第2話:王宮の夜会
夜空に薄く星が瞬く頃、セラフィナは豪華な宮殿の門前に立っていた。
今日の夜会――父の命に従い、義務として参加する晩餐会。
母の教え通りに背筋を伸ばし、微笑を作る。だが、胸の奥では小さな反抗心がざわついていた。
——私の存在って、ただの政治の駒なのかしら
ため息が緊張と捉えたのか、侍女がそっと手を添えて支える。
「セラフィナ様、落ち着いて。父上もお喜びになります」
悪気のない励ましが、心に染みを一つ作ることを侍女は知らない。わかっている、と小さく頷き、深呼吸をする。
宮殿の大階段を上ると、煌びやかなシャンデリアが天井から光を落とし、舞踏室の奥まで広がる赤い絨毯が足元を包む。
貴族たちの笑い声、ささやき声、微かな香水の匂い――全てが豪華だが、息を詰まらせる圧に変わる。
父は正装のまま立ち、近くの伯爵に軽く会釈を交わしている。
母はその美しい姿で周囲の目を引く。
その二人の間で、セラフィナはまるで観賞用の人形のように、静かに立っているしかなかった。
貴族特有の思惑が渦巻く社交界。
顔に隙のない微笑みを浮かべ、彼女は舞踏室を見渡す。
豪華なドレスに身を包む女性たち、輝く宝石を纏った男性たち――誰もが自分を見ているようで、自由はどこにもない。
舞踏室の煌びやかな光と音楽が遠くに響く中、セラフィナは小さく息を吐いた。
胸の奥はまだ重く、笑顔を作るのも疲れている。
「少し、外の空気を——」
心の中で呟き、手元のトレイにあった飲み物を取るふりをした。
侍女も護衛も彼女の行動に気づかない。
両親は隣で伯爵や王族たちと話に夢中だ。
この一瞬の隙に、セラフィナは舞踏室の外へと歩を進めた。
月光が淡く照らし、薔薇と噴水が静かに揺れる。
その冷たい空気に触れ、胸の重さが少しだけ緩む——。




