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白狼と鳥籠の令嬢  作者: すい


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3/8

第3話:庭園での出会い

 夜会の喧騒が遠くに消え、舞踏室の光も背後で淡く揺れる。


セラフィナはそっと庭園への小径へと足を進めた。


夜気は冷たく、肌を撫でるたび現実を思い出させる。

噴水の水音だけが静かに響き、胸の奥の鎖が、ほんの少しだけ緩むのを感じた。


「——こんな所に来たって、自由になれるはずもないのに」


独り言が夜に溶ける。

その瞬間、背後の影が微かに動いた。


振り返ると、木陰に立つ人影。


長身で黒外套、月光に撫で付けられた銀髪が淡く光る。

灰緑の瞳が夜に静かに光り、やけに整った顔立ちからは威圧感はなく、それでいて不思議な魅力をかもしだしていた。


「……お前、まるで戦場にいるような顔だな」


低く落ち着いた声。


「……誰?」

思わず口をついた。声はほんの少し震えている。


男は肩をすくめ、鼻で笑った。

「ただの通りすがりさ。——夜の庭は退屈だから、見てただけ」


「……そうなんですね」

セラフィナは小さく息を吐く。

——その声はほんの少し震えたけれど、目は自然に男の美しい銀髪を追っていた。

——知らず知らず、視線が洗練された佇まいに吸い寄せられていく。


「肩に力入りすぎだ。手も固まってる」


その言葉に、セラフィナは思わず顔を背ける。——恥ずかしい。


男は肩をすくめ、鼻で笑った。

「——無理に笑おうとしてる顔も、よく見える」


セラフィナは小さく唇を噛み、顔を少し赤らめる。

「……あんまりジロジロ見ないでください」

——恥ずかしさで声が少し震える。


男は軽く肩をすくめ、鼻で笑った。

「悪りぃ悪りぃ。ついからかっちまったな」

口元にわずかに笑みを浮かべる。

「美人が恥ずかしがる顔は、悪くないな」


セラフィナは思わず目を逸らす。


少し間を置き、男は肩越しに静かに訊く。

「……しかし、あんな顔になるには理由があるだろ?」

——低く、微かに優しさを含む声。

「悩みでもあったのか? なきゃ、あんな戦場みたいな顔はしないだろ」


セラフィナは小さく息を呑む。

——誰にも言ったことのない本心を見透かされた気がした。

「……そんなに顔に出てましたか?」

不安になり、伺うように男を見た。


男は軽く微笑む。

「話したくないなら無理に言わなくていい。……でも、話して楽になる時もある。」


セラフィナは小さく震える声で、ぽつりと零した。

「……夜会では、いつも息が詰まるんです。……完璧でいなきゃって、ずっと思って……」


男は頷き、眼差しを柔らかくする。

「なるほどな……そうか、だからあんな顔をしてたんだ」


——否定も同情もせず、ただ受け止めるだけのその視線に、セラフィナは心の奥から少し安心した。


男は少し微笑み、低く静かな声で言った。

「忘れるな。どんなに重い鎖も、心に自由があれば折れはしない」


——その言葉が、胸の奥に小さな灯をともす。

セラフィナは、この温かな言葉をくれた男に向き、お礼を言おうと視線を向けた。


そんなセラフィナを遮るように男は小さく笑う。

「悪りぃ、でも続きはまた今度だな」


その瞬間、遠くから父親の声が響く。

「セラフィナ、どこにいる!」


セラフィナは慌てて声のした方を振り向き、

また男の方へ顔を向ける


「じゃあな。紫髪のお嬢さん」


その声が夜気に溶けるように消えると、男の姿も闇に溶けるように消えていった。


セラフィナは立ち止まり、胸を抑えながら息を整える。

——男はもういない。だが、心の奥のざわめきはまだ消えていなかった。

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