第4話:セラフィナの日常
朝食の席。父は書類に目を落としながら淡々と話す。
母は斜め前に座り、無言でセラフィナをじっと見つめる。
その視線だけで、自然と背筋が伸び、気を抜けないことを思い出させられる。
(いけない、しっかりしなくちゃ。)
両親に朝の挨拶をしてから、自分の席に着く。
父は書類をめくりながら、何気なく口を開いた。
「そういえば、王弟殿が近々、宮廷で面会を求めるらしい」
母は眉をひそめ、慌てて話題を変えようとする。
父は肩をすくめ、続ける。
「まだ何の話かは分からんが、その時は信頼できる者と一緒に来るようだ」
——信頼できる者……
セラフィナの頭の中に漠然とした不安が広がる。
知らぬ間に誰かの駒にされるかのような、鳥籠の感覚が胸を締めつける。
窓の外を見やると、通りを行き交う人々の影が揺れる。
遠くの城壁には衛兵の影が立ち、戦争の傷跡を抱えた街にまだ緊張感が漂う。
母の視線や父の書類の動きにも、宮廷での微妙な力の動きがちらりと見えた。
鳥籠の鎖は重いまま。
それでも、セラフィナの心の奥のほんの一部は、少しだけ自由を求めていた。
——そして、ふと、昨夜の庭園の月明かりの下で聞いた声を思い出す。
「忘れるな。どんなに重い鎖も、心に自由があれば折れはしない」
あれは鳥籠の中に居る自分を、見つけてくれた唯一の言葉だったのだ。




