第5話:午後の街と小さな異変
この国は、数年前まで隣国との戦争に揺れていた。
国境の争い、物資の不足、そして多くの犠牲者——戦争は終わったものの、その傷跡は街の至るところに残っている。
瓦礫や焼けた屋根、行き交う衛兵や荷車の音が、平和の戻らぬ日常を物語っていた。
午後三時、セラフィナは護衛と侍女に付き添われ、城外の小さな町へ向かう。
今日は戦争で傷ついた人々に寄付を届け、町外れの教会で祈りを捧げる予定だ。
石畳に反射する光の中、街のざわめきが耳に入る。
商人の怒声や物資の運搬の音、衛兵の巡回……戦後の名残が混じり合い、日常と不穏が入り交じる。
教会に着くと、神父が静かに迎えた。
「ようこそ、セラフィナ嬢。皆、久しぶりの顔ぶれに喜んでいます」
セラフィナは微笑み、寄付の袋を手渡す。
神父はふと小声で耳打ちした。
「町では盗賊の被害が増えています。帰り道、どうか気をつけてください」
「まぁ、そうなのですね。気をつけますわ」
セラフィナは軽く頷き、身を引き締める。
祈りを終え、教会を後にする。
日が傾き始め、影が長く伸びる頃、帰路につく馬車の揺れが心地よくもあり、どこか不安を含むものだった。
泥でぬかるんだ路地の先で、ちらりと動く影——。
セラフィナはまだ気づかない。遠くで夕刻を知らせる鐘の音がかすかに聞こえた。




