると、陽菜が心配して駆け寄ってくる。


 どうせなら告白して恋人になりたかったッ!!


 今日、この日から俺と陽菜の同棲生活が始まった。

 外出は案外自由にできるみたいだ。街を囲むようにバリケードが配備されているからそれもそうか。

 ここからは見えないようだが、囲いは何重にも仕切られているらしい。


 隕石の落下が確認されていないここは安全で、非感染者の拠点に選ばれたようだ。

 街の中には俺たちみたいに外から運ばれてきた人間と元から住んでいる住民が入り乱れているらしく、パニックになっている様子は誰一人として見られない。


 街の中には大型のショッピングモールがある。

 俺たちは手渡された生活費片手にスーパーを目指す。


「颯太くんは好きな食べ物、何かある?」

「う~ん⋯⋯カレーかな」

「わかった! 今日はカレーにしよう!」


「陽菜さん、料理得意なの?」

「任せて! 美味しいカレー作ってあげるね!」


 カゴに今晩の食材を詰め込み、スーパーから退店する。


 両手に袋を引き下げ、ショッピングモール内を歩いていると、陽菜はアイスクリーム屋さんで立ち止まる。

 獲物を狙っているかのように、その目はかっぴらいていた。


「陽菜さん⋯⋯?」


 俺に声をかけられて陽菜の口から出ていたよだれが引っ込む。


「ご、ごめんねっ! 行こっか!」


「あー⋯⋯食べていく?」

「ううん⋯⋯甘いものは控えようと思ってて⋯⋯」


 確かに、食べた分全てが胸にいってそうだ。


「世界が終わっちゃうかもしれないんだし、我慢はもったいなくない?」

「そ⋯⋯そうかも!?」


 陽菜はアイスクリームを食べ始める。


「ん~!!」


 陽菜はほっぺたが落ちそうなほど夢中でアイスを口に入れていた。その頬に生クリームが付いている。

 俺は紙ナプキンで彼女の頬を拭う。


「颯太くんっ!?」

「ごめん、ここにアイス付いてたから」

「あ、あっ、そうだったんだ⋯⋯」


 拭いたばかりの頬は赤くなっていた。


 夕食は彼女の作ってくれたカレーで食卓を囲む。スプーンでカレーをすくい、口の中に入れる。


「うまっ!」

「本当!? 良かった~!」


 そのまま二人はカレーを食べ進める。


「陽菜さんは嫌じゃなかった? 俺とカップルになって⋯⋯」

「嫌なんかじゃないよ。むしろ、颯太くんとで良かった」

「え⋯⋯」


「私が学校の廊下で倒れそうになった時、助けてくれたことあったよね。ああいうのって、周りの人にも相談しづらくて⋯⋯だから、颯太くんが助けてくれて嬉しかった!」


 陽菜は俺の方をじっと見て、


「ありがとう!」


 とびっきりの笑顔を見せる。


 空になった皿を二人で洗う。エプロンを着ている陽菜は完全に新妻であった。

 俺の目線に気がついたのか、陽菜がこちらを振り返る。


「どうしたの⋯⋯って、また何か付いてる!?」

「ううん。付いてないよ」

「なあーんだ!」


 お腹が膨れた二人はソファーでくつろぐ。テレビを点けてみるが何も映らない。

 その静寂を陽菜が切り裂く。


「それで⋯⋯話したかったことって何かな」


 今更だ。俺は覚悟を決めて陽菜に向き直る。


「ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください!」


 その言葉を聞いた陽菜が俺の胸に飛び込んでくる。


「はい⋯⋯!」

 その返事が嬉しくて、俺も彼女の背中に腕を回す。


「えへへ⋯⋯やっと聞けたっ」


 陽菜は目と口を閉じ、俺に身体を委ねる。

 俺は彼女と唇を重ねる。


 二人は互いに見つめ合った。


「これからよろしくね⋯⋯颯太!」


 俺の何かが壊れる音がした。


「陽菜!!」

「きゃっ!」

 そのまま陽菜をソファーに押し倒し、再度唇を重ねた。


 いつも縛っている陽菜の髪が解ける。陽菜の髪はこんなにも長かったのか。


 二人の身体が密着し合う。


 制服の上からはわからなかったが、彼女は想像よりも男を惑わすマシュマロボディーをしていた。

 クラスのみんなは知らないヒロインを俺は今、独り占めしている。


 こんな状況にならなきゃ、きっと彼女とは付き合えなかっただろう。


 そればっかりは隕石に感謝しないとな。


「颯太、大好きっ」

「俺もだよ」


 これから先、世界がどうなってしまうのかなんて予想もつかない。


 でも、きっと——


 陽菜と一緒ならなんとでもなるだろう。

最後まで読んでいただき誠にありがとうございます!

初めまして、小隹雀ことりさくです。長編の息抜きに初めて短編を書いてみました。題材はここ最近隕石の話題を見たのでそれを。

最初の構成は喧嘩ばっかりの幼馴染を書こうと思ったのですが、イチャイチャに路線変更しました。

他にも小説を書いているのでよろしければ!

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